「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げるユカイ工学は、“妄想”から生まれたユニークな製品で国内外から注目を集めている。「甘噛みハムハム」、「Qoobo(クーボ)」、「猫舌ふーふー」など、暮らしに笑顔と癒やしをもたらすヒット商品の裏には、自由な発想と実践が息づく企業文化があった。アイデアを形にし、ヒットを生み出すプロセスは、技術やアイデアを持つ多くの読者が気になるところだろう。今回RoboStep編集部は、代表取締役 CEO 青木 俊介氏、取締役 CMO 冨永 翼 氏へのインタビューを実施。ユカイ工学流 ものづくりの舞台裏に迫った。(文=RoboStep編集部)
ユカイ工学株式会社(以下、敬称略)は、2011年設立のロボティクスベンチャー。東京・新宿を拠点に、社員約30名という規模ながら、個性あふれるプロダクトを次々と生み出してきた。「ロボティクスで、世界をユカイに。」を企業理念に掲げ、単なる便利さテクノロジーの最新性よりも“人に寄り添うこと”を最優先にしているのが特徴だ。
これまでに同社が開発したのは、魅惑の「甘噛み」をいつでも味わうことができるロボット「甘噛みハムハム」、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」、熱いものを冷ます小さなロボット「猫舌ふーふー」など。どれも機能性ではなく“感情を動かす”ことに主軸を置いており、思わず笑ってしまうようなアイデアが世界中で共感を呼んでいる。
熱い食べものや飲みものを冷ますことに特化した小さなロボット「猫舌ふーふー」は現在クラウドファンディングが実施中だ
ユカイ工学のものづくりの起点となるのが、毎週開催されている社内アイデア会議「妄想会」だ。ここでは、エンジニアやマーケティング担当はもちろん、営業や総務、人事、経理など、部署に関係なく誰でも参加できる。毎回異なるテーマに対して、「質より量」「否定しない」というルールのもと、どんな突飛な案でも自由に出し合える“心理的安全性の高い場”として設計されている。
クライアントの課題や新しいプロジェクトについてなど、議論するテーマは様々。「経理担当者がイラストを描いてアイデアを出したり、妄想会をきっかけに人事担当者が先方のプレゼンの冒頭に同席したりすることもあるんですよ。クライアントも驚きますよね(笑)」と冨永氏は語る。
ユカイ工学 取締役 CMO マーケティング統括 冨永 翼 氏
毎年変わるお題に対し、アイデアを“本気で形にする”場が、年1回の社内イベント「メイカソン」だ。全社員が5~6人の混成チームに分かれ、約2~3ヶ月かけて企画・試作・プレゼンを行う。もともとは社員旅行の延長として始まった取り組みだが、現在では「Qoobo」や「甘噛みハムハム」「猫舌ふーふー」など、多くのヒット商品を生み出す場となっている。
ヒット商品「Qoobo」も元々は手書きのイメージスケッチから生まれた
「妄想会」はアイデアの発散を、「メイカソン」は実践と試作の場を担う役割だ。チームは職種や役職を超えて編成されるため、ふだん交わらない社員同士が、異なる視点でプロダクトに向き合う。こうして、技術だけでは補えない“人の気持ち”が形になるのだ。
「ペルソナの設定なども細かく決めないことが多いんです。まず大事なのは熱量。『自分が欲しい』という気持ちです。自分が欲しくて、会社の仲間も同じように欲しい、となれば、世の中に必ず欲しい人はいます。ヒット商品の源泉はまず妄想した本人の熱量に他なりません」(青木氏)
ユカイ工学 代表取締役 CEO 青木 俊介 氏
2024年3月現在、販売数6万匹を突破。今でこそ、ユカイ工学のヒット商品の一つとなった「甘噛みハムハム」も、アイデア段階では社内で評価が高かったわけではなかった。アイデアを出したのは冨永氏だ。