インフラの老朽化が進む中、高所や危険な場所での補修作業は作業員に大きな負担を強いている。足場を組み、人が直接手を下すという従来のアプローチは、コストと安全性の両面で限界を迎えつつある。この過酷な現場の課題を、ドローンとスプレー缶の融合が解決へと導こうとしている。老舗の包装容器メーカーが培ってきた知見がドローンの用途を大きく広げ、社会の安全を空から守り抜く新たな保守のスタイルを提示する。(文=RoboStep編集部)
2026年7月、東洋製罐グループホールディングス株式会社の連結子会社である東洋製罐株式会社は、東京ビッグサイトで開催された「第12回国際ドローン展」にて、ドローン用遠隔型スプレー缶噴射装置の新製品「SABOT-3 Block2」などを出展した。
(引用元:PR TIMES)
この装置をドローンに搭載することで、空中からのスプレー噴射が可能となる。シリコーン塗料を用いた屋根の雨漏り補修や、防錆剤やコンクリート面含浸材などによる軽補修、さらには忌避剤(動物や鳥を寄せ付けないための薬剤)を用いた鳥害対策など、用途に合わせてスプレー缶を交換するだけで幅広い作業に対応できる。これまで足場の設置や高所作業車が必要だった危険な場所でも、ドローンからの直接作業によって安全性の向上と大幅なコスト削減が期待する。
(引用元:PR TIMES)
さらに、新モデルはソフトウエアを改良し、最新の産業用ドローン「DJI Matrice 400」だけでなく従来機の「Matrice 300/350 RTK」でも利用可能なマルチプラットフォームに対応。カメラ性能や操作性も向上した新しい製品として、2026年7月より販売を開始している。
(引用元:PR TIMES)
また、会場ではクマ被害対策向けに開発中のオプション「鉞(マサカリ)」も展示され、注目を集めた。SABOTに市販のクマよけスプレーを搭載し、可動式ノズルとカメラを活用して安全な距離からクマを追い払ったり、カラーマーキングによる個体識別を行ったりする用途を想定している。今年度は自治体などと実証実験を進め、早期の社会実装を目指す。開発中の多目的伸縮装置なども展示され、ドローンの活用範囲を大きく広げる内容となった。
これまでインフラ点検におけるドローンの活用は、主に高所や危険箇所の画像を撮影し、異常を発見することにとどまっていた。そのため、異常を見つけた後の補修作業には、依然として人間が足場を組んで直接アプローチする必要があった。この「点検から作業への溝」を埋めたのが、スプレー缶という物理的な手段である。ドローンに「塗料の吹き付け」や「忌避剤の噴射」といった物理的な作業機能が追加されることで、危険な現場における無人化の領域は飛躍的に広がっていくだろう。
特筆すべきは、この画期的なソリューションを開発したのが、ロボットメーカーではなく包装容器メーカーである点だ。「人類の幸福繁栄に貢献する」という同社の使命が、容器づくりにとどまらず、ドローンという最新テクノロジーと融合することで、社会インフラを守る新たな仕組みづくりへと拡張している。スプレー缶というプロダクトの特性を知り尽くしているからこそ、空中での安定した噴射や缶の容易な交換といった、実務に即したデバイスを生み出すことができたのだ。
ビジネスにおいて、自社の既存の強みをいかに新しいプラットフォームに載せて展開するかは常に重要なテーマとなる。スプレー缶を空へ飛ばすという斬新な発想は、成熟した産業であっても、テクノロジーとの掛け合わせ次第で未開拓の市場を切り拓けるという確かな証左と言えるだろう。
老朽化するインフラの補修や、頻発するクマの被害など、地域社会が抱える課題は複雑化している。自社のコア技術を柔軟に応用し、現場の安全を確保するこのアプローチが、持続可能な社会基盤を構築するための原動力となっていくはずだ。