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2026.08.06

遠隔就労の現在地と、現場実装のリアル【連載】「自由に働ける社会を「遠隔就労」がつくる!」(第4回)

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労働力不足が深刻化する中、場所や時間の制約を受けない「遠隔就労」は、理想から社会実装のフェーズへと入っている。2035年までに「すべての仕事で遠隔就労を当たり前の選択肢にする」というビジョンを掲げる遠隔就労研究会(運営:電通総研、竹中工務店、ジザイエ、YUASA)は、これまで100社以上の企業を巻き込み、全国各地で実証実験を重ねてきた。
発足から2年の節目を迎えた今回のテーマは「遠隔就労の現在地と、現場実装のリアル」。この2年で、遠隔からの操作技術や個別プロジェクトでの実証(PoC)は一定の成果を収めた。その一方で、実際の現場への本格的な導入や多拠点展開を進めるにあたっては、ROI(投資対効果)、現場の安全性、業務設計、人材教育といった実務的なボトルネックに直面している。今回は綺麗事ではない「実務の壁と突破口」を掘り下げ、社会実装を進めるための議論をレポートする。(文=RoboStep編集部)

安全に働ける現場をつくる、遠隔プラットフォーム

遠隔就労の基盤となるインフラを開発する株式会社ジザイエ。同社が推進しているのがリモート就労プラットフォーム「JIZAINEE(ジザイニー)」である。現場仕事と遠隔就労者をマッチングする人材サービスで、現場のDX支援ツールと組み合わせることで、物理的な移動が困難な人材でも、パソコンやスマートフォンを通じて遠隔地から現場作業に就労できる仕組みを実現している。

最大の強みは、独自開発の超高速映像圧縮伝送技術にある。不安定な通信環境下でも、95%のデータ量を削減しつつ、低遅延かつ高画質な映像伝送を可能にする。この技術は、すでに竹中工務店のタワークレーン遠隔操作システム「TawaRemo」や、アクティオのクラウドカメラなどで社会実装されており、現場の安全性と生産性の向上に大きく寄与している。

さらに注目すべきは、映像理解AIエージェント「JizaiAgents(ジザイエージェンツ)」との連携だ。AIが自律的に危険エリアへの侵入などを検知・通知することで、人間は例外的な事態への対応や高度な判断に集中できる。

株式会社ジザイエ 代表取締役CEO 中川 純希 氏は「すべての人が時空を超えて誰もが働ける世界」の実現を見据える。身体的制約や居住地、さらには国境をも超えて現場に参画できる世界。技術の進展により、就労を諦めざるを得なかった人々に新たな道が拓かれようとしている。

株式会社ジザイエ 代表取締役CEO 中川 純希 氏

ロボット協働社会の実現に向け、世界の潮流を知る

「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループの中で、業務プロセスの最適化、現場運用を総合的に支援するのがパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社だ。同社は労働現場にRX(ロボティクスによるDX)を実現することで、業務の多拠点管理や遠隔就労を可能にする「RSI(ロボットサービスインテグレーション)」を提唱する。単なるロボット導入や運用にとどまらず、「どの業務をロボットに任せ、どの業務を人が行うべきか」といった業務全体の設計から始まり、プラットフォーム開発支援や実証実験、持続性・成長をサポートするアウトプット支援等体制を整えることで、初めてロボティクスに取り組む企業も安心して推進できる体制を整えている。

某流通サービス約300店舗におけるロボットの運用業務構築支援など、実用性を重視した伴走型モデルで社会実装を加速させている。

同社のビジネストランスフォーメーション事業本部 黒住 光宏氏は2026年1月に米国で開催された「CES 2026」の視察レポートも共有。そこで強調されたのが、中国企業の圧倒的な進化速度「China speed」と、ロボットが研究対象から実用フェーズへと移行した現状だ。「CESで発表されたヒューマノイドロボットは、⼿先と腰の可動が印象的でした。フィジカルAIの中でのフィードバックで⼿の器⽤さは想定していましたが、腰の可動を担保することで例えば給仕や細部の作業がかなり⼈間の⽇常動作に近づいた印象です。これは個⼈的には1番の驚きであり納得感がありました。⼀⽅でフィジカルAIの先導役としてのNVIDIAの存在感は圧倒的で、むこう10年の安定感と競争⼒を感じました」(黒住氏)

(引用:黒住氏投影資料)韓国LG社のロボット。⼿と腰の稼働で高い自由度を誇る

(引用:黒住氏投影資料)中国のスタートアップ各社のロボット

「⽣成AIやフィジカルAIの普及で、技術的難易度や導⼊実装までの時間とコストが短縮していく中、ロボティクスをPC等と同じインフラとして現場の微調整を担うディレクションを担う人間は不可欠」と黒住氏は指摘する。テクノロジーを使いこなし、いかに新しい雇用を創出するか。人材活用のプロとしての視点が、遠隔就労を単なる省力化を超えた「はたらいて、笑おう。」の実現へとつなげていく。

パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社 ビジネストランスフォーメーション事業本部 DX統括部 プロセスサイエンス部 黒住 光宏氏

「100点満点」を目指さない自動化

日本の製造業における産業用ロボットの利用率は、わずか4%。この驚くべき実態の背景には、失敗を許さない「100点満点の完全自動化」という意識があると、リモートロボティクス株式会社 代表取締役社長 田中 宏和氏は指摘する。田中氏は「100点を取るための労力は、80点を取るための労力の数倍に達する。完璧を目指すあまり導入ハードルが高まり、スケールを難しくしている」と語る。そこで提唱するのが、80点の自動化に、人間によるリモート操作を組み合わせるフローだ。
「遠隔就労において、現場の機器にエラーが起きた際の認知はとても重要です。ただ、現場によってはエラー認知を担当者の⽬視か、現場からの連絡に頼っています。そこで⼿元の端末へのプッシュ通知で把握し、現場映像を用いてエラーを即時復旧することがポイントです。もちろん、直観的な遠隔操作で専⾨家以外でもロボットの復旧が可能な体制づくりも必要となります」(田中氏)。これらを実現するために、同社ではロボットや設備の遠隔操作サービス「Remolink(リモリンク)」を提供。100点満点の自動化を目指すのではなく、失敗を前提に素早く回復できる仕組みを構築する。

この手法は導入コストを約9割削減し、エラーからの復旧時間(MTTR)を30分から1分へと劇的に短縮させる。事例としては、AIでは判断が難しい事象を熟練者が遠隔で即座に判断するケースや、障がいのある方が梱包ロボットを遠隔操作するケースなどが紹介された。この仕組みは人手不足解消だけでなく、新たな「働ける場」の創出という大きな社会的価値も生み出している。
現代にはまだまだ未活用の労働力が多く存在する。場所や時間に縛られない働き方を提供することで「すべての⼈が参加できるリモート社会」を同社は目指している。

リモートロボティクス株式会社 代表取締役社長 田中 宏和氏

身体性と感性を共有する次世代の働き方

遠隔就労の議論において、ヒューマンセントリック(人間中心設計)について語ったのは、広島大学大学院 先進理工系科学研究科 教授 栗田 雄一氏。これは技術やシステムの中心に、人間のニーズ・能力・行動を置き、使いやすさと効果を最大化する設計思想、つまり人間中心の設計という思想だ。
ただ、ヒューマンセントリックには逆風が吹いている。最低賃金上昇・グローバル競争によって人を中心に置くコストが増大している状況に加え、少子高齢化で熟練の技術者の総数も減っている。

そこへのソリューションとなる技術の一つが、人間の「感性」や「触感」をデジタル化して伝えるデジタルハプティクスだ。これは、製品の表面の質感や手触りをデータ化し、3D空間でリアルに再現するものだ。例えば、自動車のドアハンドルの操作感や素材の触り心地を、物理的な試作を待たずに遠隔地から評価・検討できるようになる。

こうした技術の進展は、これまで対面での微細な感覚調整が不可欠だったデザインや職人の技術伝承といった領域でも、遠隔就労が可能になることを示唆するものだ。栗田氏は、デジタル技術を介して誰もが「体験」を共有し、身体の制約を超えていきいきと社会参画できる未来を実装しようとしている。

広島大学大学院 先進理工系科学研究科 教授 栗田 雄一氏

産官学が連携する新たな協議会の発足へ

AIロボティクスの社会実装に向けた戦略的な展望を語ったのは、株式会社三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 主任研究員 山田 賢杜氏だ。「日本の生産年齢人口が急減する中、物流やサービス分野での労働力不足はもはやマクロでは解決できないフェーズにある」と山田氏は警鐘を鳴らす。政府も2026年3月に「AIロボティクス戦略」を公開し、特にロボットのマニピュレーション(把持・操作)技術を重要視している。こうした潮流を受け、同社は電通総研らと共に「日本ロボット・マニピュレーション応用推進協議会(仮称)」の立ち上げを準備中だ。技術開発のみならず、実証実験、スタートアップ連携、さらには制度改革に向けた関係機関との対話までを一貫して行い、ロボット活用の「成功事例」を早期に作り出すことを目指している。

山田氏はこう語る。「協議会が目指すもののひとつに、ロボットの社会実装における『制度・政策の改革』があります。既存ルールの課題や規制の不整合により社会実装が制約されているため、関係機関との対話による新たなルール作りや制約の緩和が必要となっています。その基盤として到達目標・過程とステークホルダーを明確化した導入シナリオ・ロードマップの策定が必要です」(山田氏)

本研究会のテーマとも深く関連する「遠隔就労」をテーマとしたワーキンググループの設置検討についても言及した。産官学が連携するプラットフォームを介して、現場実装の障壁となるルール作りや技術的課題の解決を加速させていく。社会課題解決の「当事者」として、テクノロジーをいかに社会に実装し、事業化・運用へとつなげていくか。その確かな仕組みづくりが、始まろうとしている。

株式会社三菱総合研究所 CR部 未来共創グループ 主任研究員 山田 賢杜氏

日本流ホスピタリティを守るための役割分担

会の締めくくりとなるディスカッションでは、技術をいかに「手段」として現場に馴染ませるか、より具体的な役割分担について議論が深まった。まず、AIロボットに万能な「汎用性」を求めるあまり、実装が遠のいている現状への危機感が示された。何でもできるロボットを目指すより、物理世界での滑らかな動きや触感といった日本独自の強みを、特定の作業にどう標準化させるかが問われた。

議論は「100%の自動化」から「人間がやりたくない作業(苦役)の補完」へと発展した。例えば、洗濯物を畳むという高度で複雑な全自動化を目指すよりも、身体的負担の大きい「洗濯機への衣類の出し入れ」や「運搬」だけをロボットに任せる。対人サービスにおいても同様だ。結婚式場でロボットが主役のように配膳することは「おもてなし」の温度感を損なう懸念がある。ゲストの目に触れない裏方の運搬はロボットが担い、ゲストとの心の交流は人間が担う。こうした人間の「感性」を軸にした明確な切り分けこそが、現場に受け入れられる鍵となる。

さらに、社会実装を加速させる現実的な解として「レトロフィット」の有効性が強調された。レトロフィットとは、既存の設備や機器に最新の技術や部品を後付けし、性能や機能を向上させる改造のこと。3,000万円の最新自動トラクターを導入するのではなく、地方に現存する安価な中古建機に、数百万円の遠隔操作キットを後付けする。こうした既存資産の活用こそが、地方の担い手不足を解消し、誰にでも働く機会を創出する最短ルートとなる。

「単なる効率化ではなく、働き手が長く、誇りを持って活躍できる豊かな社会を築く」。栗田教授が説く人間中心の設計思想は、経営層への強いメッセージとなった。2026年12月には、新たに展示会「リモートオペレーションEXPO」が開催されるなど、遠隔就労の浸透には追い風が吹いている。本研究会は国や企業を巻き込むプラットフォームとして、清掃や物流など多角的なフィールドでの実証と社会実装をさらに加速させていく。

【研究会より】

本研究会は、社会課題を解決するために遠隔就労という新しい働き方に挑戦してきました。サービスロボットの全自動化がいかに難しいかを実感する中で、気づいたのは「人手不足イコール自動化ではない」ということです。本当に働きたいのに働けない人々が存在し、その力を活かすことができないかと考えたとき、遠隔就労が一つの答えになると思いました。

今回で5回目となる開催では、製造業、農業、オペレーション、自治体など様々なフィールドで実証を重ねてきました。重要なのはフィールド視点、技術視点、オペレーション視点のバランスです。2024年から2025年にかけて、東京から広島への遠隔農業支援や、障害者による遠隔ロボット操作など、多くの事例が生まれています。

勉強会だけでなく、実装のノウハウ蓄積が大切です。本日の登壇者の皆さん、参加者の皆さんとの連携を通じ、人を通じたデータ取得が日本の勝ち筋だと確信しています。新しい技術や課題、期待することなど、ぜひ皆さんの声をお聞かせください。共に「誰もが働ける社会」の実現に向かって進んでいきたいと思います。(竹中工務店 浅井隆博 氏)

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