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2026.08.03

ロボットと餅をつく。伝統を守る協調の形

振り下ろされる重い杵と、素早く餅を返す手。わずかなタイミングのずれが大事故につながる餅つきは、互いの呼吸を読み合う高度な信頼関係の結晶だ。いま、この熟練の協調作業にヒューマノイドロボットが挑んでいる。人間の仕事を単に肩代わりするのではなく、人の動きに寄り添い、共に働く。ハッカソンで高く評価された新たなアプローチは、失われつつある日本の職人技を次世代へつなぐ希望となるのか。(文=RoboStep編集部)

杵と手の安全な交差。ハッカソンを制した人機協調

2026年5月、AI開発を専門とするスタートアップのBlack AI株式会社は、渋谷で開催されたヒューマノイドハッカソン「HUMANOID HACK TOKYO」において、人間とロボットによる協調餅つきのデモを披露し、見事に優勝を飾った。

(引用元:PR TIMES

このハッカソンは、建設や物流分野でのヒューマノイドロボットによる労働力提供を目指すOrboh社が主催し、日本最大級の研究施設「GMOヒューマノイドラボ」を舞台に行われた。Black AIが題材に選んだ餅つきは、一人が杵を振り下ろし、もう一人が餅を返すという、極めて難易度の高い「人機協調(Human-Robot Collaboration)」を要求される作業だ。

(引用元:PR TIMES

デモでは、人間が臼の中の餅を返す動作を行う際、ヒューマノイドロボットに搭載されたカメラが人間の手の位置をリアルタイムに認識する。手が臼の中にある間は杵を止め、安全な状態になった瞬間に杵を力強く振り下ろす。単にプログラムされた動作を繰り返すのではなく、人間の状態を理解しながら動作のタイミングを合わせる協調制御を実現に成功した。

(引用元:PR TIMES

特筆すべきは、専用のモーションキャプチャ装置を一切使わずにこの動作を実現した点だ。熟練者の動画をAIエージェントが解析し、3D姿勢からロボットのモーションを生成。さらにシミュレーション上での強化学習を繰り返し、立ち姿勢や正面打ちなど複数の構えを習得させた。加えて、餅つき特有の重い杵を扱うため、専用のハンドも3Dプリンターで自作するなど、ソフトとハードの両面で高度な技術力が発揮されている。

共に働き、技を学ぶ。技能継承の新たなアプローチ

自動化技術が高度に発達する現代において、ロボットは長らく「人間の労働をいかに代替し、省人化するか」という視点で開発が進められてきた。しかし、日本の産業界が抱える課題を深く掘り下げていくと、機械には到底置き換えられない暗黙知や職人技が、少子高齢化によって失われつつあるという現実に行き当たる。

Black AIが提示した餅つきのデモは、この課題に対する鮮やかなカウンターアプローチとなっている。彼らが着目したのは、人間を排除して効率を追求するロボットではなく、人間の横に立ち、共に働きながら技能を受け継いでいくロボットの可能性だ。

熟練の職人が長い年月をかけて身体に刻み込んできた微妙な力加減やタイミングは、マニュアル化することが難しい。だが、カメラやセンサーを通じてその動きを解析し、AIによって「再現可能なモーション資産」としてデジタル空間に保存できればどうだろうか。ヒューマノイドロボットは、人間から直接技術を学ぶ見習い職人のように、貴重な技を次世代へと受け継ぐ確かな器となるだろう。

現場の作業はすべてが定型化されているわけではなく、周囲の人間との阿吽の呼吸が必要な場面も多い。ロボットが人間の意図や状態を読み取り、安全に動作を同調させることができれば、伝統工芸だけでなく、製造や介護、建設など、人間とロボットが密接に関わるあらゆる現場の景色は大きく変化するはずだ。

人間とロボットが臼を囲み、リズミカルに杵を打ち下ろす。その微笑ましい風景の裏側には、失われゆく日本の現場力を救い出し、人間とテクノロジーが共生するための確固たる意志が宿っている。ロボットが人間のパートナーとして技を学び、社会の持続可能性を支える未来が、確かな輪郭を持って動き出している。