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2026.07.14

技術より運用。現場が育てるフィジカルAI

導入されたロボットが、いつの間にか壁際で埃を被っている。そんな光景が、これまでのサービスロボット導入の裏側には少なからず存在していた。どれほど高度な技術を積み込んでも、現場の複雑な業務フローに溶け込めなければ、それは単なる置物になってしまう。ロボットが真に社会のインフラとして機能するために求められているのは、スペックの競い合いではなく、現場での使い倒しを前提とした“運用”の再設計なのだ。
2026年7月、アイリスオーヤマ株式会社は同社初となるソフトウエア・ハードウエア完全内製のDX清掃ロボット「JILBY(ジルビー)」を発売した。これに先駆け、6月26日に東京で開催されたトークセッションでは、業界シェア首位を走る同社と開発を担う株式会社シンクロボの両雄が、ロボット実装における現場の課題とその突破口を語り合った。各地の現場で稼働を始めたこの機体は、フィジカルAI時代の新たな清掃のあり方を提示している。(文=RoboStep編集部)

「JILBY」が拓く双方向の対話。完全内製が実現した現場最適化


(引用元:PR TIMES

2026年7月1日に市場投入された「JILBY」は、床面の集塵清掃を自動で行う法人向けの最新鋭機である。最大の特徴は、アイリスグループのシンクロボがソフトウエア開発を担い、自社の大連工場 でハードウエアを製造するという垂直統合型の完全内製モデルを実現したことにある。これにより、現場のフィードバックを迅速に製品へ反映させる体制が整った。


(引用元:PR TIMES

技術的な特徴としては、NTT西日本グループが提供する「AIロボティクスプラットフォーム」との連携が挙げられる。これにより、タブレットやスマートフォンを通じて、ユーザーとロボットがテキストや音声で意思疎通を図る双方向のコミュニケーションが可能となった。蓄積された清掃データに基づき、AIエージェントが最適なルートや頻度、時間帯を自ら提案する仕組みは、清掃業務を「単なる自動化」から「AIによる最適化」へと引き上げるものだといえる。

(引用元:PR TIMES

また、アイリスオーヤマが家電事業で培ってきたノウハウも随所に活かされている。集塵用の紙パックの交換しやすさや、清掃中の稼働音を抑えた静音モード、さらにはメンテナンス性を重視した設計などは、実際にロボットを扱う現場作業者の負担を最小限に抑えるための配慮だ。

清掃完了後に自動で充電ステーションに帰還する機能を含め、これらはすべて「現場で活用され続けること」を最優先に設計されている。サービスロボットの累計導入社数7,000社、累計出荷台数25,000台を超える実績を持つ同社の知見が、この完全内製機に凝縮されているといえるだろう。

「導入」から「定着」へ。人とロボットが共創する品質の再定義

今回のJILBYの発売と、それに伴うトークセッションが物語るのは、サービスロボットの価値が「技術の高さ」ではなく「運用の洗練」によって決まるという構造的な転換だ。

アイリスオーヤマ株式会社 執行役員 ロボティクス事業本部 本部長 吉田豊氏が指摘したように、ロボットにおいて「導入と定着は別の話」である。どれほど優れた機体であっても、現場での運用設計が不十分であれば、その真価は発揮されない。同社がサブスクリプションモデルを採用し、導入後のアフターフォローまで一貫して伴走する体制を敷いているのは、ロボットを単なる売り切り型の商品ではなく、現場の課題を解決し続けるサービスとして定義しているからに他ならない。

また、株式会社シンクロボ 代表取締役社長 小倉崇氏が語った「ロボットは万能ではない」という前提も極めて重要だ。清掃の現場には、経験に基づく気付きや判断といった暗黙知が数多く存在する。床の定期清掃という定型業務をロボットが担い、人間は仕上げや品質確認といった業務に集中する。この明確な役割分担こそが、深刻な人手不足に対する現実的な解となるだろう。

日本のサービスロボットは「試す」段階を終え、いかに現場に「根付かせるか」という定着のフェーズへと進んだ。アイリスオーヤマが提示したJILBYとフィジカルAIの融合は、日本市場で鍛えられた高い清掃品質を、グローバルな競争力へと変える可能性を秘めている。AIが現場を学習し、人間がそれを監督する。この新しい共生の形が定着することで、停滞する国内のサービス産業に新たな流動性をもたらす一助となることが期待される。