労働力不足が深刻化するインフラや設備の点検現場において、ドローンの活用は不可欠な選択肢となった。しかし、人間が現地へ赴くことなく、離れた場所から機体を操る「遠隔操縦」には、無線通信特有の「映像の遅延と揺らぎ」が起きるという障壁がある。わずかな映像の乱れが接触事故のリスクを生むため、通信の不安定さを克服しなければドローンは人間の手足を代替できない。
この壁を、光と無線の連携によって打ち破る技術が実証された。NTTら3社が提示した新たな伝送技術は、危険な現場の「完全なる遠隔化」への確かな道筋を示す。(文=RoboStep編集部)
2026年5月、通信・ネットワーク事業を牽引するNTT株式会社と、株式会社エヌ・ティ・ティ エムイー、株式会社NTT e-Drone Technologyの3社は、無線区間で発生する遅延揺らぎを低減し、映像品質を安定化する技術を開発したと発表した。さらに約60キロメートル離れた拠点間で遠隔ドローン操縦環境を構築し、その有効性を実証することに成功している。
(引用元:PR TIMES)
実証実験は、福島県南相馬市のロボットテストフィールドにドローンを配置し、郡山市から操縦を行う構成で行われた。2拠点をフレッツVPNで接続し、無線区間にはローカル5Gを利用している。通常、無線の通信環境では、電波状況に応じた再送制御などによりパケットの到達時間に「揺らぎ」が生じ、これが映像の乱れに直結する。無線基地局単体でこの揺らぎに対処することは難しい。
(引用元:PR TIMES)
そこで今回開発された技術は、無線基地局からトラヒック情報を随時収集して映像レートを正確に分析し、光ネットワーク装置側でフレーム間隔を補正する「光無線連携制御」を採用した。映像レートに合わせてパケットの送信間隔を整えることで、無線区間での遅延揺らぎを吸収し、映像品質を安定化させる。
(引用元:PR TIMES)
結果として、高負荷な映像伝送時に発生していた映像乱れを、全体の12%から5%まで低減させた。さらに南相馬の現場での「目視操作」で平均35秒を要したコースを、約60キロメートル離れた郡山からの「遠隔操作」でも平均32秒で完了できたという。遠隔地からでも現地での目視と遜色のない、精密で安全な操縦が可能であることを明確に証明している。
この技術がロボティクス全般にもたらす本質的な価値は、操縦者の「心理的安全性の担保」と「空間的制約からの解放」にある。
建設現場や工場内など、日々状況が変わり狭い空間を飛ぶ現場では、あらかじめプログラムされた自動飛行ではなく、人間の臨機応変な判断と精密な操縦が不可欠だ。映像が途切れないという絶対的な安心感は、操縦者のストレスを劇的に引き下げ、長時間の安全な遠隔作業を可能にする。
さらに遠隔操縦が「実用レベル」に到達したことは、熟練技術者の働き方を根本から変革するポテンシャルを秘めている。これまで操縦のプロフェッショナルは、1日の大半を現場への移動時間に費やしていた。しかし安定した映像伝送インフラが整えば、一人の熟練者がオフィスにいながら、午前は北海道の点検、午後は九州の建設現場の確認といったように、全国の現場を横断的に担当できるようになる。
これはドローンの操縦にとどまらず、遠隔で操作される無人建機やロボットアームなど、物理世界に干渉するすべてのシステムで求められる重要な知見となる。
労働力不足という構造的な課題に対し、私たちはもはや「人を増やす」ことではなく、「一人のスキルをいかに遠くへ、瞬時に届けるか」というアプローチで立ち向かわなければならない。光と無線の融合技術は、人間の能力をデジタルネットワークに乗せて拡張し、どこへでも届けるための強固なインフラとなっていくはずだ。