企業版ふるさと納税を活用したサービスロボット導入が、地方自治体で広がっている。配膳・案内・防災支援まで担うロボット「Mars」を提供するLien Trade株式会社と、全国保守を担うJBサービス株式会社。両社に共通するのは、ロボット導入の本質を「売った瞬間ではなく、動き続けている状態」に置く視点だった。シリーズ4回目は自治体導入の舞台裏と、アフターサービスが果たす役割に迫った。(文=RoboStep編集部)
連載第1回:「アフターサービスが競争力を決める時代」
連載第2回:「【対談】保守サービスが果たすべき新しい価値とは?」
連載第3回:「【対談】イネーブリングが導く新たな価値とは」
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Lien Tradeがロボット事業を始めたきっかけは、コロナ禍での衛生用品不足だった。中国企業との取引基盤を活かして物資を輸入する中で、同社は「消毒用ロボット」に出会う。だが、中国製ロボットをそのまま日本市場に投入する選択肢はなかった。Lien Trade株式会社 代表取締役 高野 亮亮氏は、当時をこう振り返る。
Lien Trade株式会社 代表取締役 高野 亮亮氏
「海外で売れているロボットを持ち込むのではなく、日本の現場で使い続けられるロボットにする必要がありました」(高野氏)
自治体や公共施設では、情報管理・セキュリティ・運用責任など、商業施設以上に厳しい条件が求められる。Lien TradeはNEC(日本電気株式会社)と協業し、ソフトウェア設計からサーバー構成まで再検討。単なる輸入ではなく、「日本仕様に再設計する」という戦略をとった。
Marsは配膳のみならず、案内・広告投影・物資搬送まで担う汎用性を持ち、RGBDカメラによる360度認識や複数台協調走行など、自治体施設での実用性を高める機能が搭載された。
AIロボットMarsは「⾃動⾛⾏⾞台」「多地点配送 」「多機協働」「AI接続」「AIクラウド」などの特徴をもつ
「機能を作るのではなく、“現場に根づく状態”を作りたかった。だから、日本仕様化は避けて通れませんでした」(高野氏)。Marsは、仕様変更ではなく「提供価値の再構築」から始まったロボットだった。
Marsの導入が全国へ広がった背景には、企業版ふるさと納税がある。大塚商会(株式会社大塚商会)が寄付を行い、寄付金を活用して自治体がロボットを導入するモデルだ。Lien Tradeはロボットの調達と日本仕様開発、大塚商会が自治体との接点づくりを担ってきた。
2023年度には約30台が導入され、そのうち10台は愛媛県宇和島市へ。市役所、博物館、幼稚園、病院、道の駅と、用途は多岐に及ぶ。
高野氏は、現場で起こった変化を語る。「ロボットは導入された瞬間、役割が決まるわけではありません。現場の声に応じて機能が育っていくんです。例えば和歌山県トルコ記念館では、来館者が多言語で案内してほしいという声から、トルコ語案内機能を追加しました」(高野氏)
自治体がMarsに期待するのは、配膳機能だけではない。防災現場での情報配信や案内、物資運搬など、「人が危険な環境に踏み込まずに済む」活用が進んでいる。
JBサービス サービス事業部 東日本第二サービス本部 第一サービス部 部長 山崎 勉氏は、その本質をこう示す。
「災害時だけ使うロボットは、いざというときに動かない。平時に使い倒しているから、緊急時に使えるんです」
JBサービス株式会社 サービス事業部 東日本第二サービス本部 第一サービス部 部長 山崎 勉 氏
ロボット導入の成否を分けるのはアフターサービスだ。Lien Tradeは事業初期、別の保守会社へ修理を依頼した経験がある。しかし、マニュアルにない事例という理由で対応を断られ、現場が止まる事態になった。
「販売会社として最も怖いのは、『直らないロボット』を納めてしまうことでした」と高野氏は言う。転機となったのが、JBサービスとの協業だった。
JBサービスは全国47都道府県に保守網を持ち、コールセンター・遠隔対応・現地保守までワンストップで提供する。マニュアル通りにしか動かさないのではなく、「止まっている間にも価値が失われている」という認識で復旧に向き合う。
山崎氏は保守の哲学を「私たちの役割は、ロボットを動かすことではありません。ロボットが動き続ける環境を守ることです」と語る。Lien TradeとJBサービスの協業は、ロボット導入を販売モデルから、価値提供モデルへ変えた。
「導入が目的なら、ロボットは定着しません。使い続けられる環境を作ることが、私たちの仕事です。自治体のロボット導入の知見も日々たまっていますし、今後も地域の仲間にロボットが加わるよう力を注いでいきます」(高野氏)

(連載第5回に続く)
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RoboStep連載第2回「保守サービスが果たすべき新しい価値とは?」
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RoboStep連載第3回「イネーブリングが導く新たな価値とは」
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