「これまでの労働環境を変えないと未来はない」そう語るのは、ロボットビジネス支援機構(RobiZy)で製造・構内物流部会長を務める松本 ひろし 氏だ。長くソニーに勤め、製造現場を知り、改善コンサルタントの顔も持つ松本氏は、繰り返し作業や単純作業こそロボット化すべきだと主張する。
合同会社インテリジェント・ロボット・テクノロジー Office Manager
松本 ひろし 氏
物流業界・病院給食で営業・管理全般を経験後、ソニーに入社。半導体製造のオペレーターからキャリアをスタートし設備のメンテナンスや管理者として出来高・安全の責任者に。ソニーの社内研修である「改善トレーナー14期」を卒業後、現場改善をテーマとしたソニー公認の社内講師となる。多くの改善トレーナーを輩出すると同時に社外の多数の企業コンサルティングも経験。現場改革研究所の代表も務める。
松本氏は、かつてソニーの半導体工場に勤務。半導体は「産業のコメ」と呼ばれ、 1986年には出荷額シェアで米国を逆転。いわゆるバブル景気に乗り、全世界の生産高の過半数を占めるまでになった。こうした波に乗り、ソニーでも早い段階からロボット導入への取り組みが進んでいた。今から30年以上前に、完全自動化を目指してAGV(無人搬送車)が導入されようとしていたという。システムに予約するだけで、ミスなく高効率で生産性が格段に向上する。
現場は期待感に溢れ、デモの際には歓声もあがった。しかしながら、最後までこのシステムが稼働することはなかったという。人が作業することが前提で設計されている装置にAGVが対応しきれなかったのだ。そんななか、元気に動くAGVがあったという。「RAMCOと呼ばれるレジストを剥離するアッシング装置が、現場で大活躍していました。機構がとてもシンプルで、30年経った今でもほぼ同じ機構の装置が活躍しています。ここで大切な気づきを得ました。シンプルな機構なロボットは壊れない、ということです」(松本氏)。
松本氏は、ロボットを活用し、自動化を実現するポイントは「どこまでシンプルなものにできるか」だと語る。「大企業であれば、人間の変わりに作業を行う産業用ロボットに多額の投資ができるかもしれません。ただ、本当にロボット(自動化)が必要なのは、中小企業の現場です。機構がシンプルなロボットであれば、壊れづらく運用の手間・コストも抑えられる。
何より、変化し続ける製造現場での汎用性も高い。ロボットと聞くと、完全自動化やヒューマノイドロボットなどをイメージするかもしれませんが、繰り返し作業や単純作業こそロボットで自動化すべきです。どの企業も人手不足という課題から逃れることはできません。『ロボット導入よりも、人を雇う方が安い』と 考えるのは近視眼的です。
昨今、飲食店では時給を上げても人が来てくれない問題があるそうです。製造現場においても他人事ではない。たくさん注文がきても、人がおらずものづくりができない。こうなってからは手遅れです。ロボット (自動化)は無関心にはなれますが、もはや無関係ではいられないのです」(松本氏)。
2024年にRobiZyで製造・構内物流部会を立ち上げた松本氏は、危機感を持ちながらこう語る。「製造や構内物流の自動化は、日本における喫緊の課題であると感じています。工場や倉庫内の物流もロボットにより省人化できる部分も多い。私は、国内最大級のロボット業界団体であるRobiZyだからこそ、こうした課題に取り組むべきであると考え、活動を始めました。部会ではロボットを導入したい企業と、ロボットを作りたい企業が互いに課題を持ち寄り、意見交換し、ロボットの社会実装を加速したいと考えています。その先には必ず日本産業の復活がある。RobiZyのなかでは歴史の浅い部会ではありますが、可能性は大きいですよ」(松本氏)。
労働人口の減少、技術の伝承、生産性・効率化、安全性の向上など、製造現場における課題は多い。RobiZy製造・構内物流部会から今後どのような事例が生まれるのか注目だ。