毎年10万から50万人―。農業就業人口は毎年急速に減少している。令和3年、農業従事者の平均年齢は68.4歳。※出典:農林水産省「農業構造動態調査」(2022年、2023年(概数値))
担い手の減少と高齢化は喫緊の課題だ。時代に求められているのがロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業。農作業における省力・軽労化を進め、新規就農者の確保や栽培技術力の継承などが期待されている。
今回編集部は、山形県で進むスマート農業プロジェクトを取材。そこで見たのは、決して巨額な投資ではなく、小さく始め、大きく育てる、持続可能なロボットとの共創にあった。
東京からおよそ360km。蔵王、月山など名峰に囲まれ、裾野には内陸盆地、庄内平野に日本三大急流の一つ最上川が流れる山形県。豊かな自然の宝庫で、米、桃やさくらんぼなど果樹、野菜など多彩な農産物はそのほとんどが全国トップレベルの品質を誇る。
農業が盛んな山形で、スマート農業を推進しているのが、ビジネスソリューションパートナーズが運営する納屋ラボだ。特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)で農林水産部会長も務める佐々木 剛 氏は2019年に首都圏から山形県東根市に移住。自身が経営する会社も移転し、人とロボットが共生する社会の実現を目指し、取り組みをスタートさせた。
「いつか夫婦で移住をしたいと考え、さまざまな場所を旅してきましたが、最終的に行きついたのが山形県東根市でした。首都圏にもアクセスが良く、何より大好きな食が充実している。ちょうど移住するタイミングでRobiZyと出会い、スマート農業への取り組みを始めました」(佐々木氏)。
ビジネスソリューションパートナーズ合同会社 CEO /「納屋ラボ」企画・運営 /ロボットビジネス支援機構(RobiZy)農林水産部会 部会長 佐々木 剛 氏
農業就業人口の減少や高齢化は日本全体の喫緊の課題だが、山形においてもその傾向は変わらない。農業就業人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は5割を超え、今後急激に減少することが懸念されている。
日本の農業の現場では、依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減が重要な課題となっている。日本の農業は、作業量の割に収益が得られないなど、構造的な問題もあり、高度な技能を持つ農家も「後継者不足」に悩まされている。
そこで注目されているのがスマート農業だ。ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・軽労化・精密化や高品質生産の実現が期待される新たな農業で、新規就農者の確保や栽培技術力の継承等にも寄与すると期待される。だが、元々山形出身でもスマート農業のプロでもなかった佐々木氏は、活動当初、さまざまな苦労があったという。
「山形県に所縁のなかった私でしたので、最初は農家の皆様との関係づくりにとても苦労しました。ニーズを聞きにいっても、話を聞いていただけないこともありました。投資が必要なスマート農業は、農家さんにとっては『ドラマの世界で自分たちとは関係ない』と、自分ごとに捉えていない方も多かった。地域に求められる農業のあり方を農家さんとご一緒に考えていくために、農家さんが悩みを持ち寄り、気軽に話ができる場を作ろうと考え、 2021年4月にスマート農業コミュニティサロン『納屋ラボ』を設立しました」
山形に移住し活動を続ける佐々木氏。苦労しながらも、誰よりも思いは熱い
「納屋ラボ」は若い農業従事者にも気軽に立ち寄ってもらえるようお洒落で気取らない空間だ
カフェのようなオシャレで入りやすい雰囲気の「納屋ラボ」に、若い農家さんを中心に少しずつ集まるようになった。