社会のあらゆる場所で人と共に働き、時には遊び相手として共生するロボットたち。この状況の中で、ロボットと人間の望ましい関係性を探求する学問として注目を集めているのが「ロボット倫理学」です。
ロボット技術の発展とともに重要性を増しているロボット倫理学について、その基本的な考え方から現代社会における意義まで解説します。
ロボット倫理学(Robot Ethics/Roboethics)は、ロボットに関する倫理的問題を扱う、応用倫理学の一分野です。2000年にイタリアのロボット工学者ジャンマルコ・ヴェルジオによって提唱され、2004年には最初の国際会議が開催されるなど、21世紀に入って本格的に発展してきた新しい学問領域です。
研究対象となるのは、自律的な機械としてのロボットだけでなく、ドローンなどの遠隔操作される機械や、AIを搭載したソフトウェアエージェント、さらにはパワードスーツのような人間の能力を拡張する装置まで、幅広い技術を含んでいます。
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ロボット倫理学は、技術の発展に伴って生じる様々な倫理的な課題に取り組んでいます。
特に以下の3つは、現代社会において特に重要性が高いとされています。
ロボットが人間の生命や健康に直接関わる場面が増えています。例えば、手術支援ロボットや自動運転車の場合、誤作動が人命に関わる重大な事故につながる可能性があります。そのため、安全性の確保は最も重要な課題の一つです。また、事故が発生した場合の責任の所在も重要な論点となっています。
ロボットと人間の関係性をめぐる問題も、ロボット倫理学における重要なテーマの一つです。特に介護や教育の現場では、ロボットへの過度な依存や感情的な愛着が問題となる可能性があります。また、ロボットの外見や振る舞いが人間に与える心理的影響についても、慎重な検討が必要です。
多くのロボットはセンサーやカメラを搭載し、周囲の情報を収集します。このような情報収集が個人のプライバシーや自由に与える影響については、社会的な議論が続いています。また、収集したデータの管理や活用方法も重要な検討課題となっています。
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ロボット倫理学の特徴的な点は、単なる技術者の倫理規範にとどまらない、より広い視野を持っていることです。技術倫理やコンピューター倫理と重なる部分もありますが、その一方で、ロボットの「道徳性」という独自の問題領域も含んでいます。
例えば、ロボットに倫理的な判断をさせることは可能なのか、また望ましいのか。ロボットは真の道徳的行為者になりうるのか。さらには、高度な知性や感情を持つロボットが開発された場合、私たちはそのロボットを道徳的に扱う義務を負うのか。これらの問いは、従来の倫理学にはない新しい論点を提起しています。
ロボット技術の発展は、私たちの生活をより豊かで便利なものにする可能性を秘めています。しかし同時に、人類がこれまで経験したことのない倫理的な課題も生み出しています。
特に注目すべきは、ロボット倫理学が投げかける問いが、単にロボットについての問題にとどまらず、「人間とは何か」「道徳とは何か」という根源的な問いにもつながっている点です。自律的な判断を行うロボットの存在は、私たち人間の道徳や倫理のあり方について、改めて考える機会を提供しているとも言えます。
ロボットと人間が共生する社会の実現に向けて、技術開発と並行して、これらの倫理的な課題にも真摯に向き合っていく必要があります。ロボット倫理学は、その道筋を示す重要な指針となるはずです。