さまざまな展示会で見かける「サウザー」という運搬ロボット。どことなく他の運搬ロボットとは形も動きも違う。荷台と操縦用スティックのみという非常にシンプルな形状ながら、最大300kgの積載量と牽引目安600kgというパワーを持つ。そして数個のボタンを操作して誰でも動かせる。ロボット導入の煩雑なイメージを覆す筐体だ。まもなく発売10周年を迎えるサウザーは国内だけでなく15以上の国と地域で、工場や倉庫に限らずさまざまな現場で導入が進んでいる。
開発したのは、つくば市に本社を構える移動ロボットの専門メーカ、株式会社Doog(ドーグ)だ。サウザーの真の魅力は、導入が容易ながら柔軟なカスタマイズ性によって実現している高度な汎用性である。さまざまな企業が各事業領域において自由にソリューションを作って販売しているため、現場の数だけサウザーは形を変えるのだ。導入にあたって複数のサウザー関係社がタッグを組んでいることも注目に値する。ここではサウザーの販売導入体制や、その特徴的なビジネスモデルについて紹介したい。(文=RoboStep編集部)
ハイテク機器であるロボットの導入にあたり、ソリューション(課題解決策)を考えて、カスタマイズ開発から導入まで行うのはロボットメーカの仕事だと思っている方は多いのではないか。ただし、ロボットメーカに特注品を頼むと高額で長納期化することが想定される。ところが、サウザーはまったく異なる別のビジネスモデルなのだ。
Doog 管理部 部長の伊藤 茜 氏は「Doogは素体とも言える簡素なベースユニットを製造販売しています。実は各現場に出向いて要件をヒアリングして、運用・走行機能の策定やカスタマイズを仕立てることは基本的にやっていないんです」と語る。これを担当しているのはインテグレータ販売事業者と呼ばれる提携各社である。
株式会社Doog 管理部 部長 伊藤 茜 氏
「インテグレータ販売事業者というのは必ずしも技術者が居る開発会社に限りません。サウザーの走行機能の特性や、カスタマイズの組み合わせを熟知し、現場の要求に応じて適切なサウザーをエンドユーザに対して提案していただいています」と伊藤氏。つまり役割分担をしているのだ。また、カスタマイズのために必要なものは複数の周辺機器メーカや周辺システムメーカが供給している。これにより、実績のある機器の組み合わせでサウザーが完成する場合もあれば、特注品が必要な場合にも対応しやすいとのことだ。
直感操作できるスティックが現場に大好評
サウザーは高度なロボットながら、パズルを組むようにカスタマイズしやすく作り込まれているため、多くのインテグレータ販売事業者や周辺機器/システムメーカがサウザー関連事業に参画している。Doogはこの役割分担によって自社だけではリーチしきれない各業界や多数の現場対応についてパートナー企業の力を頼っているという訳だ。これにより現場ごとに多種多様なサウザーを生み出せるようになっている。各社がスムーズに連携できれば、より早く・安く・上手にロボットを導入できるというのがDoogの考えであり、ロボット業界においてユニークなアプローチだろう。
現場の要求に応じた機器追加で、姿を変えるサウザー
エンドユーザの1社である鴻池運輸株式会社の現場にサウザーが導入される際にも、複数社が連携した。インテグレータ販売事業者として株式会社千代田組がソリューションを取り纏め、周辺機器メーカーとして株式会社小山がサポートするという体制で、計4社が関わった。今回は、この事例紹介のために4社が一堂に会し、座談会が実現した。
現場導入の体制図。販売事業者とメーカが連携を取りユーザを支援していく。現場課題に応じて別の事業者やメーカに変更することも
鴻池運輸は従来までカゴ台車を人が押して荷物を運搬していた。その状況を見て、「この作業を人がやらなくても済むようになれば、その分を他の仕事に割り振れて今後の人手不足解消にも繋がる」と考えたのが、鴻池技術研究所イノベーションセンターで人手不足の課題解決に取り組んでいた、鴻池運輸 技術革新部 課長の鳥飼 一男 氏だ。
鳥飼氏が市場の運搬機器を調べ上げる中で、ひときわ目に留まったのがサウザーだ。実際に鳥飼氏がDoogに足を運び、サウザーに触れてみると「これなら、現場でもすぐに使いこなせるようになる」と直感したという。
鴻池運輸株式会社 技術革新部 課長 鳥飼 一男 氏
その感覚は正しかった。さまざまなシーンで省力化を実現するサウザーについて鳥飼氏はこう語る。「各現場によって仕事が異なりますし、鴻池運輸では多数の現場を抱えています。1つ1つの現場にピッタリ合う完成品を市場から見つけてくることはとても難しいです。サウザーは現場の事情や好みに合わせてカスタマイズできる点がとても良いですね。各現場の使い勝手にピッタリ合うものが簡単に用意できるのは助かります」(鳥飼氏)。
サウザーにはさまざまな周辺機器を追加することが可能だ。操作方法はボタンが良いのかタッチパネルがいいのか、電池容量は標準のままか増設などが必要か、荷台をカスタマイズして積載運搬するのか、専用金具を用意して牽引で運搬するのかなど、さまざまな作業に合わせて適切に効率化が図られる。
ハンドパレットを牽引しているサウザー。連携各社の知恵で各現場に答えを出している
鳥飼氏は、現場の管理者や作業者の反応があきらかに好感触であったと語る。「一般的に、ロボット導入にはシステムの操作を覚えることに時間がかかったり、必要に応じて自分たちで経路が変えられないことで、導入に後ろ向きになります。でも、サウザーはボタンと指一本の操作だけで簡単に動かせる。現場のレイアウトが変わっても現場担当者が自分で調整ができるほど簡単なので、メーカやシステム担当者が来るまで待つ必要が無い。むしろ現場担当者が使いこなしているため、こんな使い方ができるよ、と応用術を教えてもらうくらいです。現場にとっても使いやすくて受け入れられやすいロボットです」(鳥飼氏)。
鴻池運輸のサウザー導入事例において、インテグレータ販売事業者としてソリューションを具体化したのが千代田組だ。まず鴻池運輸から相談を受けると、営業担当者とインテグレータ担当者が物流倉庫を訪問して、実際にどのように使用されるのかを確認。その時の様子を、千代田組 第四営業本部 ソリューション営業統括部 課長の徳部 雄一 氏はこう語る。「現場には千代田組が持っているサウザーのデモ機を持ち込み、実際に操作しながら、運用ルートや走行環境を確認して適切な走行機能をご案内しました。また、運搬したい物品を確認して、荷台構成や牽引金具の要否も確認しました」と語った。
株式会社千代田組 第四営業本部 ソリューション営業統括部 課長 徳部 雄一 氏
千代田組では、顧客にカスタマイズの内容を提案するため、サウザーで使える周辺機器や周辺システムについて色々勉強しているという。導入するサウザーのカスタマイズ要件が定まってくると、千代田組は周辺機器メーカにも相談を始める。声を掛けたのはサウザーの周辺機器の開発・製造や、他にもカスタマイズの作業全般を請け負っている小山だ。「鴻池運輸さんの現場からいただいたご相談では小山さんの実績品や、そのアレンジ品が合いそうだと思いました」と徳部氏が語ると、小山 開発営業部 営業主任の和泉 育宏氏は、深く頷いた。
小山は鴻池運輸での導入事例においていくつかの周辺機器を供給。その1つとしてカゴ台車を牽引する金具の設計製造も担当した。「通常4輪のカゴ台車は、人が押して移動することを考えて、4つの車輪が自由に動くようになっています。ですが、牽引する場合は後の車輪が自由に動くと、カーブを曲がる際には車体が暴れるんです。そこで、後輪を固定化する治具を入れることで対処しています」と和泉氏は説明する。
また、小山ではハンドパレットをサウザーに取り付ける際の金具も設計している。「今まで人が動かしていたものを、どうサウザーで動かせばいいのか鴻池運輸さんや千代田組さんと一緒に考え、工夫しながら形にしてきました。Doogさんからも、自由に周辺機器を作ってどんどん販売してくださいと言われているので、本当に多くのインテグレータ販売事業者さん、エンドユーザさんとお付き合いをさせていただいています」(和泉氏)。
株式会社小山 開発営業部 営業主任 和泉 育宏 氏
小山では既にさまざまな周辺機器を作り上げてきた実績があるが、「もっといろいろな周辺機器を手掛けていきたい」と和泉氏は語る。「小山だけで答えが出しにくい場合はDoogさんにも相談して、知恵をいただくケースもあります。そういった連携が可能なうえ、各社間で情報共有が行われているところが、サウザーの事業価値を向上させていると感じます」(和泉氏)。
こうした各社の取り組みについて伊藤氏は「Doogとしては、サウザーに関わるインテグレータ販売事業者や周辺機器メーカが活動しやすいように後方支援をしています。その中からサウザーの可能性をもっと拡げるための課題やアイディアが出てくることもあります。情報共有のサイクルを回しながら、私たちが新機能を追加することもあってサウザー自体もどんどん良くなっていくんです」と語る。
鴻池運輸では現在、関西の拠点で3カ所、静岡の拠点で1カ所と計4カ所の物流倉庫で、荷物を積んだカゴ台車の牽引にサウザーを活用しており、今後も各拠点でサウザーの導入を進めていきたいと考えている。「私たちの拠点は、海外も含めると200カ所くらいあります。現状では、その中の4拠点でしか現場の課題解決に対応できていません。まだまだ課題を抱えている現場があると思うので、そこにもサウザーを導入することで解決につなげていきたいですね。ロボットでできることはロボットに任せ、人材の有効活用をサウザーで進めていこうと思っています」(鳥飼氏)。この一言には他の3社も唸った。
鴻池運輸の意向を受け、徳部氏も続く。「どうやったらいろんな拠点にサウザーが展開できるのか考えていきたいです。サウザーには無限の可能性がありますし、お客様と一緒に現場を分析することで良い答えを導き出せる強力なツールです。千代田組としても、勉強をして経験を積むことでチームの成長を感じられる点も面白い商材だと感じています。これからもサウザーを通じてお客様の夢を具現化し続けていきたいです」。
小山からも、現場を訪問して情報収集することの重要性が説かれた。「小山では初めてお聞きする課題について、現場で見て考えることを意識しています。良い周辺機器を生み出すために現場を知ることは重要だと思っています。Doogさんはいろんな情報をオープンにしており、コミュニケーションにも快く応じてくれるので、新規に周辺機器を作りたいと考えているメーカさんも参入しやすいと思います」(和泉氏)。
こうしたエンドユーザやパートナーと共に成長していくことを望んでいるDoogも、「この事例から、運搬ロボットのソリューション提案や構築は、専門メーカや専業技術会社でなくともできるという、新しい潮流を知っていただきたいです。サウザーはどなたでも自由にソリューション開発に活用していただけますので、ぜひ新規事業として参画を検討いただければ幸いです」(伊藤氏)と今後の展望を述べた。
この座談会を通じて印象的なことは、各社がサウザーのポテンシャルの大きさを確信しているからこそ、もっと多くの現場で使われることや、もっと多くの事業者が参画することを当然だと言い切っている点だ。サウザーの関係各社の連携はまさに「イノベーションエコシステム」と言えるものであり、これが持続的な事業を通じて発展し続けることを感じさせた。