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2025.02.27

【連載】ロボットとブロックチェーン(第4回)自律分散ロボットへの活用

これまで、ブロックチェーンとロボットの関係性や各分野における活用事例を紹介してきました。今回は自律分散ロボットとブロックチェーン技術の組み合わせについて紹介します。

ロボット業界では、複数のロボットが協調して動作し、中央制御システムに頼らずに自律的に判断・行動する「自律分散ロボット」の実現に向けて、データの改ざんを防ぎながら安全に情報を共有・記録できるブロックチェーン技術の活用が注目を集めています。本記事では、自律分散ロボットの概要やブロックチェーン技術の活用が期待されている理由、研究内容などを紹介します。

第1回第2回第3回も併せてご覧ください)

自律分散ロボットとは?

自律分散ロボットとは、複数のロボットが協調して動作し、中央制御システムに依存せずに個々のロボットが自律的に判断して行動するシステムを指します。このようなシステムは、ロボットが独立して動作しながらも、全体として協調的にタスクを遂行することが可能です。

製造業や物流、サービス業など、様々な分野での応用が期待されています。効率的な生産ラインの構築や、柔軟なタスク遂行が可能となり、将来的にはさらに広い分野での活用が見込まれているのです。

自律分散ロボットの事例:安川電機

安川電機が提案する製造業向けのソリューション「i³-Mechatronics」による自律分散ロボットの実例を紹介します。

従来の工場は、中央のコンピュータがすべてのロボットに指示を出す「集中制御型」でした。これに対し安川電機は、自分で判断し行動できる小さな生産単位(セル)を作り出し、それを展開していくことで分散しつつもデータでつながった柔軟性・拡張性の高い生産を提案しています。

この新しいシステムでは、YRMコントローラーという「情報共有の掲示板」のような仕組みが重要な役割を果たしています。動画で紹介されている3台のロボットは、この「掲示板」を見ながら以下のように作業を進めてるのです。

1番目のロボットが部品のセットを完了した

2番目のロボットがねじ締めを始められる状態

3番目のロボットの作業スペースが空いている

このような情報がYRMコントローラーで共有され、各ロボットはこの情報を参照しながら「次は自分が動くべきか」を自律的に判断します。まるで、作業者同士が掲示板を見ながら自主的にタイミングを合わせて作業を進めているようなイメージです。

このように、YRMコントローラーを介した情報共有により、各ロボットが自律的に判断しながらも、全体として調和の取れた生産活動が実現できるのです。

なぜブロックチェーン技術の活用が期待されているのか

自律分散ロボットにブロックチェーン技術の活用が期待されている理由は、以下のような特性と利点に基づいています。

1. 安全な情報共有

ブロックチェーン技術はデータの改ざんを防ぎ、信頼性の高い情報交換を可能にします。自律分散ロボットシステムでは複数のロボットが協調して動作するため、各ロボット間での安全なデータ交換が重要です。

そこでブロックチェーンを利用することで、ロボット間の通信がより安全になり、不正アクセスやデータ改ざんのリスクを低減できると考えられています。

2. 効率的な分散管理と常時稼働の仕組み

ブロックチェーン技術は、中央集権的な管理者を必要とせず、情報を分散して管理する仕組みです。一部のノード(ブロックチェーンを管理する複数のコンピュータ)に問題が発生しても、システム全体は機能し続けられます。

この特徴は、自律分散ロボットにも応用できると考えられています。各ロボットが自律的に動作し、ブロックチェーンを介して他のロボットと協調すれば、中央の制御システムが必要なくなる可能性があるのです。

一部のロボットが故障しても他のロボットが自律的に動作を続けられ、スムーズな拡張も可能です。

3. 透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)の向上

ブロックチェーンは一度記録された情報を書き換えられない、デジタルの記録帳のような仕組みです。ここに自律分散ロボット(人の操作なしで動くロボット)の動作を記録することで、いつ、どのような作業をしたのか、すべての履歴を後から確認できます。

防犯カメラの映像のようにロボットの動きを証拠として残すことで、記録の改ざんも不可能です。そのため、工場での品質管理や医療現場での機器の動作確認など、正確な記録が必要な場面で特に役立ちます。

4. スマートコントラクトによる自動化

スマートコントラクトは、あらかじめ設定したルールに従って自動的に実行される契約プログラムです。これをロボット同士の作業に活用することで、人の指示がなくても決められたルールに従って協力し合うことができます。

例えば、工場で一つのロボットが作業を終えると、自動的に次のロボットに作業が引き継がれるといった動きが可能です。さらに、ブロックチェーンの「改ざんができない」という特徴により、ロボット間の取り決めや作業記録の信頼性も確保されます。

自律分散ロボットとブロックチェーンに関する研究

ここまで、自律分散ロボットの特徴と、ブロックチェーン技術の活用が期待されている理由について解説しました。

ここからは、自律分散ロボットにブロックチェーン技術を組み合わせた2つの研究事例を紹介します。

【研究①】蜂の群れに着想を得た自律型ロボットの情報共有

この研究は、多くのロボットが一緒に働くとき、どうやって正しい情報を共有し、最適な判断を下すかについて調べたものです。

研究の背景には二つの重要な着想があります。

1.自然界の蜂の群れの行動様式

2.ビットコインなどで使われているブロックチェーン技術

蜂は群れで行動するとき、お互いに情報を交換しながら、最適な巣の場所や餌場を決めています。一方、ブロックチェーンは、情報を改ざんされにくい形で記録・共有できる技術です。研究者たちは、この二つの利点を組み合わせることで、より安全で効率的なロボット群の制御が可能になると考えました。

提案されたシステムでは、ロボットたちは以下のような行動を繰り返します。

1.周りの状況を観察する

2.得た情報をブロックチェーンを使って安全に共有する

3.共有された信頼できる情報をもとに判断を更新する

このように、ブロックチェーン技術を活用することで、故障したロボットや誤った情報を送るロボットがいても、システム全体として正しい判断を下せる可能性が広がります。

この研究が実現すれば、災害現場での救助活動や工場での作業など、複数のロボットが協力して働く場面で、より安全で信頼性の高いシステムが構築できると期待されています。

(参考:群ロボットシステムにおける集団意思決定と故障ロボット

【研究②】ロボット間の安全な情報共有に向けた新提案

この研究は、複数のロボットが協力して作業する新しい仕組みについて提案したものです。

従来、複数のロボットが協力して作業する場合、お互いに無線で情報をやり取りしていました。しかし、あるロボットが故障したり、誤った情報を送ってしまったりすると、全体の作業に支障が出てしまう問題がありました。

そこで研究チームは、暗号資産で使われている技術を応用することを考えました。この技術は、一度記録した情報が後から勝手に書き換えられないという特徴があります。

実験では、小型コンピュータ(Raspberry Pi)に取り付けたカメラで撮影した画像を、この技術を使って別のロボットと共有することを試みました。その結果、情報を安全に共有することには成功しましたが、システムを動かすために高性能なコンピュータが別に必要になってしまいました。

研究チームは、将来的には高性能なコンピュータなしでも、複数のロボットが安全に情報を共有できる仕組みを目指しています。これが実現できれば、例えば災害現場での救助活動や大規模な倉庫での物流作業など、多くのロボットが協力して行う作業がより安全で効率的になると期待されています。

参考:スワームロボットシステムのためのブロックチェーン技術を応用したセキュアな情報共有手法の提案

ブロックチェーン技術を実装するための課題

自律分散ロボットにブロックチェーン技術を活用することで安全な情報共有や透明性が実現できますが、導入には多くの課題があり実用化には至っていないのが現状です。

ここでは、どのような問題点があるのかを解説します。

リアルタイム処理の困難さと処理コスト

ブロックチェーンはノードと呼ばれるコンピュータによってネットワークが支えられており、1つの取引を複数のノードが検証した上でデータがブロックチェーンに記録されます。

1つの処理が終わるまでに時間がかかるというデメリットがあるため、即時の反応が求められるロボットの制御と相性が良くない、という問題があるのです。

また、ブロックチェーンは取引処理に複雑な計算をするため、多くの計算資源とエネルギーを消費することから、ロボットに搭載するにはこのコストが大きな負担となる可能性があります。

近年ではSolanaと呼ばれる、1秒間に約50,000件の処理が可能かつ、計算コストが安価なブロックチェーンも誕生しています。しかし、一度に許容量を超える処理が集中した際はネットワークが停止するなどの問題も抱えているため、ロボットに導入できる能力は備えていないと言えるでしょう。

データのプライバシー確保

ブロックチェーンは透明性が高い反面、データの秘密保持が難しいという側面があります。ロボットが扱う情報の中には、外部に漏れては困るものもあるでしょう。

そのため、ビットコインやイーサリアムなどに採用される、だれでも取引情報が閲覧できるパブリックチェーンではなく、公開範囲が限定的なプライベートチェーンの採用が望ましいと考えられます。

しかし、プライベートチェーンの構築には多くの時間とコストが必要です。パブリックチェーンを安全に利用する方法を確立するなど、別のアプローチを検討する必要もあるでしょう。

メーカーやシステム間の互換性

異なるメーカーのロボットや異なる通信プロトコルを使うロボット間で、スムーズにデータをやり取りするには標準化が必要不可欠です。

ブロックチェーンは多岐にわたり、処理速度が高速であればセキュリティ面が弱い、セキュリティ面が強ければ処理速度が遅くコストも高くなるといったメリット、デメリットを抱えています。

これらの課題を解決するには、ブロックチェーン技術そのものの改良や、ロボット向けの新しい通信規格の開発など、様々な取り組みが必要とされています。

まとめ

自律分散ロボットは、複数のロボットが中央制御システムに頼らず協調して動作するシステムとして、製造業や物流など様々な分野での活用が期待されています。この実現に向けて、ブロックチェーン技術の活用が注目を集めています。

しかし、現状はブロックチェーンの処理速度やコスト面、セキュリティ上の問題から実用化には至っていません。将来的にロボットにも活用できるほど優れたブロックチェーンや、自律分散ロボット専用のものが開発される必要があるでしょう。

実現化は困難かと思われていますが、近年はAI技術がめざましい進化を遂げていることから、ロボット、ブロックチェーン双方の進化も促進される可能性があります。

近い将来、人間が操作しなくても、工場内でロボットたちが自律的に商品を組み立てるような未来が実現されるかもしれません。