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2024.12.11

【横浜ロボットワールド2024 セミナー抄録】中小企業におけるロボット活用のキモ

「ロボットは課題解決の手段の一つで目的ではありません」そう語ったのは、ロボットビジネス支援機構(RobiZy)でプロジェクトグループ・プロジェクトプロモーションオフィサーを務める村上出氏だ。これは2024年12月5日、6日の2日間、パシフィコ横浜で開催された「横浜ロボットワールド2024」専門セミナーの一幕。ロボット活用を考える多くの来場者が耳を傾けた。本記事では、なぜ今サービスロボットが求められ、導入にはどのようなことが必要なのか。村上氏による講演の一部をレビューする。(文=RoboStep編集部)

人手不足待ったなし! まずできるところから省力化に着手しよう

NPO法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)プロジェクトグループ・プロジェクトプロモーションオフィサー 村上 出氏

セミナー冒頭、村上氏は具体的な数値を挙げながら市況を解説。まず挙げたのは業界判断DI。2020年第2四半期を底に、製造業、非製造業ともに回復傾向が継続しており、なかでも非製造業は回復傾向にあることを示した。

一方で深刻になっているのが、雇用状況だ。業況が良くなるのと反比例し、急速に人材不足が進んでいる。

そこに追い打ちをかけるのが、生産年齢人口の減少だ。1995年をピークに、日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少に転じており、この先人材不足から抜け出すことは難しいとされている。

人材採用を強化することはもちろん、成果が一定数見られているのが、省力化投資等を通じた生産性向上の取り組みだ。まだ3割程度にとどまるが、業務プロセスの見直しや、IT化等設備投資による取り組みによる生産性向上も一定数あることがわかる。

RobiZyでは、会員企業に関わらず、人材不足に関する相談を受け付けている。2023年夏以降、相談を受けた事業者は約20か所あり、村上氏も現地に足を運び、話を聞いたという。傾向としては食品製造業からの相談が多く、北海道から沖縄まで、人手不足は全国共通の悩みであることがわかった。

ロボットの活用と聞くと、高額で大規模かつ手間がかかるものを想像する方もいるというが、補助金を活用した省力化対策は、中小企業でも手の届くものが多いと村上氏は語る。講演では「中小企業省力化投資補助金」を例に挙げ、まずできるところから省力化に着手すべきと力説した。

マッスルスーツの導入なども、「中小企業省力化投資補助金」を活用して導入が可能だ。高齢化も進む現場において、重い荷物を運ぶ作業は「腰痛」を招く。工場だけでなく、農業、介護など様々な場面でマッスルスーツの活用は有効で、例に挙げたホンダカーズも、スタッフの満足度や働く環境の充実に一役買うことを期待しているという。

現状を正しく理解し、あるべき姿とのギャップをあぶりだす

急速なインフレも進む中、生産性向上があらゆる業種において喫緊の課題であることは言わずもがなだ。そこに採用難・人手不足が追い打ちをかける状況の中、どのような手を打てば良いのだろうか。

村上氏は「生産性向上=自動化による省力化」であると仮定し、まず大切なことは自社の現状を正しく理解し、課題の優先度を把握することだと語る。業務プロセス・業務フローと扱っている情報(データ)を俯瞰し、かかっている体制や工数を算出する。それにより、データの流れと現場の課題・ムダ・ムラ・ムリを抽出し、自動化による効果の大きい業務を洗い出す必要があるという。

ここで重要なのが、現場の2S(整理・整頓)がきちんと行われることだと、村上氏は語る。それがそもそもできていないと、自動化・省力化を進める入口には立てない、とした。

その上で、目指すべきビジョンと、ありたい姿、そしてそことのギャップを埋めるための戦略・戦術を策定することが次なる段階だ。RobiZyではこうした戦略・戦術の策定にも伴走して支援をしているという。

事業環境は劇的に変化し、サービス・製品にも新しい価値が求められるようになってきている。それに対応するためには、デジタル技術の活用とデータの分析・活用は不可欠だと村上氏は語る。

その上で、DXの次に来るのはRXだと村上氏は主張する。RXはロボティックトランスフォーメーションの略で、業務を自動化し、生産効率を上げることを指す。DXがデジタル革命であったのに対し、RXは自動化革命だ。人手不足という課題が待ったなしの現状において、単純作業からでも導入を進めていくことで、大きな変革が起こせるというわけだ。

ロボットをそのまま入れても生産性が向上するのは稀

では、ロボット導入をいかに進めればよいのか。村上氏は「ロボットシステム インテグレーション 導入プロセス標準(RIPS=Robot system Integration Process Standard)」の理解、活用の必要性を説いた。RIPSは、ロボットシステムの導入において、最適な手順でシステム導入できる工程管理手法のことだ。ロボットシステムを導入するうえで、標準的な構築プロセスは不可欠だからだ。

ロボットシステムの導入経験が少ないユーザーでは、生産性向上などの大目的のみで、具体的な仕様定義まで提示できないことが多く、ロボットSIer間の合意形成、作業工程ごとの状況確認が曖昧となり、システムの変更・追加・改修などの手戻りが発生するという問題が発生するケースが多いという。そこで導入されるのがRIPS。導入プロセスを標準化し、そうしたケースを軽減させようという取り組みだ。

村上氏は、サービスロボット導入には、カスタマイズが重要と語る。実際、出来合いのロボットをそのまま入れても生産性向上に寄与することは稀だという。

ただ、中小企業にとって、これらの課題解決を自社ですべて行うのは至難の業。RobiZyでは、ロボットシステム導入に関係するすべてのフェーズを支援しているという。

サービスロボット導入で大切なこととして「あくまでロボットは課題解決の手段の一つであり目的ではない」と力説する村上氏。中小企業におけるロボット活用のキモとして、①ロボットは人(作業者)の完全な代替にはならない、②人とロボットの業務を分離し、特徴を踏まえた共存する業務を設計、③新人向けにマニュアルを整備、④ロボット導入によって得られる時間をどのように活用するかの業務設計により、利益率の向上が期待、の4つを挙げた。

「ロボットは万能ではない。ただし、人よりも活躍できる場所は必ずある」と語る村上氏。狭所や暗所での作業、正確性を求められる作業などロボットの社会実装の可能性に期待を寄せた。