筆者はこのコラムの連載にあたり、記事ネタを探す一環として日ごろから中国語のロボット関連記事を追っています。そうして眺めている中国のロボット関連記事、特に人型ロボット系の記事を眺めていてよく感じる点として、かつて本田技研工業が開発していた人型ロボットの「ASIMO」について、中国メディアが言及する回数が今も非常に多く感じます。
どれくらい多いのかというと、中国ではほぼ毎日にわたり何らかの形でASIMOに言及する記事が配信されているのではと思うほどの量で、どれだけ中国人はASIMO好きなんだよとツッコミたくなります。
では肝心の記事内容はどんなものか。やはり多いのは、「かつてASIMOを筆頭に世界のロボット業界をリードしていた日本が、今や中国の後塵を拝している」といった切り口で、日中のロボット技術における過去と現在の比較するものが大半です。ただ記事のトーンとしては、
「どうしてロボット王国だった日本は中国に追い越されてしまったのだ?」
「俺たち(中国人)が憧れていたあのASIMOはなぜ消えてしまったのだろう……」
といった具合に、ASIMOをはじめとするかつて存在した日本製人型ロボットのことを全力で惜しみつつ、その商業的敗因を検討する記事の方が確実に多いです。
そこで今回は、こうしたASIMO大好きな中国ロボット業界関係者らによる、ASIMOをはじめとした日本製人型ロボットの敗因分析の内容についていくつか紹介します。
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ロボット活用のリアルを解く『RoboStep』
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
前述の通り、中国では今もASIMOに言及したロボット関連記事が量産され続けており、その関心度はもはや日本国内よりも上ではないかと筆者はみています。同時期の日本製人型ロボットとしてはこのほか、ソニーの「キュリオ」、トヨタの「パートナーロボット」などもありましたが、取り上げられている回数で言えば圧倒的にASIMOが多くなっています。

ホンダコレクションホールに展示されているASIMO(筆者撮影)
ではなぜ中国のロボット業界関係者の間でこうもASIMOに対する関心が強いのか。
関連中国語記事をいくつか見る限り、ASIMOが本格的に公開され始めた2000年前後において、当時の中国のロボット開発者たちが目指すべき目標として捉えられていたことが最大の理由であると筆者は思います。
特に2000年においては、中国からも「先行者」という二足歩行ロボットが発表されていました。しかしこちらは見た目のインパクトもさることながらASIMOとの性能差が非常に大きかったことから、良くも悪くも並べて比較されやすかったそうです。
なお一部記事ではこの先行者について、発表後に日本でネットミーム化して茶化されたことにも触れつつ、「中国ロボット業界における技術的意義は大きかったが、悪名でも馳せた一品であった」と述べていました。これ読んで筆者は、「自覚あったんだ」と思いました。

中国における二足歩行ロボットの先駆け「先行者」(出展:Wikipedia)
以上のように、中国でロボット技術がまだ未発達であった時代において、この業界をリードする代表的人型ロボットであったASIMOが、中国ロボット業界関係者の間で強い憧れを持たれたものとみています。
それだけにASIMOの開発が中止され、日本が中国にロボット技術において追い抜かれた現状に対して中国人自身も「なんで?」とばかりに若干不思議がっており、だからこそASIMOを振り返りつつ日本の人型ロボット産業の衰退について分析したがる人も多いのだとも推測しています。
では実際に、ASIMOをはじめとする日本製人型ロボットの衰退について中国人はどう分析しているのか。
まず最も目立つ指摘として、産業化に対する意識や計画の不備を挙げるものが多いです。
これはどういうことかというと、開発時点で開発コストや将来の量産、販売計画果てには応用先などへの熟慮が足らなかったのではという指摘です。
ASIMOを例にすると、その生産コストは1台当たり約250万米ドルもあったとされています。この金額に関して中国メディアの新浪財経は、「この単価では実際に労働力代替ニーズのある工場などの作業現場での試験運用はためらわれる」と述べ、量産運用以前に試験ステップにすら進めなかっただろうと指摘しています。またこうしたハイコスト化は、ロボット技術を高めようとする研究開発しか頭になかったためで、将来の運用に向けたコストダウンへの意識も弱かったのではという声も見られます。
実際に運用という観点で言えば中国のロボットメーカーでは早期より、物流現場での運用を見越して開発に取り組む企業が少なくありませんでした。当初こそ安定した二足歩行が大きな技術課題でしたが、二足歩行技術で一定のブレイクスルーを果たしてからというもの、どのメーカーも倉庫現場での物資運搬をどう実現するかという課題に積極的に取り組んでいました。同時に将来の大量運用を見越して一台当たりのコスト抑制も重要課題に入れ、コストと技術の両立にも貪欲でした。
あくまで筆者の私見ですが、日本では人型ロボットの運用方法として倉庫現場での運搬作業よりも、どちらかというと介護現場での介助や運搬を想定する人が多かったような気がします。
以上の産業界に対する意識や計画の不備のほか個人的に注目した指摘として、「せっかく開発した技術が一つの企業の中で閉じていた」というものがあります。
これはどういうことかというと、日系企業は垂直統合型の企業が多く、ロボット開発においても外部企業との共同開発はあまり行わずにグループ内企業で完結させるパターンが多かったという指摘内容となっています。
この場合、開発された技術はそのグループ会社の中でしか運用されず、業界内にも普及せず、結果的に業界全体での技術向上が遅れたばかりか産業の裾野もあまり広がらなかったと分析されています。
実際筆者の目から見ても、技術流失を恐れるあまりに当時の日系企業では開発状況や技術をあまりオープンにせず、各種主要部品を含め各社単独で開発を続けるパターンが多かったように記憶しています。また本田技研のASIMOはよく凄い技術だと言われていましたが、そのASIMOの部品を供給するサプライヤーが凄かったという声はあまり聞かれなった気がします。
無論、何でも水平分業にすればいいというわけではないし、前述の技術流失リスクにも注意を払う必要もあったでしょう。しかしロボット企業ではなくロボット産業という観点で見た場合、単独の企業のみが先端的な開発に取り組み続けるというのはやはりリスクが潜むようにも思えます。それだけにこの中国の指摘は、筆者個人的には耳の痛い指摘だと率直に感じました。
以上が、ASIMOを取り上げる中国記事に書かれていた日本ロボット産業に対する分析となります。
冒頭にも書いたように、これら中国記事は日本のロボット産業の衰退を皮肉るのではなく、どちらかというと一定の敬意を払いつつ、どの点が問題だったのかを真剣に議論する記事が多い印象でした。
必ずしもこれら外部の指摘が正しいとは限りませんが、時に耳を傾ける姿勢もまた必要なことかと思われます。
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