ロボットが働きやすい建築デザイン「ロボットフレンドリービルディングデザイン(RFBD)」を掲げる戸田建設が、その考え方を共有し、ロボットとの協働の在り方を考える本連載。第3回では、2024年秋に開業した新本社「TODA BUILDING」を舞台に、配送ロボットの運用づくりに迫る。
「ロボットの導入・運用は、社内に専門家がいないと難しい」そう思われるのも無理もない。戸田建設も例外ではなく、ロボット運用の知見はほとんどなかった。だが、運用ルールづくりから通信環境の整備、現場との調整まで、一つひとつ試行錯誤を重ねながら、「ロボットが自然に働けるビル」を目指してきた。今回は、その舞台裏を紹介し、RFBDにおける自社実践の様子を教えていただく。(文=戸田建設株式会社 イノベーション本部 イノベーション推進統轄部 事業化推進部 ロボフレ推進課 長幡逸佳さん、編集=RoboStep編集部)
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ロボット活用のリアルを解く『RoboStep』
こんにちは。ロボフレ推進課の長幡です。前回は相模原市役所でのロボット導入についてお話ししましたが、今回は2024年秋、東京都中央区京橋に開業した当社の本社ビル「TODA BUILDING」における事例をご紹介します。その中でも、当社が自社で開発・運用構築を手掛ける「戸田建設専有部」で稼働しているロボットの活用についてお伝えします。
近年、ビル管理や施設運営における慢性的な人手不足が大きな社会課題となっています。ゼネコンである私たちは特にその課題に取り組む使命を感じていました。建物を造るだけでなく、その後の「働く人の負担を減らし、施設をより快適に、効率的に使える状態をつくる」、新しいソリューションを提供したいという強い思いを持っていました。
そんな中で始まった、TODA BUILDINGの建設計画。次世代の「スマートビル」を目指すべく始動したプロジェクトに掲げたテーマの一つは「ロボットの積極的な活用」でした。
しかし私たちは建設会社です。ロボット運用の知見が全くなく、まさにゼロからのスタートでした。まずは単に完成したロボットを導入するのではなく、社員自らがシステムや通信ネットワークの基礎から学びました。地道な実験を繰り返してノウハウを蓄積し、TODA BUILDINGでの運用の仕組みを構築してきました。
具体的にどのようなプロセスだったのか。ロボフレ推進課の田村主管に話を聞きました。「私自身、大学では流体力学を専攻しており、システムエンジニアではありませんでした。ロボットに本格的に触れ始めたのは2020年頃からです。最初はソフトバンク様から『Cuboid』というロボットを借り、ロボット用OSである『ROS(Robot Operating System)』の勉強から始めました。Pythonでプログラムを書く知識はありましたが、自律走行を形にするまで数ヶ月の試行錯誤が続きました。特に苦労したのは、ソフトウェアだけでなく、安全対策などのハードウェアが絡む領域です。フロアの人々に周知し、場所を空けてもらう調整など、解決に何日も要する壁に何度もぶつかりました」(田村)
ロボフレ課の田村主管 TODA BUILDINGで活躍するロボットたちと
建設会社である当社が、配送ロボットの業務システムや運用設計まで自ら担うのは、珍しいケースだと思います。ゼネコンは協力会社に依頼する文化が強いですが、それだけでは自社に技術的なノウハウが残りません。今回は、まずはスモールスタートでやってみようという社内文化と、新しいものを取り入れようというタイミングが合致。自ら手を動かし、ノウハウを蓄積したからこそ、建設会社でありながら運用構築を担えるようになったと考えています。
完成したTODA BUILDINGでは、ロボットの新たな活用方法を模索しチャレンジを続けています。2026年8月時点で、館内全体では共有部・専有部を合わせて配送・警備・清掃など多種多様な11台のロボットが稼働しており、私たちはロボットを日々運用するなかで、いかにビル全体の価値を高められるかを考えています。
【共有部】警備 【共有部】清掃 【共有部】清掃

【共有部】配送 【共有部】配送 【共有部】配送
当ビルで稼働し、社員の日常的な業務を支えているロボットたち
戸田建設の専有部(8階〜12階)は、8階に外部からの郵便物が一括集積されるメールセンターなどがあり、9階から12階が執務エリアとなっています。
新本社への集約に伴い、メールセンターには1日に平均で荷物が約40個、郵便物が約1,500通届くと想定されていました。これは以前の本社と比べて約5倍の物量であり、従来の「メールセンターの職員による直接の手渡し」では負担が大きくなることが見込まれました。
そこで導入したのが、人手とロボットを掛け合わせた配送の仕組みです。運用開始に至るまでには、メールセンターの現場担当者と打ち合わせを重ね、初めてのロボット配送に向けて運用ルールの検討を行いました。
実際の運用フローは以下の通りです。
1.メールセンターの職員が、届いた荷物を各部署の棚に仕分けます。
2.部署の管理担当者がシステム上から棚の状況を遠隔で確認し、荷物がある場合は配達を依頼します。
3.メールセンターに設置しているコミュニケーションロボット「Kebbi」が、メールセンター職員に依頼を知らせます。
4.メールセンター職員が依頼内容を確認し、配送ロボット「RICE」に荷物を載せて送り出します。
5.RICEはエレベーターと連携し、階を跨いで依頼部署まで自動で移動します。
6.目的地に到着すると、チャットで依頼者に到着通知とセキュリティコードが届きます。依頼者はセキュリティを解除して荷物を受け取ります。

Kebbiによる配達通知 エレベーター連携の様子 荷物受け取りの様子
ロボットによる配送は社員のエレベーター利用が集中する朝の出勤時とお昼休憩、夕方の退勤時を避けた時間帯に、「専用運転」で運用しています。
もちろん、導入直後からすべてが順調だったわけではありません。エレベーターの扉が開くとロボットが降りてくる光景に、最初は驚いたり、立ち止まったりする社員も少なくありませんでした。そこで私たちは社内への周知を繰り返しました。その積み重ねによって、現在ではロボットが廊下を走っていても特別な存在ではありません。人とロボットが同じ空間で自然に働く「ロボットフレンドリーな風景」が、ようやく日常になっています。
一方で、運用を続けるなかで、新たな課題も見えてきました。その一つが、特定メーカーのロボットだけに依存せず、用途や条件に応じて異なるメーカーのロボットを活用できる体制を整えることです。また、配送依頼やロボットの稼働状況を把握しながら、より効率的に配送を回せる仕組みも必要でした。
そこで、従来のRICEに加え、小型の自律移動ロボット「カチャカプロ(※)」を導入しました。主な目的は、異なるメーカーのロボットを活用するマルチベンダー化の検証と、配送運用の効率化です。外部システムと連携できる公開APIを備えていることや、コスト面なども選定理由となりました。
(※)株式会社Preferred Roboticsが開発するAMR(自律搬送ロボット)
システム構築では、ソフトバンク様の支援を受けながら、ロボットの移動制御やエレベーター連携の仕組みを整備しました。一方、配送依頼の受付、利用者への通知、稼働状況の確認など、実際の配送業務に必要な機能は戸田建設が自社で開発しました。
「開発時に最も苦労したのは、実験環境で動く仕組みを、日常業務で安定して使える状態にすることでした。業務終了後に繰り返し動作確認を行い、発生した問題を一つずつ修正しました。実際にロボットを操作して荷物を送り出すのは、メールセンターです。一方、配送先では各部署の担当者約30人に、ロボットから荷物を受け取ってもらいます。操作する側と受け取る側では必要な手順が異なるため、それぞれに合わせて説明内容やマニュアルを整理し、日常業務として定着させていきました」(田村)
さらに、カチャカプロの公開APIを利用し、外部システムからロボットへの移動指示や稼働状況の取得を行えるようにしました。また、配送依頼の受付、出発・到着時の依頼者への通知、ロボットの状態確認、異常発生時の管理者への通知など、日々の配送業務に必要な機能を戸田建設が自社で開発しました。これらを、エレベーター連携を含むロボットの移動制御の仕組みと組み合わせることで、複数フロアへの配送を実現しています。
ロボット館内配送システムの運用フロー
カチャカプロによる配送の様子
カチャカプロの導入と新システムの構築後、現場から寄せられた課題に一つずつ対応してきました。その結果、4つの機能が実現しています。
1.カチャカプロとエレベーターの連携による複数フロア間の自律配送機能
2.管理画面によるロボットの現在位置・稼働状況の確認機能
3.異常発生時の管理者へのチャット通知機能
4.出発・到着時の依頼者へのチャット通知機能
これにより、ロボットによる館内配送の利便性がさらに向上。ロボット運用は「荷物を運ぶ」だけでなく、日常の業務を支えるインフラとして進化しました。これらの取り組みは、1年半の現場運用があったからこそ見えてきた、リアルな課題に根ざしたものです。
「専門知識がない企業で取り組むにはハードルが高い」そう考えている読者の方も多いと思います。ただ我々の経験から言うと、知識がない会社こそ取り組む価値があると考えています。
知識がありすぎると技術的な細部に目が行きがちですが、まずはトライすることが重要です。実現において最も大切なのは、技術そのものよりも、まずはゲリラ的にでも動かしてみて、周りの人にロボットの存在を認知してもらう『運用設計』と、それを許容する『会社文化』であると考えます。ただし、最初からロボットだけを走らせていたわけではありません。運用初期には私自身がロボットにずっと付き添い、周囲の状況を確認していました。また、興味を持って立ち止まった社員には、その場でロボットの目的や使い方を説明していました。そうした積み重ねによって、社内での認知や理解が少しずつ広がっていきました。まず自律走行しているところを認識してもらえれば、それは及第点。完璧を目指すより、まずは現場で動かし、課題を一つずつ改善していく姿勢こそが、ロボットフレンドリーな建物への近道です。
我々も、一度導入して終わりではなく、現場で起きる課題を拾い上げ、改善を積み重ねることが欠かせないと考えています。今後も自社でのロボット活用を通じて、日々の運用から得られる知見を蓄積し、お客様への提案に活かしていきたいと考えています。
次回は少し視点を変えて「カフェで働くロボット」についてご紹介します。どうぞお楽しみに!
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