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2026.07.10

「歩くことを諦めない社会」韓国発の補助機器が“歩行革命”を起こす

人生100年時代を迎えた日本では、「どれだけ長く生きるか」だけでなく、「どれだけ長く自分の足で歩けるか」が重要なテーマになっている。歩行速度や歩幅の低下というのは日常生活で見過ごされがちだが、将来的な要介護リスクとも関係するといわれる。こうした“介護の手前”にある課題に向き合うため、世界各国から資材や福祉製品を輸入する株式会社グロービズは、韓国発の超軽量ウェアラブルロボット「WIM S(ウィム エス)」を日本に導入。目指すのは、歩けなくなってから支えるのではなく、歩けるうちに歩く力を守ること。「歩くことを諦めない社会」の実現に向けた挑戦を追った。(文=RoboStep編集部)

お話を聞いたのは…


株式会社グロービズ
代表取締役社長
鄭 爀(ジョン ヒョク)さん

韓国大手企業グループ「CJ」に入社し、2001年に日本駐在員として来日。約9年間にわたり日本市場で営業経験を積んだ後、2010年に株式会社グロービズを設立。食品原料・飼料・肥料・化学品などを長年取り扱い、食のインフラを支える商社として、国内外のパートナーと事業を展開してきた。2026年には新たにウェルネス事業を立ち上げ、韓国発の超軽量AI歩行支援ロボット「WIM S(ウィム エス)」の日本展開を開始。高齢化社会における歩行健康という新たな課題に向き合い、“歩く力を守る”という新しい価値の普及に取り組んでいる。

介護の前に始まる変化 見過ごされる“歩行力低下”

人が要介護状態になった後のケアやサポート体制は、介護保険制度を中心に整備が進んできた。一方で、要介護の一歩手前で進行する「歩行力の低下」も水面下で問題視されている。

歩行は、日常生活動作の自立度を支える基本機能であり、歩行速度の低下、歩幅の縮小、階段や坂道での不安定さは、脚力、バランス、持久力など、身体機能全体の低下を示す重要なサインだ。こうした変化が進行すると、やがて自立歩行が難しくなり、要介護状態へと移行する大きな要因になり得る。

超高齢社会の日本では、介護の前段階で「歩く能力が低下していく」人が今後さらに増えていく。自力歩行が難しい状態まで進んでしまうと、歩行機能を元の状態に近づける事は非常に難しい。

「だからこそ、歩行が大きく崩れてから支えるのではなく、歩行速度や歩幅、姿勢の変化が現れ始めた段階で、自分の足で歩く力を活かしながら鍛え直すことが重要といえます」(鄭さん)。

歩く力を残しながら支援する AI歩行アシストの仕組み

そのニーズに応えるべく、グロービズでは韓国発の “日常生活で使える超軽量ウェアラブルロボット”「WIM S(ウィム エス)」を日本で展開しはじめた。重さ約1.6kgのWIM Sは、腰に本体を装着し脚部にベルトを巻くだけで使用できるため、大がかりな準備は必要ない。屋外の街歩き、買い物、旅行、坂道や階段の多い場所など、生活の延長線上で使うことを前提に設計されている。


約1.6kgの超軽量ウェアラブルロボット「WIM S」。
メーカーはサムスン電子出身のロボット技術者たちによって創業されたWIRobotics社

WIM Sの大きな特徴は、歩行を一方的に「支える」のではなく、使用者自身の歩行リズムに合わせて「自然にアシストする」点だ。AIが歩行パターンをリアルタイムで捉え、次の一歩を予測しながら、必要なタイミングで力を添える。ロボットに歩かされるのではなく、本人の歩くリズムに同期しながら、歩幅やテンポ、姿勢が整いやすい状態へと導く。開発元が掲げる「Assist-as-needed(必要な時に必要な分だけ支援する)」という考え方が、WIM Sの中核にある。

この設計思想は、従来の外骨格型ロボットとは異なる。多くの歩行支援ロボットは、複数のモーターやフレームで身体を大きく支える構造を採用してきた。

一方、WIM Sはモーターを腰部に集約し、その他の装着部には柔軟な布ベルト構造を採用。身体の動きに逆らわず、必要な瞬間だけ股関節の動きをそっと後押しすることで、日常歩行の自然さを損なわずに、より安定した歩行姿勢やリズムを引き出すことを目指している。

利用シーン:旅行・散歩・坂道など日常の外出を支えるイメージ

鄭さんはWIM Sを「歩行革命ギア」と呼ぶ。その理由は、この機器が単に移動を助ける道具ではないことだという。「杖や歩行器は、身体を支えるための重要な道具。その一方で、WIM Sは自分の足で歩く行為そのものを残しながら、歩幅やリズムを整え、歩き続けることを支援します。歩くことがより楽になることで外に出る意欲が生まれ、外に出ることで歩く機会が増え、日常の中で正しく身体を使う時間が増える。この循環をつくることが、歩行力低下への新しいアプローチになると私たちは考えています」(鄭さん)

WIMシリーズに関する研究では、高齢者を対象とした4週間の歩行プログラムにおいて、10m歩行速度、6分間歩行など複数の身体機能指標で変化が報告されている。もちろんWIM Sは、治療や診断を目的とする医療機器ではない。しかし、日常生活の中で正しい姿勢で歩く機会を増やし、より自然な歩行パターンを積み重ねていくことは、介護前段階の歩行健康を考えるうえで大きな意味がある。

「歩くことを諦めない社会へ」日本展開に込めた思い

WIM Sの開発に込められているのは、「歩くことを諦めない社会をつくりたい」という思いだ。

歩くことは単なる移動手段ではない。自分の意思で外に出ること、誰かに会いに行くこと、旅行や買い物を楽しむこと、季節の変化を感じること。歩行は、その人の生活の自由や楽しみを支える、極めて日常的でありながら大切な行為だ。「歩くことに少し不安を感じ始めた段階で、自分のペースで歩き続ける感覚やリズムを保てるようWIMで支援していきたいと思います」(鄭さん)。

韓国では、WIMシリーズの累積体験者数が15,000名を超え、歩行力の低下に対して歩行支援ギアを活用するという選択肢が、少しずつ社会に受け入れられ始めている。介護や医療の手前で、自分の足で歩く力を守るためにテクノロジーを使う。その考え方が、日常の中に浸透しているのだ。

鄭さんはこの考え方に、強く共感したという。「グロービズは、もともとロボット企業ではありません。2010年の創業以来、肥料・飼料・食品原料・化学品などを扱い、食のインフラを支える商社として事業を展開してきました。その当社が次に向き合うべき社会課題として注目したのが、高齢化社会における歩行健康です」(鄭さん)

日本ではまだ、日常生活の中でロボットを身につけて歩くという文化は一般的ではない。だからこそ当社は、市場があるから始めるのではなく、社会に必要な選択肢だから市場をつくりたいと考えているという。「WIM Sを通じて、『自分のために歩く力を守る」という新しい価値観を、日本にも根づかせていきたいと思っています。」(鄭さん)

歩く『速度・幅』はシニアの健康状態と最も直結する指標

未来展望 ― “歩ける社会”をつくるため、挑戦しつづける

年齢を理由に外出や挑戦を諦めるのではなく、「まだ歩ける」「まだ行ける」と思える社会。それがグロービズが描く社会だという。「実際に体験に来られるお客様から多く聞かれるのは、『家族や友人を待たせずに歩きたい』『もう少し長く、行きたい場所まで自分の足で歩きたい」という声です。多くのユーザ様にとって自分のペースを取り戻し、行きたい場所へもう一歩踏み出すための選択肢でありたいと考えています』(鄭さん)

今後は、個人様向けの体験機会の拡大に加え、フィットネス施設、高齢者向けサービス事業者、自治体、リハビリテーション領域の関係者などとの連携も進めていく予定だそう。歩行支援を「介護が必要になってから」の領域に閉じ込めるのではなく、予防、健康づくり、日常の活動量向上という文脈で広げていく。

スマートウォッチが、かつては特別な機器だったものから、日常の中に自然に溶け込む存在になったように、歩くためのロボットも、いつか当たり前の選択肢になるかもしれません。WIM Sは、その第一歩です。自分のために、家族のために、そして社会全体の健康寿命のために。グロービズは歩くことを諦めない社会づくりに挑戦し続けていく。

出展

内閣府「令和7年版 高齢社会白書」
厚生労働省「要介護認定 認定調査員テキスト」
Takayanagi et al., Scientific Reports, 2022
Lim et al., Scientific Reports, 2025