EC市場の拡大に伴い、物流の最前線は常に「空間」と「時間」のジレンマに直面してきた。多品種の商品を抱えるほど、その保管には広大な土地が必要となり、ピッキング距離が伸びることで出荷速度が落ちてしまうという背反。このように、従来は「物理的な広さ」が生産性を規定するという常識が支配的であったが、その制約が今、ロボティクスとソフトウエアの融合によって書き換えられようとしている。
2026年5月、株式会社HAI ROBOTICS JAPANは、コクヨ株式会社の新物流拠点「東北IDC」において、高密度保管ソリューション「HaiPick Climb System」を国内で初めて本格導入した。最大27万SKU(Stock Keeping Unit=在庫管理の単位)という膨大な商品群を標準規模の拠点の中に凝縮し、自在に操る。この「縦」の空間を徹底活用するアプローチは、深刻化する物流の労働力不足やコスト増に対する現実的な解となる可能性を秘めている。(文=RoboStep編集部)
2026年5月11日に発表されたこのプロジェクトは、コクヨグループでEコマースサービスを展開する株式会社カウネットの物流機能などを統合した戦略拠点「東北IDC」において実装された。その中核を担うのが、昇降機能と高速走行を兼ね備えたロボットによるGTP(Goods to Person)ソリューションである「HaiPick Climb System」だ。
(引用元:PR TIMES)
HaiPick Climb Systemの最大の特徴は、従来の自動倉庫の概念を超える高密度保管能力にある。ロボットが天井高を最大限に活かして「縦」の空間へとアクセスすることで、標準的な規模の拠点でありながら、最大27万SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理・受発注における最小の管理単位)という大規模拠点に匹敵する品揃えを可能にしている。作業者の元へ商品が自動搬送される仕組みにより、スタッフの歩行時間は大幅に削減される。
また、本拠点ではハードウエアの導入にとどまらず、システム全体の最適化も図られている。株式会社日立製作所の統合型マテハン(※)制御システム「ユニバーサルWCS®」および搬送計画最適化エンジン「LogiRiSM」と連携し、オーダー投入順序や搬送ルートをリアルタイムで最適化する体制を構築。複数の物流設備を一元的に制御することで、高密度な保管体制と高速出荷を両立させている。
(※)マテハン(マテリアルハンドリング):製造・物流現場を効率化する機械設備の総称
(引用元:PR TIMES)
この高度な連携により、主要3拠点の実績平均と比較して、生産性は約40%向上する計画だ。さらに、在庫ロケーションの自動管理が実現したことで、棚卸業務の工数も既存拠点比で50〜70%削減される見通しとなっている。ロボットという「身体」と、最適化エンジンという「知能」が密接に同期することで、拠点内工程の全体最適が図られているのだ。
今回の「東北IDC」における取り組みが示唆するのは、ロボット活用の主導権が「単体の自動化」から「システム全体の統合最適」へとシフトしたという構造的転換だ。
これまでの物流DXにおいては、特定の工程をロボットに置き換える「部分最適」が主流であった。しかし、地価の高騰や用地不足が深刻化する中で、既存の土地面積の価値を「高さ」によって倍増させる技術は、都市近郊型物流のあり方を根本から変える力を持つ。限られた平面的面積を立体的に再定義し、そこに高度な制御ソフトウエアを組み合わせることで、標準規模の倉庫であっても巨大拠点以上のパフォーマンスを発揮させることが可能となった。
また、日立製作所の最適化エンジンがオーダー順序を管理し、それにロボットが即座に反応する「知能と身体の調和」は、今後のロボティクス実装における標準的な姿といえる。ロボットは単なる搬送機ではなく、データに基づいた「意思決定を形にする執行者」としての役割を強めている。こうした垂直統合型のシステム構築は、教育コストを抑えつつ、多様な人材が働く現場の生産性を底上げするための有効な手段となるだろう。
日本の物流は、「規模の拡大」から「密度の向上」へと大きく舵を切った。複数のシステムを統合し、空間を徹底的に使い倒す次世代物流モデルの確立は、限られた資源の中で最大のパフォーマンスを追求する日本型DXの理想形の一つを体現しているといえるだろう。テクノロジーと地域社会が共生するこの新たな拠点の運用は、停滞する物流業界に流動性をもたらす確かな一歩となることが期待される。