中国では昨年、人型ロボットの試験的量産や導入が始まるなど、世界をリードしていたロボット産業でさらなる発展を遂げました。かつて同業界における最大の課題と言われていた主要部品の国産代替も進んでおり、ロボット産業チェーン全体の国産化率も2023年から2025年にかけて約3割から約7割にまで向上したと報じられています。かつて筆者も、中国国内における産業記事では日系やドイツ系企業の名前ばかり目にしていましたが、これが昨年頃から目にする機会が大きく減ったという実感があります。
そんな強盛極まる中国ロボット産業にとって、現時点において課題とみなす問題とは何なのか。この問いは日本のロボット産業に対しても一つの視座を提供するのではないかと思え、今回は中国メディアが報じるロボット業界のボトルネック「部品、技術、運用」の三方面の課題についてご紹介します。
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
まず部品に関しては、前述の通り中国はこの3年間で劇的に国産化率を高め、その成果を国内で大きくアピールしています。ただ慎重な声も未だ根強く、中国経済情報紙の経済参考報では「汎用部品ならまだしも、精度や信頼性要求の高い部品はいまだに海外の先進水準に劣っている」と指摘しています。その上で外資依存度が特に高い部品として、GPUと精密センサーを具体的に挙げていました。
この両者は経済参考報に限らず、他のメディアなどでもよく国産化の向上が必要な部品として指摘されています。ロボットの動作を司る上で最重要部品と言ってもよい箇所であり技術障壁も高く、中国も未だに国産化を達成しきれていない分野のようです。
また汎用部品に関しても小型軽量化の必要性が訴えられています。重量はロボットの安全性、効率性を大きく左右し、軽量であるほど有利となってきます。この軽量化に関しては複数の部品を一体化するモジュール化が提唱されており、特に複数のセンサーを統合する試みなどがよく紹介されています。
続いて技術方面の課題を見ていくと、これはほとんどのメディアで「動作の柔軟性」こそが今後の課題であるとほぼ一致していました。
ここで述べる柔軟性とは具体的にどんなことかというと、例として挙げられていたのは握力の強さでした。具体的には固くて重い物は強くつかむのに対し、豆腐のような柔らかくて軽いものは優しくつかむといったように、対象によってその握力を適切に変える柔軟性、自主判断力が次の技術課題とされています。
既に一般化しつつある姿勢制御に関しても、風の強い環境、荒れた路面や傾斜など、あらゆる状況に対応しながら安定した二足歩行を実現できるかという点でも、ロボット自身の柔軟性が今後求められてくると予想されています。
(引用:TechShare公式Youtube 「Unitree H2」高自由度制御を実現するヒューマノイドロボット)
こうした柔軟性を実現するには、システムの反応速度が最も求められます。状況を瞬時に認知して対応させる反応処理に関してはこちらも現在発達が進むAIの活用が広がっていますが、一般的な大規模言語モデル(LLM)ではなく、対応範囲こそ狭まるもののより迅速な処理が可能な小規模言語モデル(SLM)の活用も最近話題に上がるようになってきています。この点はまだ方向性が定まってはいないとみられますが、各状況への柔軟な対応が今後のロボット開発における一つのテーマとなってくる可能性が高いでしょう。
なおロボット向けAIに関しては、その訓練データの確保も技術課題の一つとしてよく挙げられています。リソースや規格の共有化が叫ばれており、中国政府もこうした声を汲み取ってか近年、AI用訓練データの取引市場を整備するなど市場面からこの分野への支援に取り組んでいます。
最後に運用面における課題として、こちらも多くのメディアが共通して、人間との協同作業、連携の実現を最重要課題に据えていました。
現在、ロボットの前に人などの障害物があったとき、ロボット自身がよけて通る技術はもはや珍しくありません。ただ人間が急に目の前で転んだり、飛び出してきた場合となると避ける ことは難しくなり、火災や漏水といったイレギュラーな状況が重なれば尚更です。そのため北京大学による調査によると、技術者の68%が人とロボットの近距離での共同作業に対し慎重な見方をしており、特に突発的状況における責任認定を懸念しているとされます。
人との協働を実現する上での技術課題としては、安全性への課題とも言い換えることができますが、その安全性の担保において最も重要な性能となるのは前述の反応速度です。認知から瞬時に動作に移して衝突や巻き込みなどの危険行為を回避することが求められ、これが今はまだ一定の水準に至っておらず、人との協同作業は時期尚早という結論でほぼ一致しています。
この課題を克服するに はAIや半導体の処理速度もさることながら、センサーの性能も強く求められます。しかし近年、センサーの性能向上に伴い、想定以上に光や音声を感知してしまって誤動作を起こす センサーデータノイズともいうべき現象が中国で観察されています。単純な感知能力だけでなく、必要な情報を必要な分だけ感知し、不要な情報はシャットアウトする繊細さも今後センサーには求められるでしょう。
以上、三方面において中国のロボット業界に提唱する目下の課題をまとめましたが、全体としてはやはりハードよりもソフトウェアやシステム方面のブレイクスルーが特に重視されているように感じます。これら課題の解決にあたって中国ではロボット規格の整備やAIテック企業との連携も叫ばれており、非常に組織立った動きを見せています。
日系企業各社においてはこうした中国の技術開発競争に注意を払うとともに、まだ注目されていない大きな課題に着手するというのも一つの方針になるかと思います。また既に一定の成果を出している中国企業との連携も選択肢にあると思え、中国企業が抱える課題に共同で取り組むといった柔軟な方針も検討されるべきではないかと考えます。