ロボットが働きやすい建築デザイン「ロボットフレンドリービルディングデザイン」を掲げる戸田建設が、その考え方を共有し、ロボットとの協働の在り方を考える本連載。RFBDでは“ロボット専用の最新ビルを新築すること”にとどまらない。むしろ重要なのは、既に存在する多様な建物に対して、ロボットが自律的に動ける環境を、どう構築できるかという視点だ。
第2回となる今回は、築年数を経た「相模原市役所本庁舎」での実証実験をレポート。“既存設備を活かし、ロボットとどう連携させるかに焦点を当て、ロボットが自らエレベーターを利用して移動できる環境づくりを実現。その導入思想について語っていただく。(文=戸田建設株式会社 イノベーション本部 イノベーション推進統轄部 事業化推進部 ロボフレ推進課 長幡逸佳さん、編集=RoboStep編集部)
こんにちは。戸田建設 ロボフレ推進課の長幡です。皆さんは、ロボットが働く場所と聞いてどこを思い浮かべますか?レストランや空港、最新設備が整った物流倉庫を想像されるかもしれません。しかし、日本の建築の大部分は既存の建物です。ロボット活用を社会に広げていくためには、新築時だけを前提とした設計思想では不十分です。
私たちが提唱する「ロボットフレンドリービルディングデザイン(以下、RFBD)」はロボットを前提にゼロから建物を設計することだけを意味しません。既存の建物環境に対して、設備や運用をどう調整すれば、ロボットが人と共存しながら安全に動けるか――その“導入の考え方”まで含めて設計することを重視しています。
そこで今回ご紹介するのは、配送ロボットの実証実験。舞台として選んだのは、日々多種多様な市民が訪れる神奈川県の「相模原市役所本庁舎」です。1969年度竣工と半世紀の歴史がある庁舎において、ロボットが自分でエレベーターに乗り移動するという実証実験を行いました。
相模原市は「ロボットのまち さがみはら」というビジョンを掲げ、市民生活や企業活動にロボットが自然に溶け込む都市を目指す取り組みを進めています。当社が推進するRFBDとは、ロボットの普及と運用環境を一体で考える点で、高い親和性がありました。
相模原市本庁
私たちが目指したのは、単なるロボットの「導入」で終わらせず、「社会実装」を見据えた大きな一歩を踏み出すことです。
そのため、あえて難易度の高い「庁舎の中心にあるエレベーター」を使用し、さらに多くの人が行き交う「昼間の時間帯」に実験を行いました。これには、市民の皆様に未来の日常を間近で見ていただきたいという、私たちの強い思いを込めています。
「ロボットが自分でエレベーターに乗った!」という驚きが、やがて「当たり前」の風景に変わっていく。その変化のプロセスを、市民の皆様と共有したかったのです。
今回のプロジェクトは、ゼネコンである戸田建設、自治体である相模原市、そして地域企業が結集した「さがみはらロボットビジネス協議会」の、「三者連携」による挑戦となりました。2025年6月、この三者で「ロボットフレンドリーな環境構築に係る実証事業に関する協定」を締結し、プロジェクトが開始しました。
協定式の様子
当社はこれまで培ってきた「ロボットフレンドリービルディングデザイン」の知見を最大限に活かし、プロジェクト全体の統轄を担いました。ロボットとエレベーターの連携に関するコンサルティング、既存エレベーターの改修と連携システムの設置なども行っています。今回は、本プロジェクトの詳細について詳しくご紹介します。
本実証実験では、開発した自律配送ロボットが本庁舎6階の「総務事務センター」を起点に、エレベーターに乗って、各フロアへ物品の配送を実施しました。このロボットは、市民の皆様の投票により「はこまる」と命名されました。
案内表示のパネル下にある引き出しに物品を入れて配送するシンプルな構造ながら、自分でエレベーターの乗降ができるようになっています。
開発した自立配送ロボット「はこまる」。物品を「はこぶ」役割と
既存のロボット職員「ななまる」にちなんだ親しみやすい「まる」を組み合わせて命名
エレベーターの連携には、三菱電機ビルソリューションズ製のビル運用ソリューション「Ville-feuille®」と、今回開発したロボットが連携しました。これにより、ロボットが自らエレベーターを呼び出して目的階へ移動する「完全自動のフロア間移動」を実現しています。
ここで重要なのは、「ロボット単体の性能」だけではありません。
ロボットが安全に動くためには、建物設備との接続、運用ルール、人との動線、安全対策まで含めて、一体で設計する必要があります。特に市役所といった公共施設では、多様な来庁者が行き交い、時間帯によって人流も大きく変化します。ロボットにとっての死角も多くあり、運用が難しい場合が多いです。
この環境において、センサーによる障害物検知や歩行者への配慮を行いながら、安全に目的地まで走行できることを事前に何度も検証しました。加えて、公共施設には欠かせない安全性を担保するために、ICカード認証によるボックス開閉などのセキュリティ機能も開発しました。

館内走行の様子
今回の実験は、指定した時間に到着する時刻表運用を行いました。これは、開発条件を踏まえた運用上の工夫から生まれました。当初は、依頼に応じて都度スタート・ストップできる仕組みも検討していましたが、コストや期間を踏まえ、時刻表による運用を採用しました。ロボットは時刻表に基づいて運行し、各階のロボット停留所に約15分間停車。その間に依頼者が物品を受け取る仕組みとなっています。
結果として、“いつ来るかわからない”不安を減らし、“この時間に行けばよい”というわかりやすさと安心感につながりました。
今後、本格運用となれば、ロボットは特別な存在ではなく、施設の中に自然に溶け込みながら自律的に動くことになります。だからこそ、今回の実験を通じて多くの方にロボットに触れていただき、心理的なハードルを下げて「理解」を得るプロセスこそが、物理的な設備以上に重要であることを改めて認識しました。
荷物受け取りの様子
今回の実証実験を経て、実際に庁舎で働く職員や市民の皆様からアンケートをいただきました。業務の効率化への期待感はもちろんですが、利便性と安全性のバランスについて、様々な意見をいただいています。
今回の実証実験で得たことは、既存設備とロボットをどう接続し、どのような運用ルールを設計するか。そして、人がその存在を自然に受け入れられる環境をどうつくるか、ということです。
私たちは、今回の経験を活かし、市役所本庁舎内での本格実装を目指しています。あわせて、この取り組みを公共空間でのモデルケースとし、市内の他の公共施設、さらには民間のオフィスや商業施設など、街全体の建物へと、この「ロボットフレンドリー」な環境を広げていきたいと考えています。
ロボットと人が共生する風景が、相模原市から全国へ広がる未来。私たちは、新しい日常をこれからも形にしていきたいと考えています。
次回の連載では、さらに一歩踏み込んで、当社が自ら開発を手掛ける「TODA BUILDING」での最新の取り組みについてご紹介する予定です。どうぞご期待ください。(つづく)
関係者集合写真