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2026.04.10

「歩く無駄」をゼロに。直感操作の搬送ロボ

事業が成長し、製造拠点を拡大する。本来なら喜ばしいはずの拠点移転が、現場の従業員にとっては「歩く距離が長くなる」という皮肉な労働強化に繋がってしまうことがある。製造業において、部品や製品を次の工程へ運ぶ「搬送」という作業は、付加価値を一切生み出さない時間だ。この物理的な「移動の無駄」を徹底的に排除し、人間を本来のクリエイティブな業務に集中させるためのソリューションが、補聴器の製造現場で劇的な成果を上げている。(文=RoboStep編集部)

拠点拡大のジレンマを解消。月間110kmの移動を自動化


(引用元:PR TIMES

2026年3月12日、業務用自律移動ロボットの開発・販売を手掛ける株式会社Preferred Roboticsは、世界的な聴覚ヘルスケアグループの日本法人であるデマント・ジャパン株式会社の製造拠点に、自律搬送ロボット「カチャカプロ」を導入した事例を発表した。

「カチャカプロ」は、専用のキャスター付きシェルフの下に潜り込んでドッキングし、必要なものを指定した場所へ自動で運ぶ小型の搬送ロボットだ。スマートフォンアプリで簡単に経路設定ができ、導入に伴う工事も不要。幅55cmという狭い通路でも走行できる小回りの良さと、導入しやすい価格帯を強みとしている。

(引用元:PR TIMES

デマント・ジャパンは需要拡大に応えるべく、2025年8月に従来の約1.5倍の面積を持つ新拠点へ移転した。生産ラインを後戻りのない一方向に再配置したことで全体的な業務効率は上がったものの、工程間の物理的な移動距離が伸び、人の手による部材搬送が従業員の大きな負担となる懸念があった。

そこで、この移動の無駄を徹底的に排除するため、4台の「カチャカプロ」を導入。カスタマーサービスから修理工程への約40m、修理工程から品質管理工程への約30m、そして組立工程から品質管理工程への約40mという3つのルートで、補聴器や指図書の搬送をロボットに任せたのだ。

(引用元:PR TIMES

注目すべきは、その操作の極端なシンプルさである。ロボットを呼び出して目的地へ向かわせる「往路」の指示は、手元に置かれた物理的な専用ボタン(カチャカボタン)を押すだけで済む。そして、ロボットを元の場所へ帰す「復路」の指示は運んできた専用のシェルフを直接ポンと揺らすだけ。センサーが振動を読み取り、自動で元の場所へ戻っていく仕組みだ。

現在、この運用によって4台合計で月間110km以上という膨大な距離の自動搬送を実現しており、従業員は歩行に奪われていた時間を本来の製造や修理業務に充てられるようになっている。

現場の環境を変えずに導入。身近になる運搬のアウトソース

これまで、無人搬送車や自律走行搬送ロボットといった設備は、大規模な自動車工場や巨大な物流センター向けの大掛かりなシステムというイメージが強かった。導入にあたっては床に磁気テープを貼るなどの大改修が必要になり、操作にも専門的な知識が求められるケースが多かったからだ。

しかし、「カチャカプロ」のような次世代の自律搬送ロボットは、そうした導入のハードルを劇的に引き下げている。専用アプリ上で進入禁止エリアや稼働経路を簡単に設定できるため、現場の環境に一切手を加える必要がない。コンパクトな車体は人間と協働する狭いエリアでも小回りが利き、安全に稼働する。そして何より「シェルフを揺らすだけ」という、デジタル機器の操作に不慣れなスタッフでも直感的に理解できるインターフェースが、現場へのスムーズな定着を可能にしている。

日本の製造業を支える多くの中小規模の現場にとって、「人を増やすか、莫大な投資をして大掛かりなシステムを入れるか」という二者択一はもはや過去のものとなった。スマートフォンを購入するような手軽さで、自律型のロボットを「歩くことの代行者」として雇い入れる時代が到来したのだ。

人間は高度な技術を要するコア業務に特化し、単調な移動はロボットが担う。このリーズナブルで合理的な分業体制こそが、人手不足に苦しみながらも成長を目指す日本の現場を救うための、新たなスタンダードとなっていくはずだ。