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2025.09.10

「安らぎ」を数値化 キヤノンITSとブリヂストンが“柔らかいロボット”で共創実証

キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)と、株式会社ブリヂストンの社内ベンチャーであるソフトロボティクス ベンチャーズ(以下、ブリヂストン)は、共創による実証実験を実施した。この実験は、ブリヂストンが開発中の柔らかいロボット「umaru」が提供する「安らぎ」の体験が、実際にどの程度のストレス改善効果を持つのかを、キヤノンITSが研究開発中の「顔映像解析によるストレス状態推定技術」を用いて客観的に検証することを目的としている。

キヤノンITSは、PCやスマートフォンのカメラで顔を撮影するだけでストレス状態を推定する技術の研究開発を進めてきた。今回の実証実験では、この技術を活用した「ストレス解析ツール」の試作品を用い、その技術的な有効性を検証する。

実験は2025年2月から3月にかけて、キヤノンITSの天王洲事業所にて行われた。参加者は、ゴム人工筋肉でできた優しく包み込むような柔らかいロボット「umaru」を体験。その前後で、ストレス解析ツールによるストレス指標の計測と、参加者本人のストレス自覚に関するアンケートが実施された。


(引用元:PR TIMES

検証の結果、参加者の約70%において「umaru」の体験後にストレス指標の減少が見られた。統計的にも、体験前後のストレス指標値には有意な差が確認されたという。さらに興味深いのは、アンケートで「心のリフレッシュをとても感じた」と回答した参加者の方が、ストレス指標の改善値が大きい傾向にあったことだ。この結果は、ストレス改善の度合いを客観的な数値で定量化できる可能性を示唆している。


(引用元:PR TIMES

「感覚の可視化」がもたらすウェルネスとロボットの新たな関係

今回の実証実験が持つ最も大きなインパクトは、「安らぎ」という極めて主観的な感覚を、顔映像解析技術によって客観的な数値(ストレス指標)へと可視化した点にある。これまで個人の感想やアンケートに頼るしかなかった「癒し」や「リフレッシュ」といった感覚を数値で捉えられるようになれば、リラクゼーション製品やウェルネスサービスの開発プロセスは大きく変わる。効果を科学的に証明し、開発段階での改善や、他の製品との客観的な比較を可能にする新たな評価軸が生まれるからだ。

ブリヂストンが開発する「umaru」のようなソフトロボットは、この新しい評価軸の上でその真価を発揮する。工場の生産ラインで稼働する従来の産業用ロボットとは異なり、「umaru」は人間の感情や精神面に直接働きかける存在だ。物理的な作業支援ではなく「安らぎ」や「心の解放」といった情緒的な価値を提供するロボットは、ストレスが蔓延する現代社会において、メンタルヘルスケアの領域で新たなソリューションとなる可能性を秘めている。

この取り組みはまた、異業種共創が生み出すイノベーションの好例でもある。IT・映像解析技術に強みを持つキヤノンITSと、素材科学とソフトロボット技術を追求するブリヂストンの社内ベンチャーという、全く異なる分野の専門知識が融合した。この連携により、「安らぎの定量評価」という、単独では実現が困難だった新しい価値が創出されたのだ。

「ストレス解析」と「癒しを提供するプロダクト」の組み合わせは、今後も多様な分野への応用が期待される。例えば、オフィス環境の改善施策や、福利厚生として導入するリラクゼーションツールの効果測定など、従業員の健康を経営資源と捉える「健康経営」の文脈で極めて有効なツールとなるだろう。あるいは、医療・介護現場での利用者のメンタルケアや、教育現場における児童のストレスチェックといった分野への展開も期待される。今回の実証実験は、テクノロジーが人々の「心の状態」を客観的に理解し、それに優しく寄り添うことで、よりウェルビーイングな社会を実現するための重要な一歩と言える。