ドローン関連技術の研究開発を行うブルーイノベーション株式会社は大阪府富田林市にて、屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」を用いた下水道点検技術の検証を実施した。この取り組みは、国土交通省による「老朽下水道の緊急重点調査」を受けた社会的な要請に応えるものだ。特に、硫化水素の発生や流水などにより、人力での調査が困難かつ危険な管路において、安全性と効率性を両立する新技術の導入可能性を探ることを目的としている。
(引用元:PR TIMES)
検証は、富田林市内のボックスカルバート(箱型暗渠)と円形の管渠という2種類の閉鎖空間で行われた。本検証で用いられた球体ドローン「ELIOS 3」は、GPSが届かない環境下でも独自のSLAM技術によって自己位置を推定し、安定した飛行を実現。搭載された高輝度LEDライトと高解像度カメラが、暗い管内の状況を鮮明に映し出した。
検証には、府内約15の自治体から行政関係者も参加。彼らの目の前で、ELIOS 3は従来では把握が難しかった合流部の汚泥の堆積状況などをリアルな映像で捉え、その有効性を示した。参加者からは「予想以上に映像が鮮明」「飛行が安定しており、安心して見ていられる」といった高い評価が寄せられたという。
さらにこの実証では、単に映像を撮影するだけでなく、取得した点群データを専用ソフトウェア「Inspector」で解析し、3Dマップを生成。マップ上で映像の撮影位置を正確に把握したり、任意のポイント間の距離を計測したりといった、より高度なデータ活用が可能であることも示された。これは、撮影された映像が「単なる記録」から分析・活用可能な「使えるデータ」へと昇華することを示すものだと言える。
下水道管路のような閉鎖空間での点検は、酸欠や有毒ガス、崩落など、常に命の危険と隣り合わせの作業だ。「ELIOS 3」のような屋内点検用ドローンは、こうした危険な場所へ人間の代わりに進入することで、作業員の安全を根本から確保する。まさに、インフラメンテナンスにおける「危険作業ゼロ」に向けた大きな一歩と言えるだろう。
そして、ドローンがもたらす価値は安全性の確保に留まらない。点群データから生成される3Dマップは、管路の状態を客観的かつ定量的なデータとして把握・管理することを可能にする。これにより、熟練作業員の経験や勘に頼ることが多かった従来の点検から、データに基づいた計画的な維持管理、すなわち「予防保全」へと、インフラメンテナンスのあり方そのものを変革する可能性を秘めている。
今回の検証に参加した富田林市の職員からは、「ドローンで撮影された映像が非常に綺麗で、操作も簡単だった。点検箇所を3Dマップ上で確認できる点も魅力的」という評価とともに、「今後、自動飛行や、異常箇所の自動検出などができると良いなと思います」といった次なる進化への具体的な期待の声も寄せられた。このコメントは、現場が求めているのが「単なる遠隔操作ツール」ではなく、より自律的に判断し、人間の負担をさらに軽減してくれる「賢いパートナー」であることを示唆している。
ブルーイノベーションは、スイス・Flyability社製の「ELIOS 3」という優れたハードウェアを、日本の下水道点検という特定の課題に合わせて最適化し、その有効性を実証・提案している。海外の先進的な技術と日本のインフラが抱える現場のリアルな課題とを繋ぎ、現実的なソリューションとして構築できる企業の存在は、技術の社会実装を加速させる上で不可欠だ。
下水道だけでなく、橋梁、トンネル、プラント施設など、高度経済成長期に建設された日本の社会インフラは一斉に老朽化の時期を迎えている。限られた予算と人員でこれらの膨大なインフラを維持管理していく上で、ドローンと3Dデータを活用した点検ソリューションは、もはや不可欠な技術となりつつある。今回の検証は、テクノロジーが人々の安全を守り、持続可能な社会基盤を支えるための力強い一歩と言えるだろう。