東京理科大学発のベンチャー企業、イノフィスがアシストスーツ「マッスルスーツSoft-Power®」を販売。訪問介護看護事業所に計34台導入された。介護職員の深刻な腰痛問題と人手不足に対し、身体的負担の軽減と働きやすい職場環境の構築を通じて貢献する。(文=RoboStep編集部)
アシストスーツを製造・販売する株式会社イノフィスは、株式会社D&Mコーポレーションが運営する「ケアネットワークいやし」および「ケアネットワークいやし早良」の2拠点へ、サポーター型アシストスーツ「マッスルスーツSoft-Power®」を計34台納品したと発表した。介護施設への一度の導入数としては、業界的に見ても大規模なものとなる。
(引用元:PR TIMES)
この大規模導入の背景には、介護業界が直面する深刻な「腰痛問題」がある。介護職員の高齢化が進む中、腰痛は休職や離職の主要な原因の一つとなっている。特に、入浴介助や移乗、おむつ交換といった身体介護業務では、前傾姿勢や利用者を支える動作が頻繁に求められ、職員の腰に大きな負担がかかる。この身体的負担が、慢性的な人手不足に拍車をかけている状況だ。
今回導入を決めたD&Mコーポレーションの代表取締役である関 和雄 氏は、導入の経緯を次のように語る。「当事業所では、要介護4・5といった中重度の要介護者を中心に、医療的ケアも含めた在宅生活を支援しています。入浴介助や移乗といった業務でのスタッフの腰への負担は大きく、過去にはそれが原因で退職者や欠員が発生するなど、職場環境の改善が急務となっていました」。こうした中、福岡県の介護ロボット導入支援事業補助金を活用し、複数の製品を比較検討。コストと現場での使いやすさのバランスに優れた「マッスルスーツSoft-Power®」の導入に至ったという。
導入後、現場のスタッフからは「腰をサポートしてくれるので無理な体勢が減った」「腰への負担が軽くなり、作業効率が上がった」といった具体的な声が寄せられている。さらに、関氏は「アシストスーツの導入は、職員を大切にする姿勢の象徴としてリクルート面でも好影響を与えています」とも語り、人材確保の面でも効果を実感している。同社は今後、職員全体での着用を促進し、働きやすい職場づくりと「欠員ゼロ」の実現を目指す。
導入された「マッスルスーツSoft-Power®」は、イノフィスが培ってきた人工筋肉のアシスト技術をサポーターに組み込んだ製品で、腰の負担を35%軽減する効果が実証されている。
今回のD&Mコーポレーションへの大規模導入は、アシストスーツが介護現場にもたらす価値を多角的に示している。
まず腰痛の不安なく介助に集中できる環境は、職員の精神的な余裕を生み、結果として利用者一人ひとりに対する、より丁寧で質の高いケアに繋がる。これはアシストスーツが単なる身体的負担の軽減ツールではなく、介護サービスの質そのものを向上させるための重要な投資であることを意味する。
「リクルート面でも好影響」という関氏のコメントは、特に示唆に富んでいる。深刻な人手不足に悩む介護業界において、人材の確保と定着は経営の最重要課題だ。アシストスーツのような先進的な機器を積極的に導入することは、「職員の身体を資本と考え、大切にする企業である」という明確で強力なメッセージとなり、求職者にとって大きな魅力となる。設備投資が、企業の採用力強化に直接的に繋がることを示す好例だ。
また、導入のきっかけとして福岡県の補助金が活用された点も見逃せない。介護ロボットやアシストスーツは、その効果が認知されつつある一方で、価格が導入のハードルとなるケースも少なくない。国や自治体によるこうした補助金制度は、特に中小規模の事業者が先進技術を導入する上で大きな後押しとなり、業界全体のDXを加速させる上で不可欠な役割を担っている。
アシストスーツは、あくまで介護という「人間によるケア」を支えるサポート技術だ。仕事の最も過酷で身体的負担の大きい部分をテクノロジーが補助することで、介護職員は身体的な消耗から解放される。その結果、利用者とのコミュニケーションや心のケアといった、人間にしかできない温かみのある業務により多くの時間とエネルギーを注げるようになるのだ。「マッスルスーツSoft-Power®」のようなアシストスーツの普及は、経験豊富な介護職員が健康に長く働き続けられる環境を整え、日本の超高齢社会を持続可能なものにするための重要な鍵となるだろう。