近年、人型ロボットの開発や生産が進み、量産を行い大規模商業投入する企業も出始めてきました。こうした人型ロボット製品に牽引される形で、ロボットの中核部品らも近年市場が拡大しており、今後のさらなる発展が早くも期待されています。
そんなロボットの中核部品とくれば、筆者が以前にも紹介したサーボモーターのほか、その動作を制御するソフトウェア(アルゴリズム)などもさることながら、もっとも市場性が高いものとなればやはりその五感を制御する、センサーにおいてほかならないでしょう。
そこで今回はロボットに使用されるセンサーの種類とともに、現在注目されている中国センサー企業についてご紹介します。
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
ひと口にセンサーと言っても、その機能や技術はそれぞれ大きく異なり、種類は文字通り千差万別です。ではロボット産業で用いられる主なセンサー種類は何かとなると、まず最も代表的なのは間違いなく力覚センサーでしょう。
動作(モーメント)の強さを検知し、ロボット自体の動きを制御する力覚センサーはあらゆるロボット製品に搭載されており、その性能の良し悪しはロボットの動作精確性に直結します。ロボット製品には六軸力覚センサーが主に使用されており、現在この方面の投資が中国においても活発化しつつあります。
続いて近年その重要度が増してきているものとして、ロボットの「眼」にあたる視覚センサーが挙げられます。ロボットがそのカメラ内に収めた視覚情報を処理することはその自律運動において欠かせず、特に距離感の把握が重要であるため3D視覚センサーの需要が急増しており、中国でもこの分野で新興企業が増加してきています。
そして第三のロボットセンサー分野としては、やや将来的な市場であるものの、その触感を司る触覚センサーが注目されつつあります。ロボットの対象に「触れる」という行為は、物体の運搬や抜き取りといった動作に必ず付随するもので、これら対象の固さや形も認知しながら動作を調節する触覚センサーも、ロボットの重要センサー分野として挙げられています。
以上のほかにも、音声指示を聞き取る聴覚センサー、動作中の速度を調整する慣性センサーなども人型ロボットには必須とされており、各社で研究開発や試作が積極的に行われています。機能を限定したロボットであれば話は別ですが、人型ロボットともなると多種多様なセンサーが同時に求められます。
本題の中国センサー業界について話を進めると、まず市場の大前提として、現在の中国センサー市場はほぼ外資の独占状態にあり、中国系企業の存在感はあまり高くありません。
とはいえ中国もセンサー部品、ひいては将来のロボット市場の重要性は理解しており、近年はさまざまな奨励政策を打ち出してセンサー業界の国産代替化を推進しています。
そうした背景もあってか、現在の中国におけるセンサー関連企業は約7割が設立から10年内と若い企業で構成されており、老舗と呼べるようなセンサー企業はあまり多くありません。逆を言えば、それだけ市場からの資金調達も活発で、ベンチャー企業に溢れているとも言えます。
(引用元:企査査より作図)
先ほど挙げた主要センサー種類別に更にみていくと、まず力覚センサーに関しては現在の中国市場における外資比率は約7割とみられています。しかしほかのセンサー種類に比べれば、中国系企業のシェアがまだ高い部類に入り、国産代替化が最も有力視されている分野となっています。この力覚センサーの代表的企業には2007年設立の南寧宇立儀器有限公司が挙げられ、同社の中国市場シェアも12.2%と確固たる地位を築いています。このほかの代表的な中国力覚センサー企業としては、常州坤維伝感科技有限公司、寧波柯力伝感科技股份有限公司、江蘇東華測試技術股份有限公司の名がそれぞれ中国メディアより挙げられています。
次に視覚センサーについてみていくと、この分野では現在、ロボットに採用する技術方式が定まっておらず、さまざまな技術プランが優位性を競う状況にあります。ただこうした状況の中、奥比中光科技集団股份有限公司が性能指標において、外資大手メーカー水準にも匹敵する視覚センサーをリリースしており、同分野におけるリーダー的中国企業と目されています。そのほかに一定のシェアを持つ有力企業としては、杭州海康機器人股份有限公司、深圳市深視智能科技有限公司の名が挙げられます。
最後に触覚センサー市場に関しては、触覚と同時に視覚も司るセンサーを発表している帕西尼感知科技(深圳)有限公司が、この分野における有力企業として目されています。このほかには設立間もないベンチャー企業ばかりであるものの、上場エレクトロニクス企業の漢威科技集団股份有限公司の子会社にあたる蘇州能斯達電子科技有限公司も触覚センサーを専門に取り扱っており、市場から一定の期待感を持たれています。
引用:CBN Weekly 中国ロボットメーカー PaXini(パシーニ)の触覚ハンドDexH13
単位:億元(引用元:中国産業研究院、国泰君安証券より作図)
冒頭にも述べた通り、近年のロボット生産技術の向上、生産台数拡大に伴い、ロボットの五感ともいうべきセンサーの需要量も高まってきています。中国国内だけを見ても、2023年のセンサー市場規模は前年比7.36%増の3,324.9億元(約6.7兆円)に上り、2024年は同12.27%増の3,732.7億元(約7.5兆円)に達すると見込まれています。
このセンサーというのは何もロボットに限らず、工作機械や民用機械など幅広い分野で応用されています。特に近年は乗用車の自動運転などでも需要が急増しており、技術革新も日進月歩で進んでいます。
こうした状況はセンサー業界にとって追い風であるものの、裏を返せばそれだけ競争も激しさを増してきているとも言えます。実際に中国は重要調達物資と位置づけ、官民一体となってセンサー製品の技術向上、生産量拡大を推進しています。
センサー分野で日系企業は現在優位があると誰もが認めています。しかし上記のような状況、特にロボット開発でリードを保つ上では、積極的な投資開発をこちらも官民を挙げて取り組む必要があるかもしれません。