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2025.05.28

アバター×ロボットの新たな就労形態。メタバースから「ありのまま」に働ける時代へ

「障がい者がアバター姿で働ける世界を創る」――。メタバースでは現実世界とは別の自分「アバター」を通して生活し働くことが可能なことから、新しい社会参画方法として活用が期待され、各プラットフォームで実証実験なども進んでいます。

メタバース内で完結するだけでなく、「メタバースから現実世界へ働きかける」新たな事例も存在。そこで鍵を握るのが「ロボット」です。2024年3月、京都で行われた「ロボットメタバース就労プロジェクト」の成果報告会は、まさに今後メタバース×ロボットが就労分野にもたらす可能性を示唆していました。

今回MetaStep編集部は、当プロジェクトを共同で進めていたゆずプラスさんとHalle Game Lab(ハレゲームラボ)さんに寄稿を依頼。今回のプロジェクト全貌について振り返ってもらいながら、それぞれの視点から、アバター×ロボットの可能性について語っていただきます。それでは皆さん、よろしくお願いします!

(メタバース×ロボットの可能性を探った記事 【インタビュー】メタバースの日常化。鍵を握るのは“ロボット技術”!? も併せてご覧ください。)

株式会社ゆずプラス 広報部

山下 陽 氏

株式会社Halle Game Lab(ハレゲームラボ)  代表取締役

坂井 冬樹 氏

社会拡張×別世界創生=“拡別”なメタバースへ

みなさん、こんにちは。ゆずプラスの山下です。

私たちは自社で3DCG制作体制を持ち、メタバース空間の制作やイベントの企画、新規事業の提案を行う制作会社として、メタバース×教育といったプロジェクトにも取り組んでいます。(関連事業:メタバース不登校学生居場所支援プログラム「ぶいきゃん」)

私たちは2010年代初頭から、京都府のエンターテインメント分野においてAR/VRを活用する事を推進し、さらに異分野への展開も広げてきました。特に昨今では、京都府ものづくり振興課が推進している「拡別メタバース」に注目して展開を進めています。

デジタルツイン等、社会参画の新しい形を追求する「社会拡張」、個人体験の高度化を追求する「別世界創生」。この2つの方向性に沿ったメタバースプロジェクトそれが“拡別”なメタバースづくりです。

この内、別世界創生プロジェクトとしてHalle Game Labが行ったのが、メタバース空間からロボットを操作する事業です。特に2023年度はゆずプラスが主導し、「ロボットメタバース就労」プロジェクトを実施しました。

本プロジェクトの目的は、メタバースと現実世界の双方向コミュニケーションを可能とする就労システムの開発です。メタバース(VRChat等のソーシャルVRプラットフォーム)にログインしたユーザーが、遠隔地のロボットにアクセスして疑似的にロボットに乗り移り、接客などの就労を行います。

2024年3月7日(木)には「ロボットメタバース就労」の実証実験成果報告会を開催しました。発達障がい者かつトランスジェンダー、元新聞記者のVTuber蘭茶みすみ氏と、第4頸椎損傷者で一般社団法人REARV 副理事のおにく氏の2名が、メタバース上からロボットに乗り移り、ロボット操作・双方向コミュニケーションを実演しました。

 ロボットメタバースで接客を行う、VTuber蘭茶みすみ氏

使用しているロボットは遠隔操作で移動可能なロボットKeiganHATO(ケイガンハト)です。テレビ会議+ロボット+遠隔操作技術を組み合わせたもので、Webブラウザ上で遠隔地のロボットを操作することができます。操作者はメタバース内にログインした状態でロボットを操作し、スクリーンにはメタバース内の映像(操作者のアバター)が映し出されます。

 

なぜアバターをスクリーンに映すのか

ロボットのスクリーンには、操作する本人自身の顔(実写)ではなく、アバターが映っています。その理由について結論から言うと、アバターという「なりたい自分の姿」であることによって、他人と接するのが苦手という人が、働きやすくなると考えているからです。

アバターとはメタバース空間における自分自身の姿です。現実世界の見た目に関係なく、アバターによってその人の有りたい姿になることが出来ます。犬や猫、ロボットなど、人間以外の姿になることさえ可能です。また人によってはボイスチェンジャーなどを使って、好きなように声を変えられることさえできます。

「現実世界の姿と違うアバターを使ったり、ボイスチェンジャーを使ったら、かえって周囲から浮いてしまうのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。たしかに真面目な会議をしている空間で、笑いを誘うようなアバターを使用していたら、迷惑になる可能性はあります。ですが、基本的にメタバース空間では、毎日のように使用しているアバターを変えたり、ボイスチェンジャーを使って会話することが、当たり前になっています。言い換えれば、それらが受け容れられる環境が出来上がっています。

だからこそメタバース空間では、コンプレックスなどを隠して他人と交流することができます。例えば、「本当は特定の性別として見られたい(男性、女性、無性など)」という悩みを抱える方には、特に効果が高いと言えます。無言であっても、身振り手振りや筆談(空中に文字を書けるVRペン)、エモート機能(音符や絵文字を表示する機能)でコミュニケーションができます。「現実世界で喋ることは苦手だけど、アバター姿ならば気兼ねなく話せる」という人は少なくありません。

ロボットメタバース就労のシステムは、将来的に自宅にいながら勤務できる接客業・観光業として活用されます。メタバース内における普段のコミュニケーションを、そのまま現実世界の人物に対しても適応できる特徴は、就労者にとって大きな助けになるでしょう。

あとがき:SFを楽しむ時代から、現実世界に作り出す時代へ(Halle Game Lab 坂井様)

こんにちは。Halle Game Lab 坂井です。

私たちは、VRや脳波・ロボットなどを用いたゲーム開発をメイン事業とし、「メタバースを現実世界へ拡張する」をコンセプトに様々な実証実験を行っています。2024年にはドバイでの展示会を行い、日本だけでなく、世界をゲームの力で楽しくすべく活動中です。

大阪・関西万博が始まってしばらく経ちますが、そこではiPS細胞でできたミニ心臓が実際に鼓動しているのを見ることができます。今まではSFの中でしか存在しなかったものが、次々と現実世界に作り出されています。

AIやロボット・iPS細胞を組み合わせた「いのち輝く未来社会」、それらを実際のまちの中で見られる時代が訪れるのでしょうか。空想の世界にしか存在しなかった「憧れ」を現実化していくことで、人々がこの世界にワクワクできる時代を作り出していきたいです。

私たちの取り組みも、その一助になれたらと思っています。

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