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2025.04.14

ロボットが派遣バイト?中国における人型ロボットの使い道

近年、AIとともに急速に技術革新が進んできているといわれる人型ロボット。実際ネットで動画を探すと、歩いたり走ったりするだけでなくジャンプしたり、梯子を上ったり、回し蹴りをしてみせたりと、体重移動の複雑な動きですらキレよくこなす姿を見ることができ、数年前と比べてもこの方面で格段に技術が向上していることが分かります。

そうした技術革新もあってか、ロボット大国中国でもロボット掃除機、配膳型ロボットに続く形で、BtoBとはいえ人型ロボット市場が形成されつつあります。価格破壊ともいうべき低価格で一般販売するメーカーも現れ、関連産業への投資も増加傾向にあります。

ではそうして市場で販売され、買われていった人型ロボットはどう使われているのかというと、日当5万円などで各地で利用されているようです。今回はこうした、中国人型ロボット市場の現状について紹介します。

担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)

中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。

価格破壊の立役者のユニツリー社

2024年5月、中国ロボットメーカーの杭州宇樹科技有限公司(UNITREE 以下、「ユニツリー社」)はオンラインショッピングサイトにて、同社の人型ロボット「G1」を9.9万元(約204万円)の価格で受注を開始しました。低コストを強みとする中国においても、同社のこの価格は従来と比べ桁違いな低価格で、人型ロボットの市場価格を大きく引き下げたと指摘されています。

(引用元:TechShare株式会社UNITREEの人型ロボット「G1」

低価格なだけに販売も好調なようで、成都商報の報道によるとユニツリー社の営業担当は販売状況について、「購入相談の電話が鳴りやむことはなく、ショーや飲食接待での活用、工場での現場応用方法などを詳しく聞かれている」と述べています。また今後の市況に関しては、「1台3,000~4,000元(約62万~83万円)の水準に入って初めてコンシューマークラスの時代へと入れる」とも述べ、さらなるコストダウン、低価格化に貪欲な姿勢を見せています。

こうした動きはユニツリー社に限らず、その他のロボットメーカーも人型ロボットのコンシューマー化を視野に価格低減へと動き出しています。技術向上はもとより価格の低下も今後進むと踏まえたうえで、北京日報は業界関係者の予想として「最も早くて2028年にも、人型ロボットはコンシューマー化する」という意見を紹介しています。また同関係者は、2035年までに世界人型ロボット市場の生産台数は年間140万台、市場規模は380億米ドル(約5.7兆円)になるとも予測しています。

人型ロボットの使い方は派遣バイト?

ではBtoBが主とはいえ、一気に買いやすくなった人型ロボットを購入した人たちはこれをどのように使用しているのか。結論から言うと、人型ロボットを各地へ派遣し活用するというのが主だそうです。

成都商報の報道によると、ネット上では人型ロボットが日本円で1台当たり日当約1万~5万円でリースする業者が、昨年から急増しているそうです。こうした業者によると、派遣先はeスポーツ団体や商業施設などが多く、主催するイベントの客寄せとして人型ロボットをリースするケースが多いそうです。

肝心の売り上げについてリース業者によると、当初の予想を超えるほど反響が高く、派遣要請がひっきりなしに来ており、すでに数カ月先まで予約がいっぱいとなっているそうです。実際派遣時にはその操作を制御する技術者も帯同させなければならないものの、現在のリース料価格でもロボット本体の購入代金を数カ月の運用で回収できると述べています。

こうした状況からロボット派遣業者も、人型ロボットの追加調達を検討しています。しかし人気のユニツリー社のロボットを含め、現在人型ロボットは需要に供給が追い付かず、あちこちで売り切れが続いているとされています。

踊れるかが大事?

では人型ロボットは派遣先で、どのように使われるのか。

前述の通りその役割は客集めで、イベント上で観客の目の前に押し出してパフォーマンスをして見せることが重要となります。パフォーマンスと言っても安価な人型ロボットとなるとその動作は限られてくるため、主に歩く、手を振る、握手するなどがメインとなってきます。

この点についてある中国の記事では業者に対し、「ロボットは踊れないの?」という質問を投げつけていました。それに対し業者は「踊らなくても客は来る!」と反論しており、妙なやり取りが載せられていました。

ただ一見すると珍妙なやり取りのように見えますが、この客寄せパフォーマンスの質を問うという意味では「踊れないの?」というのは重要な問いかけであるような気もします。

人型ロボットというと、重たいものを持ち上げたり、人が入れない危険な現場で作業したり、複雑な工程を自動でやってくれたりという夢のような活用法が想起されがちです。しかし現在の技術では、こうした複雑で負荷の重い作業を人型ロボットがまだ担える水準にはありません。今、人型ロボットが期待され、実際にこなせることと言ったらやっぱり客寄せパフォーマンスであり、見ている人にすごいと思わせる動作となっています。

そうした観点で言えば「踊れるか」は現在の人型ロボット技術においてまだ実現可能な範囲で、なおかつ見せ場のある動作であるとも言え、これをこなせるかどうかが人型ロボットの価値としては確かに重要になってくる気がします。そのうえで、今後しばらくはこうした路線が続くと見られ、見栄えのある動きをどれだけこなせるかが、人型ロボットとしての価値を大きく左右することになると筆者は思います。

ロボットメーカーもこうした市況をにらみ、より複雑で見栄えのする動作実現を、開発の重心に置いてくるだろうと予想します。無論、こうした複雑な動作の実現がさらなる用途の実現にもつながるだけに、その開発方針が間違っているわけではないでしょう。そういう意味では今の人型ロボットに一番求められているのは、アイドルと同じく人目を惹くような、歌って踊れるパフォーマンス能力だと言えるかもしれません。