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2025.03.18

【独占取材】アイリスオーヤマ「ロボットメーカー構想」の現在地~DX清掃ロボットが成長を加速!?

2027年度に業務用清掃ロボット関連事業の年間売上高で1,000億円を目指す。アイリスオーヤマが掲げた目標だ。2020年にロボティクス市場に参入。2021年にソフトバンクロボティクスとの合弁会社アイリスロボティクス(現、ISロボティクス)設立で足がかりをつくり、2023年には、東大発スタートアップ スマイルロボティクスの全株式を取得。2025年中にハード・ソフト両面において自社で製造できる基盤を構築し、ロボットメーカーとして次のステージを目指す。

ロボティクス事業を牽引するのが、同社で初めてハードウェアの自社内製化を実現したDX清掃ロボット「BROIT(ブロイト)」だ。事業の現在地や目指す方向性、「BROIT」の可能性等、アイリスオーヤマ株式会社 執行役員 ロボティクス事業部 事業部長 吉田 豊 氏に聞いた。(文=RoboStep編集部)

高い志と目標を持ち、市場を自ら創造する

― アイリスオーヤマのロボティクス事業が着実に歩を進めていますね。

将来、サービスロボットがコモディティ化したときに、自社でロボットを製造・販売できるようになりたい。そんな思いで2020年にロボティクス業界に参入しました。当社が経営理念の柱のひとつに掲げているのが「ジャパン・ソリューション」。培ってきた製造・販売の両方の強みやノウハウを生かし、日本の社会課題を解決するための「ソリューション」を提供したいという強い思いです。

アイリスオーヤマ株式会社 執行役員 ロボティクス事業部 事業部長 吉田 豊 氏

労働力人口減少は、日本の喫緊の課題です。国内の労働力人口は高齢者の長期雇用や外国人労働者の増加などを背景に、実態としてここ数年は増加してきました。ただ「2025年問題」と呼ばれる日本の人口の5人に1人が75歳以上となる今年から、労働力人口は加速度的に減少していくとされています。こうした課題をロボティクスで解決したい。そしてロボットメーカー、ロボットベンダーとして、世界に挑戦していくような企業になっていきたいと考えています。

2027年度に業務用清掃ロボット関連事業の年間売上高で1,000億円を目指すという目標は決して簡単ではありません。シンクタンクが発表している市場予測の数字から、無謀と思われる読者の方もいるかもしれません。ただ、高いハードルを設定しているからこそ、「あるべき姿」を描き、具体的な取り組みに落とし込むことができていますし、ロボットメーカーとして「市場を自ら創造する」という方針で取り組んでいます。

― そのためにロボットの内製化を進めているわけですね。

市場を創るためには、メーカーとして、ベンダーとして、ロボットに関するハード、ソフト両面での知見を自社で持っていなければなりません。2023年には、東大発スタートアップ スマイルロボティクス(現、シンクロボ)の全株式を取得し、内製化に向け大きく舵を切りました。スマイルロボティクスは、早くからロボット事業を手掛けていましたが、高い技術を持ちながらも、なかなか社会実装が進められない課題がありました。同じビジョンを持ち、高いロボット開発技術をもつスマイルロボティクスをグループ化したことで、当社のロボティクス事業は加速しました。

業界の慣習や仕組みがロボット導入の壁となることも

― 2020年の参入から4年余り。ものすごいスピード感ですね。
一方で、サービスロボットの社会実装は課題が山積みとも言われます。どのように捉えていらっしゃいますか。

ご指摘の通り、売上に対する人件費の割合が高い労働集約型の産業においても、ロボット活用は道半ばです。当社もこの点は徹底的に議論、追求しました。「便利で、課題を解決する商品が目の前にあるのに、なぜ売れないのだろう」と。その答えを持っているのは、やはり現場なんですよね。当社は、市場を創るために現場に足を運び、徹底的にヒアリングを重ねました。

例えば、清掃ロボット開発において、清掃業の方に深くまでヒアリングしましたが、現場は大変という一言では済まされない。早朝から、時には深夜帯にも、廊下の床拭きやトイレ掃除を人の手で行っている実態がある。他方、経営側においても、慢性的な人手不足に陥っている。冷静に分析していくと、清掃ロボットに任せた方が良い場面はたくさんある。それなのにも関わらず、導入はされない。

DX清掃ロボット「BROIT」も徹底的なヒアリングから生まれた

ここでさらに深く「なぜ清掃ロボットを使わないのか」をひも解いていくと、便利であることは理解しているが、現場からは「どう使えばよいのか分からない」という声が多かったんです。ロボットに限らないですよね。DX商材もSNSも、いくら便利な道具でも、使いこなせなければ価値はない。とりわけロボットにおいては、投資額も大きいですから、使いこなせず、ただ機械が置かれている状態になってしまうとそれはお飾りで、結果「人がやったほうが良い」となってしまう。それでは導入が加速するわけもありません。

ここには、業界の慣習や仕組みが影響している点もありました。例えば、新築のオフィスビルが建設され、清掃計画を立てる際、「人」がベースになっているのがこれまでのやり方です。オペレーションについても「人」がベース。「最初に5階を掃除し、次に4階。それを2時間でやる、だから3人が必要」など、すべて「人」が軸に考えられています。

こうした部分を当社では「ロボット」を軸に実証実験をしてみました。すると人とロボットの協働によって効率化できることがわかり、導入が進んでいったわけです。とはいえ、施設の形、従業員数、働いている年齢層など、導入先により事情が全く異なります。当社は、業界の方や専門家のご協力を得ながらこうした取組みを地道に進めていきました。そうした中、コロナ禍で清掃や除菌への意識、ニーズが高まり、小売業界においても導入に対して前向きなお声が増えていきました。

「100店舗で一気にトライアルする」など、これだけの規模で実証実験と改善できるのは、当社だからこそ実現できると自負しています。ロボティクスで市場を創ることに本気に向き合い、取り組んできたことが、結果として当社のロボティクス事業の強みになっているように思います。

ロボット稼働に係る作業負荷も清掃ロボットを使い続ける重要なポイント

― DX清掃ロボット「BROIT」の市場からの評価はいかがでしょうか。

大きすぎず、小さすぎず、中型のサイズが「あるようでなかったサイズ感」と市場に評価頂いています。清掃ロボットは、導入してから重要な点があります。それは日々のメンテナンスやロボットを稼働する作業負荷の側面です。水拭きをするロボットは、水の交換を行う必要があるので、水タンクの取り外しなどメンテナンスが複雑だったり、作業自体が重労働になったりしてしまうとロボットを活用する意味がなくなってしまいます。ある程度のサイズがあり、清掃の性能を担保しながらも、簡単にメンテナンスができる点に考慮して開発を進めました。高齢者でも使えることも重要視しています。

「BROIT」は、充電切れや水切れをすぐに解決できる着脱可能なバッテリー(※)と水タンクを採用している

バッテリー(※)の交換も片手でスムーズにでき、清掃を中断せずに運用できる 

(※)バッテリーは1本が標準装備。2本目以降はオプション。

もちろん、今のものが完璧と申し上げるわけではありません。導入が進み日々色々なお声を頂いていますから、そうした声を日々反映し「BROIT」も進化し続けなければなりません。その点においても、今後ソフト・ハード両面で常に改善ができる内製化の実現は、大きな意味を持つと思います。

― 今後特にどのようなターゲットに「BROIT」導入を進めていきたいですか。

1,000平米規模のオフィスビルや店舗、施設には、是非もっと活用頂きたいです。セラミックタイルなど、油汚れを掃除するニーズにも応えていきたい。医療現場では、院内清掃に課題をもつ病院も多いので、病院での導入も進めていきたい。まだまだ活躍の場は、日本中にたくさんあります。

取材当日は、床をコーヒーで汚して「BROIT」のデモを実施頂きました

― 最後に、アイリスオーヤマのロボティクス事業の展望をお聞かせください。

人口減少は間違いなく続きますし、日本の大きな課題となります。こうした課題を解決するソリューションを提供し続けたいですし、その期待に応えることで、ロボティクス事業は成長できると確信しています。当社では「BROIT」を「DX清掃ロボット」と定義しています。単純な課題解決だけであれば、IoT機器でも良いかもしれません。ですが、私たちが目指すのは「日本の社会課題を解決すること」です。デジタル化により社会や生活スタイルが変容していくことを意味する「DX」をあえて「清掃ロボット」の前に付けているのはこうした意図があります。

 

「日本企業だからこそ、ロボットで世界に勝てる強みがある」と吉田氏は力強く語った

サービスロボット、ヒューマノイドロボットなど、ロボティクス業界も日進月歩ですし、未来は誰もが予測できません。業務用清掃ロボット関連事業の年間売上高で1,000億円を超えたとしても、ようやくキャズムを超えたと言える段階かもしれません。当社のロボットメーカーとしての挑戦は始まったばかりです。これからも、目の前のお客様と向き合い、良いロボットの提供はもちろん、導入や運用面も含め、支援してまいります。