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2025.03.03

ローカルメタバース最前線 ロボット×メタバースの取り組みは進むのか

ロボットとメタバース。一見縁遠いように思うかもしれないが、ロボットは仮想空間とリアルをつなぐ重要な役割を果たすと期待されている。サーバー費用などコスト面が障壁となると言われていたメタバースだったが、近年注目を集めているのが、USBメモリなどで持ち運び可能な「ローカルメタバース」だ。ロボットビジネス支援機構(RobiZy)での取り組みと、その可能性についてレポートする。(書き手=吉野 渉)

※本記事は『RoboStep Magazine【RobiZy特別編集版】』に掲載した記事を再掲載したものです。 
 その他の記事は、冊子電子書籍でお読み頂けます。

吉野 渉(合同会社 未来アクセラレート 代表)

未来アクセラレートでメタバース、ARなどさまざまなWeb3.0のサービスを展開。RobiZy主催NFTコンペ「アイデア部門」グランプリや販促コンペ「協賛企業賞」、徳島DXフォーラム「ソフトバンク賞」など多くの受賞歴あり。RobiZyのメタバース展示場「REAMoR」を制作。関西ロボットワールド2023では、メタバースとロボットを融合させた革新的な体験を提供。


ロボットとメタバースの融合を実現

2023年、関西ロボットワールドのロボットビジネス支援機構(RobiZy)ブースにおいて、メタバース展示場「REAMoR」を使用した日本初の試みが実施されました。この取り組みでは、メタバース上でアバターが行った動作が、現実世界のロボットに反映され同じ動きを行うというメタバース起点の新しいロボット制御技術が確立されました。これにより、ロボット用のコントローラーを使わずに、メタバースを介してロボットに指示を送ることが可能となり、遠隔地での就労やさまざまな現場での活用が期待できます。

メタバース上(写真奥)でアバター操作を行うと、現実のロボット(写真手前)が操作結果を実行する


複数ロボットの一括管理の利点

効率的な運用

ロボット×メタバースのメリットは動作反映だけに留まりません。例えば、ロボットの管理です。メタバースを介して複数のロボットをリアルタイムで監視・制御できるため、余計な動きを極力減らしリソースの最適化が容易になります。特に、広範囲にわたる業務や分散した施設内での作業において、複数のロボットを一括管理することで、効率が飛躍的に向上します。従来のシステムでは個別にコントロールしていたロボットも、メタバース上で統合的に管理することで、より効率的な作業が可能です。

ロボット×メタバースの運用がさらに進むと、一括管理や企業間連携も実現可能に


コラボレーションの強化の利点

遠隔地チームとのシームレスな連携

他にも、プロジェクトの効率化にも貢献します。メタバースを通じて、離れた場所にいるチームや専門家が同じバーチャル空間で作業できるため、各地のスキルや知識をリアルタイムで集約可能です。例えば、修理や保守作業が必要な際に、現場の技術者がメタバース内で遠隔のエンジニアと協力し、リアルタイムでロボットに指示を出すことが可能となり、迅速な対応が実現します。

このように、メタバースを基点としたロボット管理技術は、メーカーの垣根を越えてロボット同士が協働する未来への一歩を示しています。ロボットとメタバースの融合についての特許をロボットビジネス支援機構(RobiZy)が取得しております。(特許第7554505号「ロボットインターフェースシステム」)


ローカルメタバースとは

ここまではロボット×メタバースの利点をお伝えしました。しかし、一般的なメタバースはインターネット上で稼働するため、サーバー負荷や通信の遅延、コスト面の課題が常に付きまといます。これにより、現在のメタバース環境は高品質な体験を提供する上で非常に高価になっているのが現状です。こうした現状の制約を克服する新しいアプローチとして登場したのが「ローカルメタバース」です。

ローカルメタバースは、メタバース環境をUSBメモリなどに保存し、他のPCに簡単に持ち運んで再現する「オフラインで表現可能なメタバース」です。サーバー負荷を解消し、持ち運びの容易さを兼ね備えた効率的なバーチャル空間の提供を実現することで、オフライン環境化でのプレゼン等に最適です。

USBメモリで持ち運び、オフラインですぐにプレゼンできるのがローカルメタバースの強みだ

通常、メタバースは3Dモデルや複雑なシミュレーションをリアルタイムで処理するため、大規模なサーバー環境が必要であり、これによりモデルの簡略化が避けられず体験の質が低下することがあります。しかし、ローカルメタバースではPC1台で直接メタバースを動作させるため、サーバーの維持費や負荷を気にすることなく、高品質な3D空間を再現可能です。さらに、ローカル環境であれば、インフラ整備のコストを大幅に削減でき、高性能PCを活用して複雑なシミュレーションも実行可能です。

ローカルメタバースは、従来のオンラインメタバースの限界を補完するだけでなく、オンラインの制約から解放されたことで、クリエイティブな表現やシミュレーションの精度が高まり、今後ますます多くの分野でローカルメタバースの需要が高まることが期待されています。手軽なバーチャル空間の活用を可能にし、メタバースの新しい方向性を示す重要なステップとなるでしょう。


ローカルメタバース×VR

ローカルメタバースは、USBメモリなどの物理メディアを使って環境全体を持ち運ぶことで、商談や展示会で多くの利点をもたらします。特にインターネット接続が不安定な場所でもメタバース環境を体験できるため、出先でのプレゼンテーションや展示会で大いに活躍します。また、確認作業として活用もできます。例えば、未設置の新規工場や設備をバーチャル空間で再現し、実際の配置やロボットのサイズ感を確認することで直感的に共有確認が行えます。よって、従来のカタログや写真では伝わりにくい「大きさ」や「配置のイメージ」を視覚的に確認できるため、選択がより容易になります。さらに、現実に近い体験を提供し、製品選定やプロジェクトの企画段階でユーザーの意思決定をサポートします。

ローカルメタバースで再現した物流倉庫。オフラインでも高クオリティなプレゼンが可能だ

今後は人とロボットが協働する際の「距離感」が重要になってきます。人が快適に作業できる空間を保ちながら、ロボットが効率よく動ける導線を設計する必要があります。このバランスが取れなければ、協働作業の効率や安全性が損なわれる可能性が高くなります。ロボットが人間に近すぎると不安を感じさせる一方で、遠すぎると効率が低下します。そのため、最適な距離感を見つけ出し、調整することが重要です。

オンラインメタバースが展示会などで時間や距離を超えた体験を共有できるのに対し、ローカルメタバースは営業担当が環境を持ち運び、商談でリアルな体験を共有できる個別相談に適しています。今後、オンラインとローカルのメタバースを状況に応じて使い分ける未来が期待されます。

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