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2025.02.03

【インタビュー】600者以上が共創!社会実装が加速! 群馬の産学官連携はなぜ機能したのか

ビジネス創出、次世代育成、地域活性化から研究支援。企業や自治体が求める産学官連携の理想が群馬県に詰まっている。その裏には、県内産業の隆盛を願う群馬県庁の取り組みがあった。産学官全てのエネルギーが集まるプラットフォーム「ぐんま未来イノベーションLAB」には、新たなビジネスの可能性を求め、県内外から自治体や支援団体、大学等600者以上が参画。しかし、決して群馬県が特別な訳ではない。LAB担当者の地道な努力と行動が成し得た結果だ。その取り組みと秘訣を知るべく、群馬県庁の未来投資・デジタル産業課 デジタル産業創出係 係長 稲垣 雄樹 氏と主事 川野 史暉 氏を取材した。産学官連携による地域イノベーションの最前線に迫る。(文=JapanStep編集部)

県庁からデジタル産業の未来を創る

―ぐんま未来イノベーションLABとは何か、具体的にお伺いします。

私たちの所属である群馬県デジタル産業創出係が運営する、異業種連携のプラットフォームです。社会・経済情勢の不確実性が増す中、オープンイノベーションの視点から企業同士、あるいは官と民をつないで、県内企業の新しいビジネス創出を支援しています。

産学官連携の「官」の立場として、群馬県が抱える課題に日々向き合っています。人手不足や少子高齢化、人口減少の中で、これまでと同じような製品・サービスを維持していくには効率化が求められます。デジタル技術はその手段の一つですが、群馬県では山本一太知事が「日本最先端クラスのデジタル県を実現する」という方針を掲げ、デジタル技術の活用に力を入れています。

「新しいことは群馬で試す」をキーワードに、群馬県を実証フィールドとして、デジタル技術を活用した新しい社会課題解決のためのサービスやプロジェクトを創出していきたいと考えています。

また長期的な視点で、群馬県はデジタルクリエイティブ人材の育成にも注力しています。小中高生が、最先端のデジタル機材やソフトウェアで創作活動を行うことのできる全国初の施設「tsukurun(つくるん)」や、国際的に評価の高い中高生向けのデジタルクリエイティブ人材育成プログラムをアジア初導入して、「TUMO Gunma」を来年夏にオープンするなど若者へのデジタル教育に力を入れています。育った人材が県内で活躍できる場を作るため、デジタル技術を活用した新しいビジネスを検討する企業を支援し、人材が群馬県内で循環する仕組みづくりを目指しています。

tsukurun」の様子。使える設備は撮影音響機材から3DCG制作ソフトまで多岐にわたる

人・場所・資金を一元化、600者が参画する支援プラットフォーム

―ぐんま未来イノベーションLABは、具体的に何ができるのでしょうか?

ウェブサイト上で会員登録をすると、企業や団体とのマッチング、各種セミナーやワークショップへの参加、補助金の申請など、様々なサービスを利用できます。1件あたり3,000万円の補助金も用意していますが、これはラボの会員であることが申請要件となっているんです。

また最近は、実証フィールドの提供も始めました。県庁の建物はもちろん、市町村の道路、河川、公園、民間企業の農園など、様々な場所で実証実験ができます。現在600者以上の会員がいますが、このプラットフォームを通じて、人とのつながり、実証の場所、資金面での支援、この3つを組み合わせながら新しいビジネス創出をサポートしています。

 

公共施設、学校、一般道など数々の施設が実証フィールドとして利用可能

―実証フィールドの提供は画期的ですね。こういった取り組みは他にあまり例がないのでは?

そうなんです。実証フィールドの提供を掲げている自治体は他にもありますが、最初から具体的な場所を一つ一つ掲載しているところはほとんどないんですよ。

私たちのラボのウェブサイトを見れば、どんな会員がいるのか、どんな場所で実証実験ができるのか、これまでの取り組み事例など、すべての情報にアクセスできます。企業が新しいことを始めようとするときに必要な支援を、一つの窓口で総合的に提供できる。そこが私たちの強みだと考えています。

実は実証フィールドの提供は今年度から始めた取り組みなんです。最初は集まらないかと思いましたが、100件を超える場所が登録され、今も増え続けています。企業が市町村に直接「道路を貸してほしい」と電話するのは難しいですから、私たちが間に入ることで話が進みやすくなりますね。

さらに、航空法など各種規制への対応も、群馬県として一緒に伴走支援します。民間企業が単独で国とやり取りするのは大変です。そこを群馬県が支援することで、新しい取り組みがより実現しやすくなるんです。

―行政と企業の連携を進める上で、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

自治体が抱える課題やニーズを発表し、それに対する解決策を民間企業から募集する「ぐんまガバメントピッチ」なども実施しています。昨年度は2自治体の参加でしたが、今年度は4自治体に増え、それ以外にも興味を示す自治体が増えてきました。

ぐんまガバメントピッチの概要。マッチング確度が上がるよう、プレゼン資料の作成支援や発表のリハーサルも行う

 行政は新しいことに後ろ向きだと思われがちですが、実はそんなことはないんです。官民連携も含めて、新しい試みへの期待は確実に高まっています。デジタル技術を活用しながら、持続可能な地域づくりに向けて、企業も行政も一緒になって考えていく。そんな機運が着実に育ってきているのを感じますね。

500人が集まった成果発表会、3者連携で広がる可能性 

―ラボの立ち上げ当初はどのような状況だったのでしょうか?

令和4年4月に、少子高齢化への対応や持続可能な社会の実現を目指し、知事の戦略のもと未来投資・デジタル産業課が立ち上がりました。ですが最初は本当に何をしていいか分からない状態でした。

先進事例や成功事例を調べながら、一つ一つ形にしていく。ウェブサイトの作り方一つとっても手探りの状態で、まるでスタートアップのような雰囲気でしたね。そこから徐々にオープンイノベーションや官民連携の取り組みを作り上げ、今に至っています。

―2年間で多くの企業が参画されているとのことですが、具体的な手応えをお聞かせください。

支援したプロジェクトの成果発表会を県庁で開催したのですが、500もの県内企業の方々に参加いただき、予想以上の反響でした。補助金の申請件数も具体的な数字は申し上げられませんが、大幅に伸びています。「新しいことを群馬で試したい」という企業が、数字の上でも着実に増えているんです。

特徴的なのは、すべてのプロジェクトが3つ以上の主体によるコンソーシアム形式をとっていることです。2社だけで完結せず、企業、大学、地域の自治体など、3者以上で取り組むことで、より多様な視点やアイデアが生まれやすくなります。

例えば、企業が何か実証実験をしようとする時に、「大学の研究室と組むか」「地域の自治体と連携するか」といった選択肢が自然と生まれてくる。実際、今年度の補助金申請では、これまで以上に県内の自治体や大学が参画するケースが増えているんです。

自治体が加わることで、その地域ならではの課題解決につながりやすくなりますし、そこからまた新たな企業間連携が生まれることも。プロジェクトが群馬県に根付いていく可能性を秘めているというか、まさにオープンイノベーションの理念を体現する形になってきているんですよ。

MRゴーグルから自律走行搬送ロボットまで、デジタル技術で変わる現場

―企業同士の連携について、具体的な事例をお伺いします。

県内の永井製作所を中心としたプロジェクトでは、MRゴーグルを使って製造工程のデジタル化を進めています。例えばネジを締める作業において、どのくらいの強度で締めたかをトレースできたり、作業の記録を残したりすることで、納品先からクレームなどが起こっても根拠を持って対応できます。

現場におけるMR活用の様子。「技術」を可視化することのメリットは大きい

最も重要なのは、熟練工の技術を若手に伝承できる点です。何をどのタイミングで、どの順番で行えばいいのかをMRゴーグルが指示してくれるため、新人でも熟練者と同じレベルの作業ができるようになります。

このプロジェクトは、群馬県産業技術センターと永井製作所との連携から始まりました。企業の研究開発支援や技術アドバイスを行う産業技術センターが、県の補助金の情報を提供したことで話が具体化したんです。一見分かりにくい県の組織も、企業の課題解決に大きな役割を果たしているんですよ。

―物流分野でもロボット技術の活用が進んでいるそうですね。

倉庫内のピッキング作業で人とロボットが協働する、自律走行搬送ロボット(AMR)のプロジェクトも進めています。両毛システムズと群馬大学が共同で取り組んでいるものですが、特徴的なのは複数のロボットによる群制御システムです。

搬送ロボットからの指示に従って作業を進めることで、最適な目的地が示され、作業者の移動距離を削減することができる

このプロジェクトも、両毛システムズと群馬大学の研究を地元紙「上毛新聞」で知り、2024年の物流業界の課題解決になると考えて、県から補助金活用を提案したのがきっかけです。Amazonのような大手は独自に開発できますが、中小企業でも使える規模感の製品・サービスを目指しています。

このように、県内の企業や大学、研究機関をつなぎ合わせることで、新しい技術やサービスが生まれています。県がハブとなって、それぞれの強みを活かしたプロジェクトを支援することで、地域全体でイノベーションを起こしていけるんです。

地域課題をビジネスチャンスへ、伴走から自走への道筋

―群馬県として、今後最も解決したい課題は何でしょうか?

地域課題の解決について新しいアプローチを試みています。よくあるのは、地域の人々が「こんな未来があったらいいよね」と話し合い、付箋を貼って意見を出し合って、「はい、議論しました」で終わってしまうケース。でも、それでは本当の解決にはなりません。

地域の課題を企業がビジネスとして収益を上げられる仕組みにしていかないと、持続的な解決は難しいんです。そこで私たちは、既存の企業が新しいプロジェクトとして地域課題に取り組めるよう支援しています。

―そのビジネス化に向けて、具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか?

中之条町や神流町(かんなまち)などで、自治体職員から直接課題を発表してもらい、企業とのワークショップを開催しています。ただし、企業からの提案を返すだけでは意味がない。その後、自治体の担当部署と企業が継続的に話し合いを重ね、実現可能なビジネスモデルを作り上げていく。そこまでのプロセスを大切にしています。

中之条町で行われた課題発表の様子

自治体からお金をもらって手伝うだけ、という関係ではなく、企業が自立的にビジネスとして展開できるところまで持っていく。ただ、そこに至るまでのハードルは決して低くありません。だからこそ、県が伴走支援することに意味があるんです。

最終的には、私たちが主催しなくても地域が自主的に動き出す。種を蒔いて、灯りをともして、あとは地域が自走していく。それが私たちの目指す姿なんです。

小学生からメタバースで創作、先進的な人材育成の現場

―デジタル分野の取り組みとして特徴的な「tsukurun(つくるん)」について教えてください。

デジタルクリエイティブ人材の育成を目指して、「tsukurun」というプロジェクトを展開しています。小中高生を対象に、最先端のデジタル機材やソフトウェアで創作活動を行える施設です。子供たちは施設に集まって、高性能なパソコンを使いながら創作活動を行います。

メタバース空間に独自のワールドを持ち、子供たちが作成した2D3DCG作品を展示可能です。令和4年度は事業者に委託して作ってもらった作品展示をはじめとするワールドだけでしたが、令和5年度にはtsukurun利用者自身によるワールド制作、令和6年度ではメタバース空間で利用可能なオリジナルアバター制作など、より踏み込んだ取り組みを始めました。Blenderのような本格的な3Dモデリングソフトを使うには高いスペックが必要ですから、こうした環境を提供できるのは強みですね。

7回の講座があり、アバターのコンセプト設計から実際の制作、テクスチャーの調整、髪型や服装、アクセサリーの作成まで学びます。13歳以上の中高生を対象に、専門学校レベルの内容を無料で提供しているんです。

単なる作品展示だけでなく、メタバース空間での交流も重視しています。みんなで集まって作業することで技術力も向上しますし、横のつながりも生まれる。そこから親御さんの企業とのつながりに発展する可能性もあり、様々な波及効果が期待できます。学生が購入するには手の届きにくい最新機器も使え、講師のレクチャーも受けられる

デジタルで挑む持続可能な未来、全国から集まれ群馬へ

―様々な分野のプロジェクトを手がけられていますが、専門知識はどのように身につけているのですか?

本当に毎日が勉強ですね。世界の技術動向から国の施策まで、新聞を読み漁って、時にはPythonの研修を受けることなんかもあります(笑)プログラミング、ロボット、仮想空間など、扱う技術は多岐にわたりますから、ゼロからの学習も珍しくありません。テクノロジーを活用して課題を解決するという軸は同じでも、使う技術は案件ごとに違いますからね。

―最後に、群馬県の産業創出における今後の展望をお聞かせください。

群馬県は製造業を中心としたものづくり産業が主体です。そこにデジタル技術を組み合わせることで、新しい付加価値を生み出せると考えています。諸外国での戦争やコロナ禍など、想定外の出来事が次々と起きる中で、今のままでは持続可能とは限りません。

だからこそ、デジタル技術を活用した新しい領域への挑戦が必要です。それは群馬県の産業や企業、そこで働き、暮らす人々の未来を守ることにつながります。そのために、私たちは県内外を問わず、新しいチャレンジを全力で支援します。

場所の提供、人材のマッチング、そして資金面の支援。この三位一体の支援体制は、他の都道府県にはあまり例がありません。県外の企業の方々にも、ぜひ群馬県で実証実験に取り組んでいただきたい。相談だけでも構いません。私たちラボが責任を持ってサポートさせていただきます。新しいことは群馬県で試す。その思いで、皆様をお待ちしています。

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