人間の体が筋肉の「収縮」と「弛緩」で動くように、機械やロボットは「アクチュエータ」という部品によって動きを生み出しています。
製造現場でのロボットから医療機器、自動車まで、エネルギーを物理的な動きに変換する「機械の筋肉」は、産業界の自動化を支える重要な基盤技術となっています。
人手不足への対応や作業の効率化が求められる中、自動ドアやスマートフォンの振動機能など、私たちの身の回りでも活躍するアクチュエータについて、基礎知識から具体的な活用事例まで、わかりやすく説明します。
電気や油圧、空気圧といったエネルギーを使って機械的な動き(直線運動や回転運動)を生み出すアクチュエータは、「変換部」と「駆動部」という2つの要素で構成されています。
例えば電動モーターの場合、電気エネルギーを回転運動に変換するのが変換部で、その回転を実際の動きに変える歯車やベルトが駆動部となります。この仕組みにより、押す・引く・持ち上げるといった様々な動作が可能になります。
アクチュエータには、使用するエネルギー源や動作方式によってさまざまな種類があります。導入コストや維持管理の容易さも考慮しながら、用途に応じて最適なものが選ばれています。
(引用:アールエスコンポーネンツ株式会社)
最も広く使われているのが電動アクチュエータです。モーターを使って動力を生み出すため、精密な制御が可能で、小型化も容易です。さらに、設置や維持管理が比較的簡単なため、工場の生産ラインから家電製品まで、幅広い用途で使用されています。近年は制御技術の進歩により、より繊細な作業にも対応できるようになっています。
(引用:アールエスコンポーネンツ株式会社)
大きな力が必要な場面で活躍するのが油圧アクチュエータです。建設機械やプレス機械など、重量物を扱う機械に多く使用されています。小型でも大きな力を発生でき、急な負荷変動にも対応可能です。建設現場での油圧ショベルのアームや、ビル建設現場でのクレーンなどが代表的な活用例です。
(引用:アールエスコンポーネンツ株式会社)
空気の圧力を利用する空気圧アクチュエータは、動作が柔らかく、衝突時の衝撃も小さいという特徴があります。食品工場での包装作業や、人との協働が必要な製造ラインなどで利用されるケースが見られます。また、油漏れの心配がなく比較的安価なため、クリーンな環境での使用に適しています。
製造業の自動化から医療機器への応用まで、アクチュエータの活用範囲は着実に広がっています。それぞれの現場で、アクチュエータならではの特性を活かした活用方法が生まれています。
製造ラインでは、組立や搬送、検査など、さまざまな工程でアクチュエータが活用されています。
特に注目を集めているのが、人との協働を前提とした「協働ロボット」です。センサーと組み合わせることで、人の近くでも安全に作業できる柔軟な動きを実現しています。従来の産業用ロボットは安全柵の中での稼働が基本でしたが、協働ロボットは人とロボットの長所を活かした新しい製造現場を作り出しています。
自動車業界では部品の組立工程で、電機業界では基板実装の工程で、アクチュエータを搭載した協働ロボットの導入が進んでいます。
産業用ロボットの関節部分には、電動アクチュエータが使われています。6軸と呼ばれる6つの関節を持つロボットアームでは、それぞれの関節に搭載されたアクチュエータが連携して動作することで、人間の腕のような複雑な動きを実現します。
溶接や塗装、パレタイジング(荷物の積み付け)など、様々な作業を実現できるのは、この多関節構造とアクチュエータの精密な制御によるものです。最新のロボットでは、力センサーとの組み合わせにより、卵を割ることもできるほどの繊細な作業も可能になってきました。
医療・介護分野では、人との直接的な接触を前提としたアクチュエータの活用が進んでいます。
手術支援ロボットでは、医師の手の動きを精密に再現し、時には人間以上に細かな作業を可能にします。電動車いすでは使用者の負担を軽減しながら、きめ細かな運転操作を実現。
さらに、介護用パワーアシストスーツでは、装着者の動きを妨げることなく必要な力だけを補助する制御を実現しています。特に装着型の支援機器では、使用者の意図を事前に感知して適切な力加減でアシストする技術が実用化され、介護する側・される側双方の負担軽減に貢献しています。
アクチュエータは、産業用ロボットから医療機器まで、私たちの暮らしを支える様々な機械の「筋肉」として進化を続けています。人との協働や繊細な作業の自動化など、これまで難しかった課題の解決に向けて、その重要性は高まる一方です。
製造現場での活用はもちろん、医療・介護、農業、建設など、様々な分野でアクチュエータの新しい活用方法が生まれており、産業界の自動化を支える基盤技術として、今後さらなる発展が期待されています。