SF映画のようにロボットが人間の意図を汲み取り、先回りしてサポートしてくれる。そんな「阿吽の呼吸」を持つヒューマノイドの実現に向けた一歩が、2025年末のソウルで刻まれた。クアルコム・テクノロジーズ(以下、クアルコム)が主催するスタートアップ支援プログラム「Qualcomm AI Program for Innovators (QAIPI)2025」において、名古屋を拠点とするディープテック企業、AMATAMA株式会社が次世代ヒューマノイド・プラットフォームの概念実証に成功した。
クアルコムの最新エッジAIチップ上で展開されたこのデモンストレーションは、これまでのロボット開発の常識を塗り替えるものだ。ヒューマノイドが「単なる便利な機械」から、周囲の状況を察して寄り添う「共感するパートナー」へと進化する。2028年の転換点を見据え、ヒューマノイドが真の「知能」を得るための挑戦が、いま幕を開けた。(文=RoboStep編集部)

(引用元:PR TIMES )
2025年12月5日に韓国ソウルで開催された「QAIPI 2025 Demo Day」。APAC地域の精鋭15社に選ばれたAMATAMAが披露したのは、自社開発の次世代ヒューマノイド・プラットフォーム「nHOS™」の実機デモだ。この実証の凄みは、クアルコムの最新エッジAIソリューション「Qualcomm Dragonwing™ AI 100 Ultra」という極めて限定された演算資源の上で、複数の高度な知能をシームレスに連携させた点にある。
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nHOS™の中心的機能として組み込まれたのが、NECソリューションイノベータ株式会社が提供する「Ambient Intelligence(AmI)技術」だ。これは、人の行動や周囲の文脈から状況を深く理解し、具体的な指示がなくても「今は支援が必要だ」と先回りして察知する、いわば「空気を読む」知能である。従来のロボットが、人間から「これを運んで」と言われて初めて動く受動的な存在だったのに対し、AmI技術を得たnHOS™は、自ら動作の目標を定める能動性を獲得した。
さらに、その判断を受けて即座にロボットアームを動かすための「LabCraft™」という技術も統合された。これは、株式会社LaboRoboおよびTsubame Lab株式会社の協力によってエッジAIへ最適化されたアルゴリズムだ。自然言語による入力を受けて、LLM(大規模言語モデル)を応用した制御コードをリアルタイムで生成し、ロボットを駆動させる。
(引用元:PR TIMES )
今回のデモでは、具体的な指示がなくてもAmI技術が相手の状況を推察し、その目標設定に基づきLabCraft™が制御コードを自律的に選定・生成してロボットアームを動作させることに成功した。異なる得意分野を持つスタートアップと大企業。その知恵と技術が、クアルコムという世界的巨人のハードウェア上で一つの「プラットフォーム」へと統合され、成果に結実した。こうしたコンソーシアムによる開発手法こそが、複雑化するロボット開発を加速させる新たな方程式となるだろう。
AMATAMAがこの実証を通じて見据えているのは、数年後に訪れるであろうヒューマノイド市場の劇的なパラダイムシフトだ。
現在、シリコンバレーや中国を中心に「第1世代」と呼ばれるヒューマノイドの開発競争が激化している。しかし現状のロボットたちは、深刻な非効率を抱えている。各メーカーが独自の設計でハードウェアを構築しており、特定のAIエージェントを異なる機体へ展開するには多大なコストと調整の手間が必要なのだ。
(引用元:PR TIMES )
2028年頃には汎用性やエネルギー効率が人間に近づいた「次世代ヒューマノイド」への需要が急速に高まると予測され、さらに2035年には約24兆円規模にも達するとされるこの巨大市場において、AMATAMAが狙うのはハードウェアの規格化だ。
生体模倣技術を取り入れた優れた身体機能をパッケージ化し、統一された設計思想に基づく「ハードウェア・デザイン・ガイドライン」を製造事業者に提供する。その上で、あらゆるAIエージェントを容易に搭載できるnHOS™を普及させることで、ヒューマノイド界の「OS」と「プラットフォーム」の地位を確立しようとしている。
これまで日本のロボット産業は、個別の部品技術やハードウェア性能では世界をリードしながらも、プラットフォーム戦略やソフトウェアの統合において海外勢に後れを取る場面が少なくなかった。しかしクアルコムの強力なエッジAIチップを核に、国内の知能技術を結集させたAMATAMAの挑戦は、そのパワーバランスを塗り替える可能性を秘めている。
ヒューマノイドはもはや「未来の夢」ではなく、私たちの日常生活やエッセンシャルワークの現場を支える「現実のインフラ」へと脱皮を始めた。指示を待つのではなく、自ら考えて寄り添う。そんな「心」に近い知能を宿した日本発のプラットフォームが、世界標準を奪取するためにいま、力強い一歩を踏み出している。