SF映画の風景が、いま私たちの目の前で現実となりつつある。人型ロボットが画面の中を飛び出し、重力や摩擦のある生活空間へと歩み寄る。しかし、最新のヒューマノイドを操り、未来のサービスを構想できる機会は、未だ限られた層にしか開かれていない。その高い壁を打ち破る挑戦が、神奈川県藤沢市で幕を開けようとしている。Unitree G1という、世界が注目する最新機体を一般に開放するハッカソン。それは、日本のロボティクス文化における「民主化」の決定的な号砲となるだろう。(文=RoboStep編集部)
2026年3月27日・28日の2日間、神奈川県藤沢市の「ロボリンク」において、日本初(※)となるヒューマノイドロボット「Unitree G1」を使用したPhysical AIハッカソン「ロボットと生きる未来をデザインするハッカソン」が開催される。※主催者調べ
(引用元:PR TIMES )
主催はRobotMateHub(合同会社ヤマリキエッジ)。このイベントが画期的なのは、技術的な卓越性を競うのみならず、デザイナーやビジネスパーソン、研究者といった多様なバックグラウンドを持つ参加者を募り、「人とロボットの共生社会」という社会デザインの視点を中心に据えている点にある。
機材として提供される「Unitree G1」は、中国のUnitree Robotics社が発表した、これまでの常識を覆すポテンシャルを秘めたヒューマノイドだ。身長約127cm、体重35kg。小型ながら23以上の自由度 (ロボットが独立して動かすことができる軸の数)を持ち、高い運動性能を誇るこの機体は、その圧倒的な低価格化と相まって、ヒューマノイドの実装を加速させる「ゲームチェンジャー」として世界中から注目されている。今回のハッカソンでは、このG1の実機を参加者が直接動かし、自らのアイデアを形にできるという稀有な機会が提供される。

(引用元:Unitree Robitics )
運営体制も盤石だ。会場となる「ロボリンク」は、神奈川県が「さがみロボット産業特区」の取り組みの一環として開設した交流拠点であり、商談や共同研究のハブとして機能している。さらに、技術統括を担う株式会社Cognitech.DEVは、AIとロボティクスを融合させたリスク解析やシステム統合の専門家集団だ。
審査員には、ロボット議員連盟事務局長の山田 太郎 参議院議員や、人間工学の専門家、さらにはロボットと共に生活を送り発信するメディアデザインの識者たちが集結した。この多角的な布陣は、本プロジェクトが単なる趣味の延長ではなく、実社会におけるロボットの「居場所」を真剣に模索する、国やアカデミアをも巻き込んだムーブメントであることを物語っている。
(引用元:PR TIMES )
今回のハッカソンが提示しているのは、ロボット開発における「権威」の解体と、それに伴う創造性の爆発だ。
これまで、ヒューマノイドの制御やアルゴリズム開発は、莫大な資本を持つ巨大企業や限られた研究室だけの「閉ざされた領域」だった。しかし、高性能なハードウェアが普及価格帯へと降りてきて、それを制御するための基盤技術が標準化されつつある今、開発の主役は「作り手」から「使い手」へと移り変わろうとしている。Physical AI、すなわち物理的な身体を持つAIが、単なる研究対象から、ビジネスの現場や家庭内を支える「実用的なパートナー」へと進化するためには技術者のロジックだけでは不十分だ。
人型ロボットが社会に浸透する上で最大のボトルネックとなるのは、実は技術そのものよりも「社会受容性」や「サービスデザイン」にある。例えば、店舗でロボットが接客を行う際、どのような仕草で、どのような声色で話しかけるのが最適か。あるいは、プライバシーが重視される家庭内において、ロボットはどのように「空気を読む」べきか。
こうした問いへの解は、エンジニアのコードの中からではなく、デザイナーの感性やビジネスパーソンの市場感覚、そして多様な人々の対話の中から生まれる。ハッカソンという短期間で集中して異質な知見をぶつけ合う場は、ロボットの「新しい専門性」を育むためのインキュベーションとして極めて有効に機能するだろう。
また、日本のロボット産業が世界で戦うための「勝ち筋」も、こうしたソフト面の実装力に見出せるはずだ。ハードウェアの製造において海外メーカーの勢いが加速する中で、日本が培ってきたホスピタリティや、きめ細やかなオペレーション設計のノウハウを、いかにヒューマノイドという新しいメディアに移植できるか。
ハードウェアを自前で抱え込む「自前主義」から、開かれたプラットフォームを使いこなし、社会に溶け込むサービスを創り出す「実装力」の戦いへ。藤沢 から始まるこの小さな実験は、日本の産業界がヒューマノイドという未知の身体を使いこなし、未来の日常をデザインするための重要なステップとなるに違いない。