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2026.02.19

四足歩行ロボットに「国産」の選択肢を。アールティが「Mujina」で挑む重要インフラのデータ主権奪還

犬のように軽快に歩き、階段や瓦礫といった不整地をものともせず駆け抜ける四足歩行ロボット。かつてSF映画の中の存在だったその姿は、いまや建設現場の測量やプラントの巡回監視において欠かせない「現場の相棒」になりつつある。しかし、その市場を米国や中国のメーカーが独占している現状に対し、日本の産業界は深刻な危惧を抱いてきた。
2025年末の国際ロボット展で初めてその姿を現した、国産四足歩行ロボット「Mujina(ムジナ)」。ロボット開発の老舗、株式会社アールティが始動させたこのプロジェクトは、単なる新型機の開発にとどまらない。それはまさに、日本の重要インフラを「見えないリスク」から守り抜き、国内のロボット産業が自立するための必然にして切実な挑戦である。(文=RoboStep編集部)

Mujinaが切り拓く“国産”ロボットの系譜

アールティが推進する「国産四足歩行ロボット実用化プロジェクト」が、本格的な用途開発フェーズへと突入している。その第一段階として発表されたのが、研究開発用モデル「Mujina」だ。

(引用元:PR TIMES

これまで四足歩行ロボットの世界では、圧倒的な運動性能を誇る米国製や、驚異的な低価格を実現した中国製が市場を席巻してきた。対してアールティが提示したMujinaは、あえて「第0号」の開発モデルと位置づけられている。これは量産を急ぐのではなく、まずは日本の現場が求める「仕様」を徹底的に検証し、国内企業が安心して使える技術基盤を構築しようという戦略的な構えだ。

Mujinaの大きな特徴は、世界的なロボット開発の標準規格である「ROS 2」をベースにしつつ、オープンハードウェアで開発者がカスタマイズしやすい構造を採用している点にある。これにより、導入企業は自社の特殊なセンサーやAIアルゴリズムを自由に組み込むことができ、独自の点検・巡回ソリューションを自前で構築することが可能となる。

さらにアールティは、Mujinaで得られた知見をもとに、敷地の広い現場向けの「大サイズ」、工場内点検用の「中サイズ」、そして隘路(あいろ)を通り抜けるための「小サイズ」といった、用途別の産業向けシリーズを量産化する計画を立てている。

(引用元:PR TIMES )

特筆すべきは、機体そのものだけでなく、ロボットの「心臓部」とも言えるモーターの国産化にも着手している点だ。現在、高性能なAIロボットに不可欠な高トルクモーターは海外製に依存せざるを得ない状況にあるが、アールティは独自のパートナーシップによりこの国産化を推進。1〜2年後の量産化を見据えた開発が進んでいる。これは、部品レベルからサプライチェーンを自国で完結させようとする、極めて骨太な取り組みと言える。

「経済安全保障」としてのロボティクス

このプロジェクトが国内の重要インフラ事業者から熱烈な支持を受けている背景には、技術的な関心を超えた「切実なリスク管理」の要請がある。

四足歩行ロボットが投入される現場は、発電所、通信基地局、大規模工場といった、国家の機能に直結する重要インフラだ。そこで行われる点検や巡回で取得されるデータ――高精細な画像や点群データ、設備の稼働ログ――は、まさに企業の営業秘密であり、国家のセキュリティに関わる機微情報に該当する。

しかし、海外製のロボットを使用する場合、その制御系やデータの通信経路がブラックボックス化しているという懸念が常に付きまとう。「データが意図しないサーバーへ送られていないか」「バックドアが仕掛けられていないか」という不安を完全に拭い去ることは難しい。実際、重要インフラ事業者の中には、導入の絶対条件として「国産であること」や「サプライチェーンの透明性」を挙げる企業が急増している。

Mujinaが目指すのは、こうした「信頼の断絶」を埋めることだ。データ管理のルールや安全基準を国内のパートナー企業と共に策定し、情報の出口までを自国内で管理できる体制を整える。これは単なる「地産地消」の議論ではなく、ロボットが社会の「手足」として深く浸透していくこれからの時代における、極めて重要な「データ主権」の奪還作戦に他ならない。

また、地政学リスクによる供給の不安定化も無視できない課題だ。もし海外からの部品供給やメンテナンスが突如停止すれば、現場に配備されたロボットは即座に稼働不能に陥る。モーターやセンサーの一つひとつに至るまで国内で調達・保守ができるエコシステムを構築することは、日本の産業レジリエンス(強靭性)を維持するための防波堤となる。

2026年、ロボットはもはや「実験室の珍客」ではなく、私たちの生活を裏側で支える「必須のインフラ」へと昇華しようとしている。アールティのMujinaプロジェクトが示すのは、自国のインフラは自国の技術で守るという、当たり前だが困難な理想への到達だ。白と黒の機体が日本の不整地を歩むその一歩一歩は、日本のロボット産業が再び自らの足で立ち上がり、未来を切り拓くための確かな足跡となるだろう。