冬の冷たい風を切り裂き、雪面を滑走した後に待っている至福のひととき。スキー場レストランで食べる温かい食事は、レジャー体験に欠かせない要素だ。しかし、その舞台裏である厨房は、ピーク時には戦場さながらの過酷な環境となる。短時間で押し寄せる数百人規模の空腹を満たしつつ、プロの味を常に一定の品質で提供し続けることは、熟練の職人であっても極めて難易度が高い。
山梨県の「ふじてんスノーリゾート」では、ある「新人シェフ」がその難題に挑み、成果を上げている。TechMagic株式会社が開発した炒め調理ロボット「I-Robo 2」だ。人手不足と激しい季節変動という、観光地が長年抱えてきた構造的な課題を最新のロボティクスが解決しようとしている。(文=RoboStep編集部)
(引用元:PR TIMES )
2025年12月20日の今シーズン営業開始と同時に、ふじてんスノーリゾート内のレストラン「ケルン」で稼働を始めたのは、TechMagicが展開する最新鋭の自動調理システムである。スキーリゾートへの炒め調理ロボット導入は、全国でも初となる画期的な試みだ。

(引用元:PR TIMES )
今回導入された「I-Robo 2」は、単に食材を混ぜるだけの機械ではない。攪拌(かくはん)、加熱、そして調理後の鍋の洗浄に至るまで、一連の動作を完全に自動化している。特筆すべきは、その「再現性」の高さだ。熟練の料理人が長年の経験で培ってきた火力の調整や、鍋を振るタイミング、回転スピードなどを数値化し、プログラムとして制御。これにより誰がボタンを押しても、高火力でパラリと仕上がった「チャーシュー炒飯」や、香ばしい「焼きそば」、シャキシャキとした食感を残した「王道肉野菜炒め」を提供することが可能となった。
(引用元:PR TIMES )
調理現場において、炒めものは最も体力を消耗する作業の一つだ。重い鉄鍋を高温の火の前で振り続ける動作は身体への負担が大きく、夏冬の季節労働者が中心となるリゾート地では、技術の習得や人員の定着が大きな壁となっていた。I-Robo 2は、この身体的負担の大きい「重労働」を肩代わりする。
実際に現場で指揮を執る支配人からも、ピークタイムの混雑時における負担軽減を実感する声が上がっている。操作系がシンプルに設計されているため、経験の浅いアルバイトスタッフであっても短期間でオペレーションを習得でき、即戦力として機能している点は、流動性の高い観光地の雇用形態において極めて大きなアドバンテージとなっている。
このロボット導入が示唆する真の価値は、単なる省人化ではない。それは、観光・レジャー産業を長年苦しめてきた「繁閑の差(季節変動)」という呪縛からの解放である。
スキー場や海の家、大型テーマパークといった施設は、特定の時期にのみ需要が爆発する。そのため、通年で熟練の調理スタッフを雇用し続けることはコスト的に難しく、かといってシーズンごとに一から新人を教育していては、サービスの質にムラが生じてしまう。「観光地の食事は高くて品質がそれなり」という、かつて囁かれたネガティブなイメージは、こうした労働構造の歪みから生まれていた。
調理ロボットは、この問題を「味の記憶のデジタル化」で解決する。一度プロのレシピをプログラムしてしまえば、オフシーズンにどれだけ期間が空こうとも、翌シーズンの初日から100点の味を提供できる。いわば、最高水準の技術を持った職人が厨房に「常駐」している状態を作り出せるのだ。この安定性こそが、観光地におけるブランド価値の維持に直結する。
また、I-Robo 2のようなコンパクトで洗浄機能まで備えたモデルの登場は、厨房設計のあり方自体も変えていくだろう。重厚な排気設備や広大な作業スペースを必要とせず、既存の厨房に「後付け」で高い生産性を付加できる点は、投資を抑制したい中小規模のレジャー施設にとっても現実的な選択肢となる。今後このモデルはスキー場にとどまらず、キャンプ場や野外フェス、あるいは大型の期間限定イベントなど、「一時的な大量需要」が発生するあらゆる現場への波及が期待される。
ロボットは、決して人の温もりを奪うものではない。過酷な重労働を機械が引き受け、人間がおもてなしや盛り付けといった「より創造的で付加価値の高い業務」に集中する。白銀のゲレンデで振るわれる鉄腕の神業は、テクノロジーが人と共生し、日本の観光体験を底上げしていく未来の厨房の姿を鮮明に描き出している。