「ロボットは、人間がプログラムした通りにしか動かない」。そんな常識は2026年1月、ラスベガスで完全に過去のものとなった。CES 2026において、NVIDIAのジェンスン・ フアンCEOが高らかに宣言したのは、ロボット工学における「ChatGPT」の到来だ。現実世界を理解し、自ら思考して行動する「フィジカルAI」。その頭脳を手に入れたロボットたちは、私たちの生活や産業をどう変えるのか。世界的なGPUメーカーが描く、自律マシンの新時代をレポートする。(文=RoboStep編集部)

(引用元:PR TIMES )
2026年1月5日、NVIDIAが発表したのは、ロボット開発の根幹を揺るがすフィジカルAI向けの新たなオープンモデル群とフレームワーク 、AIインフラだ。これまでロボット開発といえば、特定のタスク(溶接や搬送など)ごとに専用のプログラムを組むのが一般的だった。しかし、今回披露された技術群は、ロボットにあらゆる環境で適応できる「汎用的な知能」を授けるものだ。
その中核を成すのが、「NVIDIA Cosmos™」と「NVIDIA Isaac™ GR00T」 である。NVIDIA Cosmos Reason 2は、人間のように物理世界を見て理解する「視覚言語モデル」だ。カメラに映った物体が何であるかだけでなく、それがどう動くか、どう扱えばいいかという物理的な特性までを理解する。一方のNVIDIA Isaac™ GR00T N1.6は、ヒューマノイドロボット向けに特化したモデルであり、全身のバランス制御と文脈理解を統合している。これにより、ロボットは「コップを持ってきて」という曖昧な指示に対しても、周囲の状況を見てルートを判断し、適切な力加減でコップを掴むことができるようになる。
さらに、これらの高度なAIモデルをエッジ(ロボット本体)で動かすための頭脳として、NVIDIA Blackwellアーキテクチャを搭載した「NVIDIA Jetson™ T4000」も発表された。前世代の4倍という圧倒的なエネルギー効率を実現したこのモジュールにより、バッテリー駆動のロボットでも、クラウドに依存せず自律的に思考することが可能になる。
すでに世界のトッププレイヤーたちは、この新しい頭脳の実装に動いている。Boston DynamicsやCaterpillar、LG Electronicsといった企業が、NVIDIAの技術基盤を活用した次世代ロボットを公開しており、建設現場から家庭内まで、あらゆる場所に「考えるロボット」が進出しようとしている。
今回の発表がロボット産業にもたらすインパクトは、単なる性能向上にとどまらない。それは、ロボットの役割を「単能工」から「熟練工(汎用スペシャリスト)」へと進化させる転換点となる。
これまでのロボットは、決められた動きを正確に繰り返すことは得意だったが、少しでも環境が変わると停止してしまう脆さがあった。しかし、フィジカルAIを搭載した次世代ロボットは、物理世界をシミュレーションし、その場で最適解を導き出す「リーズニング(推論・理由付け)」の能力を持つ。これは、熟練の職人が長年の勘で「ここは滑りやすいから慎重に歩こう」「この素材は壊れやすいから優しく持とう」と判断するプロセスに近い。ロボットが、プログラムされた手順だけでなく、状況に応じた「アドリブ」を効かせられるようになるのだ。
また、開発環境のオープンソース化が進んだことも見逃せない。NVIDIAはHugging Faceと連携し、これらの高度なモデルやデータセットをオープンソースコミュニティに提供している。これにより、莫大な資金を持つ大企業だけでなく、スタートアップや大学の研究室でも、最先端のフィジカルAIを利用したロボット開発が可能になる。このソフトウェアの飛躍的な進化こそが、ハードウェアの限界を突破する鍵だったのだ。
ジェンスン・フアン 氏の言葉を借りれば、まさに「ロボティクスにとってのChatGPTの到来」である。AIは言葉を習得した段階を超え、今まさに物理法則を理解し始めている。2026年は、ロボットが実験室という温室を飛び出し、複雑で予測不能な現実世界で「当たり前に働くパートナー」として定着する元年になるだろう。