中国ロボットメーカーの智元創新(上海)科技有限公司は11月、同社製人型ロボットの「A2」が江蘇省蘇州市の金鶏湖から隣の上海市の外灘まで106.286kmの距離を歩くチャレンジを見事成功させ、人型ロボットの連続歩行距離数でギネス記録を達成したと発表しました。チャレンジ中、A2は電池を15回交換したものの、本体部品は足裏のゴムが多少摩耗した程度にとどまり、高い耐久性と安定性を証明して見せました。
人型ロボット歩行距離でギネス記録を打ち立てた智元遠征A2(同社HPより引用)
同社によると本チャレンジに使用した機体は業務用として既に量産化している機体であり、本チャレンジに合わせてのカスタマイズは一切施していないとのことです。また踏破したコースは一般道を使用しており、湿った路面や段差、傾斜のある橋梁にも都度認識し、対応して歩いてみせたと発表されています。
また北京では今年4月、日系メディアでも当時大きく報じられていましたが、人型ロボットによるマラソン大会が開かれました。同大会では約20チームが参加し、スタート直後から動かなかったロボット、途中で転んで分解に至ったロボットも出たものの、最終的には6体のロボットが約21kmのハーフマラソンを完走するに至っています。
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
以上のように近年、中国では高い歩行、走行性能を発揮する人型二足歩行ロボットが数多く発表され、同性能を持つロボットの量産化も既に実現されています。ほんの2年ほど前なら中国でも人型ロボットは歩いて見せるだけでニュースとなっていましたが、現在においてはただ二足歩行をしただけではもはや話題にもなりません。ただ歩くのではなく、どのような環境でどれほどの距離数や速度、安定性を見せられるかがシビアにみられるようになってきています。
以上を踏まえると、もはや中国ロボット産業は人型ロボットの歩行における姿勢制御において、ブレイクスルーを果たしていると言えるでしょう。現実には大変高度な技術で、どの企業も簡単に実装できるわけではないものの、中国ロボット産業全体においてはもはや「珍しくはない」一般技術となりつつあります。
そうした背景もあってかこのところ、中国の人型ロボットの開発発表では歩行性能そのものをアピールする企業は減少気味です。あったとしても、従来比でどれだけ性能を高めたかや、他社製に比べどれだけ速度で上回るかといった具体性がピックアップされます。
反対に、このところ人型ロボットの重要なアピールポイントと化しつつあると思えるのが、ほかならぬ耐荷重量です。即ち、両腕でどれだけの重量を持ち運べるのかです。
これは言うまでもなく、材料倉庫などにおける運搬ロボットとしての需要を見込んだものです。ただ単に物を運ぶだけなら四足歩行ロボットや車輪型のロボットの方が運搬重量面で優位があるものの、高さのある棚から貨物を取り出したり、一つの箱から必要なものだけをピックアップして運ぶ動作においては人型ロボットが勝るとされ、その現場での導入に期待する声は強いです。
実際既に中国の一部工場では、運搬用途としての人型ロボットの導入がすでに始まっています。人件費の削減や作業の省力化として物流面でのロボット活用の需要は市場で非常に強く、こうした声を受ける形で各ロボットメーカーも、耐荷重量方面の開発や競争に軸足を移しつつあります。
ただ現状においては、人型運搬ロボットは効率性でまだ大きく人に劣る状態です。
新浪財経の報道によると、ある自動車会社の生産ラインにおける檜物運搬の時間は人間1分以内であるのに対し、導入された人型ロボットの運搬時間は4分半かかり、効率で人間の半分以下にとどまっています。また進路上に何か障害物があれば転倒の危険性があるほか、稼働時間に応じて充電する必要もあり、目に見える導入メリットはまだ得られていないことが報じられています。
こうした市場の声も受けてか、ロボットメーカーによっては「人間に対し〇%の効率」という具体的数値をその性能アピールに使う企業が増えてきています。冒頭の長距離歩行チャレンジに挑んだ智元創新(上海)科技有限公司も、同社製ロボットは「運搬における全体効率で人間の70%を達成」したとアピールしています。こうした流れから今後は、耐荷重量と並んで運搬効率が人型ロボットの競争点となってくるかもしれません。
以前に出した記事において筆者は、中国では人型ロボットはコンパニオンのように客寄せとして使われているのが現状であり、歩いたり踊ったりと派手なパフォーマンスをしてみせることが求められていると紹介しました。いわば客寄せパンダみたいなもので、産業現場などでの活用はまだあまり見られていません。
その記事を書いた当時、産業現場での導入はまだ先かと思っていたのですが、冒頭でも述べたように中国の人型ロボットの進化速度は非常に早く、歩行における問題はもはやほぼクリアしつつあります。競争点も徐々により実用的な運搬力や効率性へと移ってきており、ひょっとするとそう遠くない時期に大規模導入も始まるかもしれません。
少なくともいえることとしては、今後の人型ロボットの競争点はただ歩けるだけから、歩けるうえに何ができるかへと移っていくでしょう。そこで新たな障壁にぶつかるか、それとも一気に技術革新が進むか、この点が今後の人型ロボットを見るうえで重要な点となってくるでしょう。