あらゆる電子機器に使われる「コネクタ」。電気や光の信号、電力を伝送する重要な役割を持ちながら、機器同士を容易に接続・切り離すことを可能にしている。設計、生産、運用、メンテナンスまで、現代の産業に不可欠な部品といえる。USBケーブルやHDMI端子、基板内部の部品接続用コネクタなど、その使用用途は膨大だ。
しかし身近な存在でありながら、その技術について知る場面は少ないだろう。実は各産業の小型化や高機能化に対応して、コネクタは年々進化を遂げている。その1つが、内部にバネ(コイルスプリング)を内蔵する「スプリングコネクタ」だ。
そこで、今回はこのスプリングコネクタにフォーカスを当て、その技術や可能性について学ぶコラムをスタート。ご寄稿いただくのは長年スプリングコネクタ市場を牽引する株式会社ヨコオ。XRやロボット、AI、そして宇宙分野といったJapanStepプロジェクトの関係分野を中心に解説いただく。ミクロな技術を知ることで、身近にある機器について理解を深めてほしい。
株式会社ヨコオ
1922年創業・1951年設立の電子部品メーカー。主に車載用アンテナや半導体回路検査用コネクタ、医療用微細精密部品などを開発・製造し、業界をリードする技術力とグローバル生産体制を持つ。
1970年代後半~1980年代。電子機器の小型化・高機能化が急速に進み、従来のコネクタでは対応しきれない課題が顕在化。エレクトロニクス製品の小型化・薄型化・軽量化という「軽薄短小」ニーズに応える必要性がありました。限られたスペースで確実な電気接続を実現し、かつ繰り返しの着脱や過酷な環境にも耐える部品が求められ、スプリングコネクタが開発されました。
スプリングコネクタとは、極小サイズのチューブ内にコイルスプリングを内蔵した小型電子部品です。(※一般にポゴピンコネクタとも呼ばれます)構造はピン・チューブ・スプリングの3点で構成され、スプリングの力で対向する接点に押し付け、相手側にしっかりと電気的接続を実現します。バネの作用によって振動に強く、着脱が容易であること、そして省スペースでの実装が可能なことが特徴です。皆さんが使っているワイヤレスイヤホンのケースや、タブレットデバイスの充電スタンドで見た事があるかもしれません。
このスプリング構造により、従来のコネクタと比べて高さ方向のスペースを大幅に削減でき、基板パターンへの直接接触も可能となります。設計の自由度が高く、製品の小型化・薄型化に大きく貢献。スプリングコネクタのメリットをまとめると、下記の通りです。
・高信頼性:安定した電気接続を長期間維持。振動や衝撃、温度変化などの厳しい環境下でも性能を発揮
・省スペース性:高さ方向のスペースを取らず、狭い場所にも実装可能。製品のデザイン自由度を高める
・設計自由度:基板パターンへの直接接触が可能で、複雑な配線や多ピン化にも柔軟に対応
・高耐久性:数万回以上の繰り返し着脱に耐えるため、メンテナンスやユニット交換が容易
他にもどんな場所で使われているか見ていきましょう。
命を預かる現場では、使用するあらゆる機器に高いスペックが求められます。耐薬品性のコーティング(めっき)、耐久性、腐食や性能劣化といった品質。さらに精密なデータ取得や長期間の安定稼働を実現。診断装置、患者モニタリング機器、ウェアラブル医療機器など、
充電周りはもちろん、データ送信においても効果を発揮。高い周囲波数にも対応し、低インピーダンス(流れにくさ)にも対応。5G対応機器ではスプリングコネクタの技術が通信品質の向上に貢献しています。
自動車は振動や温度変化、湿度など過酷な環境下で使用されるため、安定した接続と長期信頼性が不可欠。厳しい条件下でも確実な電気接続を維持し、自動運転や安全支援システムの進化を支えています。カーナビ等のディスプレイや車載カメラといった見える場所だけでなく、車を構成する内部のセンサー、ECU(電子制御ユニット)にもスプリングコネクタがふんだんに使われています。
ADAS(先進運転支援システム:Advanced Driver Assistance System)に用いられる車載カメラ
ロボット、FA(ファクトリーオートメーション)機器、検査装置など、産業現場でも多く採用されています。繰り返しの接続・切断に強く、メンテナンス性にも優れているため、生産ラインの効率化や自動化に貢献しています。
近年ではXR(AR,VR,MR)や触覚インターフェースなど、次世代デバイスにも応用が広がっています。リアルタイムなデータ伝送や微細な信号処理が求められる分野で、スプリングコネクタの高性能・高信頼性が新たな価値を生み出しています。
ストレスの無い使用感が不可欠となるスマートグラスに、スプリングコネクタは必須
スプリングコネクタは、私たちの生活や社会インフラ、製品設計に欠かせない存在です。もしこの部品がなければ、あらゆる接続が有線となり、以下のような不便が生じます。
バッテリーやタブレット端末の充電部などでワンタッチ接続ができず、常に差し込み型の充電、もしくは常に有線で接続しなければなりません。スマートフォンのバッテリー交換やイヤホンの充電は非常に煩雑になります。
病院の携帯型診断機器や学校の生徒用パソコンなどで、迅速なバッテリー交換や簡単な充電ができなくなり、医療現場では、耐久性の低い機器によって、患者さんへの迅速な対応が難しくなる可能性も。
ユニット単位での簡単な接続や交換ができず、設計や修理が複雑化。有線ばかりで廃棄物の増加や環境負荷の増大につながります。例えば、壊れたユニットだけを交換できる設計ができなくなり、製品全体を廃棄せざるを得ないケースが増えるでしょう。
スプリングコネクタの進化は、単なる部品の改良にとどまらず、日本の産業構造そのものに新たな価値をもたらす可能性を秘めています。
シャープペンの芯より細い世界最小クラス(直径0.35mm)のスプリングコネクタ
例えば、車載カメラでは高精細映像のリアルタイム処理のため、高速かつ安定した信号伝送が不可欠です。スプリングコネクタの技術は、振動や温度変化に強く、長期信頼性を確保できるため、自動運転や安全支援システムの進化を支えます。
また、ロボットハンドチェンジャー分野では、繰り返しの着脱に耐える構造と確実な接触性能が求められ、製造現場の自動化と多品種少量生産の両立を実現します。
さらに、XR触覚インターフェース革新デバイス分野では、リアルタイムなデータ伝送と微細な信号処理が求められます。スプリングコネクタの高速伝送性能と高密度設計は、仮想空間と現実の融合をより滑らかにし、医療・教育・エンタメなどの分野で新たな体験価値を創出します。
これらの技術革新は、日本の産業にとって「高付加価値化」と「グローバル競争力の強化」をもたらす鍵となります。今後のコネクタ技術は、より小型・高密度化しながらも、高速伝送・高耐久・高信頼性を維持する方向へと進化していきます。これにより、次世代の製品設計において、より自由度の高い構成が可能となり、産業の競争力を根本から底上げすることが期待されます。私たち開発者も、より高性能で信頼性の高い製品を提供し続けることで、社会のインフラを支えてまいります。
次回の連載は「ロボット」分野での活躍をご紹介します。
*SPRING CONNECTOR™は株式会社ヨコオの登録商標です。