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2025.08.01

「安価で高性能」を実現―AIロボット開発の民主化を加速する開発ボード「RDK X5」

IoT関連製品等の開発・輸入販売を行うスイッチサイエンスが、AI/ロボット向けシングルボードコンピュータ「RDK X5」と関連キットの国内販売を開始した。10TOPS(Tera Operations per Second)の高性能チップを搭載しながらも手頃な価格を実現したこの開発ボードは、最先端のAIロボット開発のハードルを下げ、日本のメイカーや開発者の裾野を広げる。(文=RoboStep編集部)

D-Robotics「RDK X5」が“10TOPS”の性能を身近に


(引用元:PR TIMES

株式会社スイッチサイエンスは2025年7月10日、ロボット向け高性能AIチップを手掛けるShenzhen D-Robotics Co., Ltd.(以下、D-Robotics)が開発したAI/ロボット向けシングルボードコンピュータ「RDK X5」と、それを搭載可能なロボットカーキット「OriginBot Pro JP」の国内販売を開始した。

「RDK X5」は、10TOPS(毎秒10兆回)という高い推論演算能力を持つD-Roboticsの「Sunrise 5」チップを搭載した開発ボードだ。前モデル「RDK-X3」と比較して推論演算能力は倍増しており、Transformerといった先進的なAIモデルにも対応。多様なインターフェースを備え、最先端のAIアプリケーション開発をより簡素化、高速化する。


(引用元:PR TIMES

この新しい開発ボードには、国内外の開発者コミュニティから高い関心が寄せられている。2025年6月には、メイカー・ムーブメントの中核メディア「Make:」のYoutubeライブ配信で紹介イベントが開催され、人型ロボットなどを使ったジェスチャー認識や物体識別のデモンストレーションが披露された。また、同年9月に名古屋で開催される国際的なROS開発者会議の公式日本ローカルイベント「ROSCon JP 2025」では、「RDK X5」と「OriginBot Pro JP」を使ったワークショップも予定されている。

「OriginBot Pro JP」は、「RDK X5」を用いた高性能なロボット開発を支える、オープンソースのハードウェア・ソフトウェア統合型開発キットだ。ROS 2(Robot Operating System 2)やAIアプリケーションに対応し、構造から電子回路、制御、知能処理まで、フルスタックの開発を体験できる。今回販売されるJP版は、オリジナルの海外モデルでは課題となった電気用品安全法への適合のため、スイッチサイエンスの協力により日本市場向けにモバイルバッテリー対応の仕様として開発されたものだ。


(引用元:PR TIMES

開発の民主化を加速させるプラットフォームの役割

「RDK X5」の登場が持つ最も大きなインパクトは、高性能なAIロボット開発の「民主化」を加速させる点にある。1万円台という手頃な価格帯で、10TOPSという高い推論演算能力を持つ開発ボードが手に入るようになったことで、これまで高価な業務用SBC(シングルボードコンピュータ)やGPUを必要としていた最先端のAIアプリケーション開発が、個人のメイカーや小規模なスタートアップ、そして教育機関においても現実的なものとなる。

このような海外の優れたハードウェアを日本の開発者が容易に入手し、活用できる環境を整える上で、スイッチサイエンスのような企業の役割は大きい。特に、「OriginBot Pro JP」の共同開発に見られるように、海外製品を日本の法規や市場ニーズに適合させる「ローカライズ」はユーザーが安心して製品を使用するための重要なプロセスだと言える。

さらに製品販売に留まらず、「ROSCon JP」でのワークショップ開催などを通じて製品の使い方を広め、開発者コミュニティの育成・活性化も図っている。こうした取り組みは、ハードウェアとそれを使いこなすための知識・コミュニティを一体として提供する、エコシステム構築への貢献に繋がる。

また、ROS(Robot Operating System)との親和性の高さも重要だ。ROSは現代のロボット開発における世界的な標準プラットフォームだ。そのため、「RDK X5」や「OriginBot Pro」がROS 2に深く対応し、公式なROSイベントで取り上げられることには大きな意味がある。これにより日本の開発者も、世界中の開発者が持つ豊富なソフトウェア資産や知見を活用しやすくなるのだ。

安価で高性能な開発プラットフォームの登場は、ホビーロボットから本格的なサービスロボットまで、さまざまな分野でイノベーションを促進する起爆剤となり得る。特に学生や若手エンジニアが、従来は企業レベルでしか試せなかったような高度なAIを搭載したロボットを手軽に開発できる環境は、将来の優秀なロボット技術者やAIエンジニアを育成する土壌を豊かにすることに直結する。世界の先端技術と日本の開発者コミュニティを繋ぐ、こうしたプラットフォームの普及は、日本のロボット産業全体の底上げに貢献する可能性を秘めている。