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2025.08.29

スーパーが近距離モビリティを導入 多様な人々を受け入れる商業空間を目指して

(引用元:PR TIMES

国内の65歳以上人口が全体の3割に迫り、長距離歩行が困難な高齢者が増加する中、施設のバリアフリー化やアクセシビリティ整備は社会全体の大きな課題となっている。2024年4月からは障害者差別解消法の改正により、事業者による合理的配慮の提供が義務化され、企業側の対応もより一層求められるようになった。

また、高齢化は介護問題にも直結している。仕事をしながら家族の介護に携わる人は増加の一途をたどり、介護を理由とした離職も後を絶たない。こうした状況を受け、2025年4月には育児・介護休業法が改正され、仕事とケアの両立支援は企業にとって重要な経営課題の一つとなっている。

このような社会的背景のもと、愛知県を地盤とする株式会社アオキスーパーと、近距離モビリティの開発・提供を行うWHILL株式会社は協業し、アオキスーパーが運営する大規模商業施設「ショッピングセンターアズパーク」(名古屋市中川区)に、免許不要で歩行領域を走行する近距離モビリティ「WHILL(以下、ウィル)」を導入。同時に、従業員およびその家族の介護負担軽減やQOL(Quality Of Life)向上を目的とした福利厚生としてもウィルを活用する取り組みを開始した。福利厚生におけるウィルの採用は、東海地方で初の試みとなる。


(引用元:PR TIMES

顧客向けには、『WHILLモビリティサービス』として、ショッピングセンターアズパーク内でウィルを貸し出す。これにより、来店客は足腰の不安や体力の心配をすることなく、広大な施設内を自由に移動し、心ゆくまで快適な買い物体験を楽しむことができる。ウィルの貸し出しは、専用のレンタルアプリから簡単に行えるほか、サービスカウンターでの有人対応も可能だ。

一方、従業員向けには『WHILL福利厚生パッケージ』を導入。これは、従業員やその家族が経済的な負担を抑えつつ、柔軟な形でウィルを日常生活に取り入れられるようにするものだ。歩行に不安を抱える家族の自立的な外出支援や、介護に伴う移動の負担軽減などを実現することで、働く世代の不安を和らげ、安心して働き続けやすい職場環境づくりを推進する。さらに、障がいを持つ従業員への配慮や多様な人材の採用、柔軟な働き方の浸透など、企業全体のダイバーシティ理解促進も図る。ウィルは、高いデザイン性と操作性を持ち、モデルによっては段差乗り越えや折り畳みも可能な近距離モビリティで、屋内外のさまざまなシーンでの活用が期待されている。

地域と企業を繋ぐ近距離モビリティ活用の最前線

アオキスーパーによる今回の取り組みは、単なる「バリアフリー対応」という枠を超え、「多様な人々を受け入れる商業空間」の重要性を示唆している。年齢や身体的な状況に関わらず誰もが気兼ねなく施設を利用し、快適に過ごせる環境の提供は、顧客満足度の向上に直結する。さらにそれは、これまで来店をためらっていた新たな顧客層の開拓や、企業の社会的評価向上にも繋がる戦略と言えるだろう。「WHILLモビリティサービス」は、その実現に向けた具体的なソリューションの一つとして大きな可能性を秘めている。

同時に、「WHILL福利厚生パッケージ」の導入は、企業と従業員双方にとって深い意味を持つ。介護離職という深刻な社会課題に対し、企業が従業員の私生活における困難にも目を向け、積極的に支援する姿勢を示すことは、従業員のロイヤリティやエンゲージメントを高める上で極めて重要だ。仕事と介護の両立を具体的にサポートすることで、優秀な人材の定着を促し、結果として企業の持続的な成長と生産性向上にも貢献する。これは、従業員の心身の健康を資本と捉え、その価値を最大限に引き出す「健康経営」や「ウェルビーイング経営」といった、現代的で先進的な企業経営のあり方を体現するものと言える。

近距離モビリティサービスが社会に広く普及していくためには、いくつかの課題も存在する。まず、サービスの認知度向上と利用促進が不可欠だ。今はまだ新しい移動の選択肢の一つに過ぎず、その利便性や安全性を丁寧に伝え、利用に対する心理的なハードルを下げていく努力が求められる。また、商業施設だけでなく、観光地、医療機関、公共施設など多様な施設への展開と、それらの場所をシームレスに繋ぐ移動体験の提供も重要となる。さらに、自治体や地域のNPOなどと連携し、高齢者の外出支援や地域の見守り活動への活用といった、地域社会全体の移動課題解決に貢献する取り組みへと発展させていくことも期待される。

アオキスーパーとWHILL社の協業は、企業が持つリソースを組み合わせることで、顧客、従業員、そして地域社会全体に新たな価値を提供するエコシステムの構築を目指すものだ。「実際にウィルに触れて、使って、知ってもらう機会」を積極的に提供することは、移動に不安を感じる人々やその家族に対し、それぞれのライフスタイルに合わせた新しい移動の選択肢と、モビリティが持つ真の利用価値を社会に提示することに繋がる。

この取り組みは、ほかの小売業やサービス業にとっても、顧客価値と従業員価値、そして社会価値を同時に高めるための示唆に富んだモデルケースとして、誰もが暮らしやすい地域社会の実現に向けた重要な一歩となるだろう。