「すべての人が、生きている限り自立した生活を送る世界を実現したい」――その思いでアシストスーツ等の開発を手掛ける、東京理科大学発のベンチャー企業、イノフィス。同社が製造・販売するアシストスーツ「マッスルスーツSoft-Power®」と「マッスルスーツEvery®」が、家畜改良センター茨城牧場に導入された。職員の高齢化や女性比率上昇に伴う身体的負担の軽減を目指し、2種類のアシストスーツを用途別に使い分けることで、持続可能な労働環境の構築に取り組む。(文=RoboStep編集部)
独立行政法人家畜改良センター茨城牧場は、日本の畜産業を支える種豚の改良・供給という重要な役割を担っている。しかし、その日常業務には、母豚や子豚の飼養管理、重い飼料の運搬といった力仕事が不可欠だ。近年、同牧場では定年延長に伴う高齢職員の増加や、女性職員の比率上昇といった変化があり、将来的な作業負担の増大が懸念されていた。これまでも、簡易的なコルセットの導入やフォークリフトの活用といった負担軽減策が講じられてきたが、作業分担の難しさや衛生管理上の制約もあり、さらなる労働環境の改善と負担軽減に向けた新たな対策が模索されていた。
(引用元:PR TIMES)
こうした課題に対し、同牧場はアシストスーツの導入を検討。その中で、農場特有のほこりや水濡れといった環境リスクに対応できることが重要な選定ポイントとなった。まず、電力を使用せず、圧縮空気を用いた人工筋肉で高い補助力を発揮する外骨格型アシストスーツ「マッスルスーツEvery®」を2023年11月に試験的に導入。飼料の運搬など屋外での力作業には適していたものの、豚舎内での細やかな作業にはサイズが大きく、動きにくさを感じる場面もあったという。
そこで、より動きやすさを重視したサポータータイプの「マッスルスーツSoft-Power®」を2025年1月に追加導入するに至った。茨城牧場の担当者によると、この2種類のアシストスーツを用途別に使い分けることで、効率的な運用が実現している。
(引用元:PR TIMES)
具体的には、高い補助力が求められる豚舎外での飼料運搬などには「Every」を、一方で、分娩豚舎での子豚の取り上げ作業など、繰り返し立ったりしゃがんだりする動作が多く、より細やかな動きが求められる豚舎内の作業には「Soft-Power」を活用。また、作業着の着替えが必要な衛生管理下においても、この使い分けがスムーズな運用に繋がっている。
家畜改良センター茨城牧場のような公的機関が、職員の身体的負担軽減のためにアシストスーツを積極的に導入したという事実は、単なる業務効率化という側面だけでなく、そこで働く人々の健康維持や働きがい向上といった「ウェルビーイング」を重視する現代的な姿勢の表れと言える。これは、高齢化や人手不足が特に深刻な一次産業において、持続可能な労働環境を構築し、多様な人材が活躍し続けられるようにするための先進的な取り組みだ。
今回の事例で注目すべきは、特性の異なる2種類のアシストスーツを、作業内容や環境に応じて「適材適所」で使い分けている点だ。外骨格型の「Every」が持つ高い補助力と、サポーター型の「Soft-Power」が持つ動きやすさや装着の手軽さ。それぞれのメリットを現場の具体的なニーズに合わせて最大限に活かすことで、導入効果を高めている。このアプローチは、画一的なソリューションを導入するのではなく、現場の声を丁寧に聞き、それぞれの作業に最適なロボット・アシスト技術を選択・組み合わせることの重要性を示唆している。
(引用元:PR TIMES)
アシストスーツ技術は、今後さらなる進化が期待される分野だ。より軽量で長時間の装着でも負担が少ないモデル、AIが着用者の動きを予測し最適なタイミングでアシスト力を提供する機能、あるいはセンサーと連携して作業データを収集・分析し、より安全で効率的な作業方法を提案するシステムなど、その可能性は広がり続ける。
また、アシストスーツは単に身体的負担を軽減するだけではない。アシストスーツの補助により、熟練者の高度な技能を若手や女性職員も習得しやすくなる。さらに、これまで体力的な制約のため困難だった作業への従事も可能にし、一次産業全体の生産性向上と、誰もが働きやすい職場環境の実現に貢献する。
今回の茨城牧場での取り組みは、テクノロジーが人間の能力を自然な形で拡張し、厳しい労働環境下でも人々が誇りを持って活躍し続けられる社会を実現するための重要な一歩と言えるだろう。