1. RoboStep TOP
  2. ロボット業界の今を学ぶ
  3. 産業技術が切り拓くスポーツDXの可能性~国内初の無線審判器「Escbéré」で競技の裾野拡大へ

2025.07.09

産業技術が切り拓くスポーツDXの可能性~国内初の無線審判器「Escbéré」で競技の裾野拡大へ

タマディックが、愛知県フェンシング協会との共同開発により、国内初となるスマートフォンアプリ連携型のフェンシング無線審判器システム「Escbéré(エスクベーレ)」を発表した。従来の有線審判器が抱えていた運搬・設置の課題を解決し、場所を選ばない練習環境を提供することで、フェンシング競技の普及と競技人口増加を目指す。(文=RoboStep編集部)

無線化・アプリ連携がもたらす利便性

フェンシングの試合や練習で不可欠な審判器は、従来、剣と審判器本体を有線(リール)で接続するタイプが主流だった。しかし、この審判器とリールは共に持ち運びに不便であり、さらに電源コンセントも必要となる。そのため、専用設備を常設できない地域のクラブや学校の体育館などでは、その都度の運搬やセッティングに大きな労力を要していた。

この課題に対し、FA(ファクトリーオートメーション)・ロボットテクノロジー分野で実績を持つ株式会社タマディックが、愛知県フェンシング協会との共同開発により、国内初となるスマートフォンアプリ連携型のフェンシング無線審判器システム「Escbéré(エスクベーレ)」を開発。2025年6月11日より先行限定発売、8月1日より一般発売を開始する。


(引用元:PR TIMES

「Escbéré」の最大の特長は、専用送信機とスマートフォンアプリだけでフェンシングの試合形式の練習(ファイティング)が可能になる点だ。スマートフォンと専用送信機はBluetoothで接続され、打突情報をアプリに送信、アプリが打突情報を受信して、スコアボードとして得点を表示する。これにより、従来のような大型の審判器やリール、電源コンセントが一切不要となり、体育館や練習場など場所を選ばずに本格的な練習環境を構築できるようになった。専用送信機は技術基準適合証明(技適)も取得しており、国内で安全かつ安定した無線通信が保証される。


(引用元:PR TIMES

さらに、スマートフォンアプリならではの多彩な機能も搭載している。エペとフルーレの2種目に対応し、それぞれの競技ルールに基づいた打突判定はもちろんのこと、試合時間や打突判定時間を任意に変更できる。各選手の得点履歴を時系列で記録・表示する機能は、試合の振り返りや戦略分析に役立つ。また、もう1台のスマートフォンを接続すれば審判用のリモコンとして使用でき、タイマー始動や得点追加といった操作も可能だ。画面録画やミラーリングといったスマートフォン固有の機能を活用すれば、練習風景の記録や大人数での共有も容易になる。

そして、フェンシングのルール改定があった際にも、従来は審判器を海外メーカーに送って改修する必要があったが、「Escbéré」はアプリのアップデートで迅速に対応できる点も大きなメリットだ。

テクノロジーの進歩により注目される「スポーツDX」

「Escbéré」の登場は、フェンシング界、特に地方のクラブや学校、個人で練習に励む選手たちにとって、練習環境の劇的な改善をもたらす。審判器設置の物理的・時間的制約から解放されることで、より質の高い、実戦に近い形での練習機会が増えることは間違いない。また、得点履歴の記録・分析機能は、選手のパフォーマンス向上や指導者の戦略立案を支援し、指導の質の向上にも貢献するだろう。手軽な練習環境が提供されることは、フェンシングという競技の魅力をより多くの人に伝えるとともに、競技の裾野を広げ、将来的な競技人口増加へと繋がる大きな可能性を秘めている。

近年、センサー技術や無線通信、スマートフォンアプリといったデジタル技術が、スポーツの練習方法、競技運営、そして観戦体験までも大きく変革する「スポーツDX」の潮流が加速している。「Escbéré」は、フェンシングという伝統ある競技において、具体的な課題解決と劇的な利便性向上を通じて、このスポーツDXを体現する先進的な製品と言えるだろう。

この取り組みは、ニッチな市場と捉えられがちな分野でも、現場のニーズを的確に捉え、適切な技術を投入することで革新的な製品を生み出せることを示している。その影響はフェンシング界に留まらず、ほかのスポーツ分野においても、既存の常識にとらわれない新しい用具やシステムの開発を刺激し、スポーツ全体の発展に寄与する可能性を秘めている。