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2025.07.03

大規模製造の検査が変わる!新型のAI搭載レーザートラッカーで、品質管理を自動化

世界50カ国以上に拠点を持つ世界最大手の測定機メーカー、ヘキサゴン(日本法人はヘキサゴン・メトロジー)が、航空宇宙産業などの大規模製造分野向けに、次世代レーザートラッカー「Leica Absolute Tracker ATS800」を発表した。AIによる自動フィーチャ認識やAMRなどへの統合により、検査時間を大幅に短縮し、高精度な品質管理の自動化を実現する。(文=RoboStep編集部)

「ATS800」が実現する大規模検査の効率化

航空宇宙産業や風力エネルギー分野など、大型構造物の製造現場では、製品の品質を保証するための精密な検査が不可欠だ。しかし、労働力不足やコスト上昇といった課題に直面する中、従来の検査方法は時間と手間がかかり、生産拡大のボトルネックとなることも少なくなかった。こうした背景を受け、HexagonのManufacturing Intelligence部門は2025年5月、大規模製造の検査プロセスを革新する次世代レーザートラッカー「Leica Absolute Tracker ATS800」(以下、ATS800)を発表した。


(引用元:PR TIMES

「ATS800」の最大の特長は、検査時間の大幅な短縮と、手動・自動化双方に対応した柔軟な運用性だ。特許取得済みの「TruePointテクノロジー」により、最大40メートル離れた場所からでも高精度な反射板なしスキャンが可能となり、これまで必要だった足場やターゲットの設置作業が不要になる。これにより、検査のセットアップ時間は数時間から数分へと劇的に短縮される。

また、小型・軽量な本体はワイヤレス接続とバッテリー駆動に対応し、大型部品の周囲を容易に移動できる。さらに、SDK(ソフトウェア開発キット)を介してAMR(自律移動ロボット)やロボットアームにシームレスに統合でき、検査ワークフローの自動化を強力に支援する。


(引用元:PR TIMES

特に革新的なのは、AIを搭載した自動フィーチャ認識機能「FeatureDetect」だ。これは、手動でのプログラミングを必要とせずに、検査対象となる部品の主要な幾何学的特徴(エッジ、穴、スロットなど)を自動で識別する技術である。CADデータ(コンピューター支援設計によって作成された3Dモデルデータ)からだけでなく、ATS800に内蔵された高解像度パノラマカメラのライブ映像からも特徴を認識し、検査のセットアップを迅速化、作業を合理化する。これにより、オペレーターの負荷軽減と生産性向上が同時に実現される。既存の主要な計測ソフトウェアプラットフォームとの互換性も確保されており、既存の検査ワークフローへのスムーズな導入が可能だ。

AIとロボットが織りなす製造業DXの未来

「ATS800」のような先進技術は、製造業に多大な変革をもたらす可能性を秘めている。まずは、品質管理プロセスの抜本的な効率化とリードタイム短縮だ。無人または稼働中のラインでの検査が可能になることで、これまで検査工程がボトルネックとなっていた生産ライン全体の生産性が飛躍的に向上する。

また、AIによる自動化は、熟練技術者の経験や勘に頼っていた作業を標準化し、より多くの作業者が高度な検査業務に携わることを可能にする。これは、深刻化する技術者不足への対応と、貴重なノウハウのデジタル化・技術伝承を促進する上で極めて重要だ。さらに、高精度な3Dスキャンデータは、製品の設計から製造、保守に至るライフサイクル全体で活用され、デジタルツインの精度向上や予知保全といった、より高度なデータ活用への道を開く。


(引用元:PR TIMES

ロボットやAIが定型的な検査業務を担うことで、人間の作業者は、より創造的で付加価値の高い業務、例えば異常原因の根本分析、製造プロセスの改善提案、あるいは新技術の開発などに注力できるようになる。これは、単にコストを削減するという発想ではなく、人間の知性とAIの処理能力を組み合わせることで、企業全体のイノベーションを加速させて新たな競争力を生み出すという、より積極的なDXの姿だ。

もちろん、こうした先進技術の普及には課題もある。多様な製造現場の環境(複雑な形状、特殊な素材、厳しい温度条件下など)へのさらなる適応性向上や、特に中小規模の工場でも導入しやすい価格設定、そして運用を支えるサポート体制の充実は不可欠だ。また、膨大な計測データを安全に管理し、異なるシステム間で効果的に連携させるためのデータセキュリティと標準化の推進も重要なテーマとなる。

「ATS800」のような最先端の計測技術は、センサー、ロボット、AI、クラウドなどが高度に連携して自律的に稼働するスマートファクトリーの実現に不可欠なものだ。その進化と普及は、製造業全体の競争力強化と、より持続可能な成長に向けた大きな推進力となるだろう。