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2025.06.24

NTT、400km先の遠隔イチゴ収穫に成功!エッジコンピューティングで農業DXを加速

NTTグループが、エッジコンピューティングの品質制御技術を活用し、約400km離れた場所からのイチゴ遠隔収穫ロボットの操作に成功した。通信品質の変動にも高い操作性を維持し、農業の担い手不足解消とユーザビリティの高いスマート農業の実現に貢献する。(文=RoboStep編集部)

遠隔操作の壁を越える、NTTの新技術と実証内容

NTT、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーの3社は、ネットワーク越しに遠隔操作する収穫ロボットを用い、秋田県の圃場にあるイチゴを約400km離れた東京から収穫する実証実験に成功したと発表した。この実験は、日本の農業が直面する担い手の減少や高齢化といった労働力不足の課題に対し、スマート農業技術による解決策を提示するものだ。

従来のスマート農業は、水やりや追肥の最適化による収穫量安定が主眼だったが、依然として多くの農作業は人手に依存している。特に、植物の状態に応じた判断が求められる収穫作業などの自動化は難しかった。そのため、人の判断を伴う遠隔操作ロボットの活用が重要視されている。

今回の実証実験では、東京都の操作者がネットワークを通じて伝送されるカメラ映像を見ながら、秋田県の圃場に設置された収穫ロボットを操作。ロボットのカメラが捉えた映像は画像処理用サーバでイチゴの収穫適否が判定され、その結果が映像に追加表示される。操作者はこの付加情報付きの映像を基に、的確な判断を下しながらイチゴを収穫する。秋田の圃場には収穫ロボットと画像処理用サーバが、東京の拠点には操作端末が置かれ、両拠点は光アクセス回線とインターネット回線で結ばれた。

(引用元:PR TIMES

実験の結果、遠隔からでもロボットを高精度に操作し、イチゴを傷つけることなく収穫できることが確認された。さらに、通信遅延が変動する環境下での操作性向上の検証では、ロボットアームを1回の操作で正確にイチゴの位置へ移動できた割合(成功率)が、従来システムでは約50%だったのに対し、今回導入された新機能を活用することで約80%へと大幅に向上。約30%の改善が見られ、被験者5名全員が操作性の改善を実感したという。この成果は、遠隔操作における操作性の課題を克服し、実用的なスマート農業の普及に新たな道を開くものだと言える。

「品質制御」が鍵、スマート農業と多様な分野への応用

今回の遠隔収穫成功の核心には、NTTが開発した「ネットワークコンピュート高速クローズドループ制御技術」の進化がある。この技術は、エッジコンピューティング環境下でネットワーク遅延やサーバ処理時間をリアルタイムに監視し、通信品質の変動に応じて最適な制御を行うものだ。

特筆すべきは、既存の画像処理アプリケーションに手を加えることなく処理時間を計測できるようになった点と、通信品質の状況を遠隔操作システムにリアルタイム通知し、ロボットアームの速度などをシステム側で動的に調整できるようになった点だ。これにより、操作者は通信状況の悪化を即座に把握し、ロボットの誤操作リスクを低減できる。これは、不安定な通信環境下でも遠隔操作の信頼性と精度を維持するための重要なブレイクスルーと言える。


(引用元:PR TIMES

この技術的進歩が農業分野にもたらすインパクトは大きい。熟練農業者の減少と高齢化が進む中、遠隔地からでも精密な農作業が可能になれば、経験豊富な指導者が複数の圃場を効率的に管理したり、新規就農者が遠隔サポートを受けながら技術を習得したりする新たな営農モデルが現実味を帯びてくる。また、天候に左右されやすい中山間地域や離島など、アクセスが困難な場所での農業継続にも貢献するだろう。今回のイチゴ収穫の成功は、単に「遠くから操作できた」というだけでなく、「誰でも、どこからでも、高品質な農業に関われる」可能性を示した点で意義深い。

NTT、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーの連携による今回の成果は、人とロボット、そしてネットワークが高度に融合し、地理的な制約を超えて専門知識や労働力を最適配置する未来社会の実現に向けた、力強い一歩と言えるだろう。