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2025.06.13

性能向上によってボトルネックに?人型ロボット用電池の現況

ここ数年、中国では数多くの企業が二足歩行人型ロボットをデモ用としてだけではなく、一般販売用にもリリースする動きが広がっています。価格も大きく抑えられるようになり、人型ロボットが社会で急速に普及してきました。

かつて大きな技術的障壁とされたソフト、ハードウェア上の困難は既に多方面でブレイクスルーが果たされ、単純な歩行のみならず、跳躍や疾走といった複雑な動作すらも実現できるようになってきました。ただ複雑な動作を実現できる部品やプログラムが開発、実現されていくに伴い、その動力源ともいうべき電池が、これまで以上に大きなボトルネックにもなってきています。

そこで今回は、自動車業界でも同様にその重要度を高めている電池について、現状の中国ロボット業界における応用や開発状況、そしてその将来の展望についてご紹介します。

担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)

中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。

連続稼働時間は1~2時間程度


中国の人型ロボット「Unitree G1」(引用元:36krjapan

前述の通り、この数年間に中国では人型ロボットが一種のブームを迎え、ベンチャーや老舗エレクトロニクス企業を問わず、多くの会社が人型ロボットを発表、リリースしています。中には日本円で1台約200万円という低価格を実現したメーカーもあり、こうしたロボットを購入し、イベントなどでさまざまなパフォーマンスをみせて興行するなど、ロボットの商業利用も盛んとなってきました。

かつて人型ロボットにはその関節駆動、自立歩行をはじめ、ソフト、ハードウェア上の技術的課題が数多く存在しましたが、これらの障害は先行企業において既に一定程度克服されています。その結果として、人型ロボットの実現そのものについてはもはや珍しいものでなくなり、今やこの業界はどれだけ複雑な動作や自律性が発揮できるかという、性能競争の時代へと入りつつあります。

しかしこの性能競争期に入ったことでこれまで以上に重要性を持ち、これまで以上にボトルネックとなってきたのがほかならぬ電池です。

現状、市場に流通する人型ロボットの連続稼働時間は1~2時間程度のものが主流で、フル充電にもほぼ同等の時間が必要とされます。テスラの「Optimus Gen-2」は約8時間にも達するといわれますがこれは例外であり、その他のロボットの稼働時間は今なお制限が多いです。

電量×性能×重量でどうバランスを取るか

電池性能は単純にロボットの稼働時間を左右するものですが、ロボットの性能向上に伴い、必要とされる電量も増してきます。具体的には、動作プログラムを処理する半導体性能が高まるにつれ電力消費も増大することとなり、今後の性能向上を見越すと、現状の稼働時間を維持するだけでも電池性能にはさらなる向上が求められることとなります。

その上で、電池自体の重量も非常に重要な要素となってきます。

言うまでもなく電池そのものは大きな重量を持ち、それを人型ロボットに搭載するともなれば機体全体の重量バランスも考慮しなければなりません。また稼働時間を増やそうと電池搭載量を増やそうものならば電池重量は大きく増大し、その電池を支えるための構造体も強化も必要となって、さらに重量がかさむこととなってきます。

逆に電池性能、具体的には容量に対する重量比が改善して軽量化できるならば、人型ロボットの開発においては大きな設計余地が生まれます。そのため中国における各電池メーカーでは来るべき人型ロボット時代を見据え、その構造に合わせた電池の開発に力を入れ始めてきています。

全固体電池の将来性に期待

現在人型ロボットにおいては、電気自動車と同様にリチウムイオン電池が主に使われています。特に三元系及びリン酸鉄系リチウムイオン電池が多く、48~58Vのシステム電圧で、13~16セルを3~9並列にしたバッテリー構造が主流となっています。

形状は角形で、背中にランドセルのように背負いこむ形式で搭載されることが多いですが、円柱状にして大腿部などに埋め込む形式も出ており、設計面の有利さからこの円柱状電池の開発が今注目されつつあります。

中国メディアの毎日経済新聞によると、人型ロボット向け電池について業界関係者の間では、全固体電池への期待感が高くなっています。現状のリン酸鉄リチウムイオン電池では容量が少なく、重量への制限も大きいままです。これに対し全固体電池は容量と重量のバランスを改善すると期待されており、2026年、2027年にも小規模での応用が始まると予想されています。

実際に江西省に拠点を置く電池メーカーのFarasis Energy社(孚能科技)は今年2月、半固体電池、全固体電池の開発を現在急ピッチで進めており、ロボット産業のサプライチェーン入りを強く目指すとするプレスリリースを出しています。ロボット市場の拡大に、電池メーカーも新たな商機ともくろむ動きが広がっている模様です。

電力消費そのものを抑える工夫も

一方、上記のような電池というボトルネックに対し、ロボットの形状を工夫することによって電力消費そのものを抑えるという取り組みも見られます。

日本のトヨタやホンダとの合弁会社も持つ中国自動車大手の広汽集団は2024年末、オリジナルの人型ロボット「GoMate」の試作品を公開しました。人型ロボットとは言うもののこの「GoMate」は両足の足先がローラー状となっており、4本のタイヤを駆動して移動する形式となっています。

広汽集団によるとこの足先をローラーにすることによって、一般的な人型ロボットに比べ安定性を大幅に高められるほか、電力消費も大きく抑えられる効果も得られるそうです。これに全固体電池の搭載が加わることで「GoMate」の稼働時間で連続6時間にも達するとされ、2026年にも小規模量産することが計画されています。

筆者個人の意見として述べると、冒頭でも述べたように今後ロボットの性能が向上するにつれ、電池に対する要求もどんどん高まり、電池がこれまで以上にボトルネックと化していくと思われます。そうした中でいかに電力消費を抑え、稼働時間を確保するかがキーポイントとなる可能性が高く、上記の「GoMate」のように、電力消費を抑えられる動作、形状の開発も重要度を増してくるのではないでしょうか。

そういう意味では重量を軽減するための素材そのものの開発も大きくなってくると見られ、日系企業においてはこの分野こそがその得意とする範囲ではないかと考えています。どちらにしろ、ロボット開発はこれまでの「何ができるか」からややステージが上がり、「何がどう優れるか」へ入ってきているのかもしれません。