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2025.01.08

【連載】中国ロボット最前線(第2回)知っておきたい中国ロボット注目企業

中国のロボット産業の今を知る連載コラムの第2回。今回も、日中間でのオープンイノベーションを推進するアクセラレーター ジャンシン(匠新)の齋藤慶太氏に中国ロボットの最新状況を解説頂く。第2回は、注目したい中国のロボット企業の動向だ。

ジャンシン(匠新) 齋藤慶太

中国エコシステム事情や各業界のトレンドとスタートアップ、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウエイ)などについて調査・分析を担当。2018年9⽉より北京⼤学および上海復旦⼤学に計1年半留学し、留学期間中に匠新でインターンを経験、その後複数社のインターンを経て21年に⼊社。神⼾⼤学経済学部中国経済専攻卒業。

中国国内で⼈型ロボット産業がその成果をもって成⻑し始め、企業数が⼀定の規模になってきたのが2023年。2024年に⼊って、政策の⼿厚い⽀援、発展に有利な市場環境、そしてサプライチェーンの⾼い成熟度によって商⽤化の軌道に乗り始めたとされる。この⾒⽅に基づけば、⼤局的に⾒て発展の歩みは始まったばかりではあるものの、1年という短い期間で着実に成果を遂げていることが分かる。中国証券会社「東呉証券(Soochow Securities)」によれば、続く2025年は、⼈型ロボットの量産元年となり得るという。

「古株四⼩⿓」「新興四⼩⿓」「⼋⼩⻁」の顔ぶれ

こうした萌芽(ほうが)期にある産業においてしばしば⾒られることだが、企業や製品を客観的に位置付けられるような基準が乏しい。そこで、中国産業投資会社「⾦⿍資本(JINGDING CAPITAL)」のロボット業界専⾨家兼投資総監(ディレクター)である洪紹囤(ホン・シャオドゥン)⽒は、⾃⾝のロボット業界における⻑年の経験に基づいて、中国⼈型ロボット業界を代表する企業16社を選んで取り上げている。洪⽒は、⼈型ロボット企業について⾃⾝が把握している情報、すなわち各企業の設⽴時間、技術的蓄積、製品開発経験の豊富さなどを基に、「古株四⼩⿓」「新興四⼩⿓」「⼋⼩⻁」という3つグループで整理している。

⼈型ロボット企業「古株四⼩⿓」「新興四⼩⿓」「⼋⼩⻁」(出所:⾦⿍資本、匠新が整理)

これら3つのグループから、業界における話題性が⾼く、直近でも⼤きな動きがあった企業2社を選び、紹介したい。

中国⼈型ロボットの先駆者「UBTECH」 巧みな商⽤化戦略のロードマップ

1社目は、古株四⼩⿓の1社である「優必選(UBTECH Robotics、以下UBTECH)」。UBTECHは、中国で初めて2⾜歩⾏の等⾝⼤⼈型ロボットを商⽤で発売することに成功した。10万⽶ドル以下のコストで2⾜歩⾏の等⾝⼤⼈型ロボットを実現したのは世界で初めてとされる(深圳市イノベーション産業統合促進協会のニュースリリースによる)。もともと、低トルクから⾼トルクまで幅広い範囲をカバーするサーボドライバー(サーボモーターを制御する部品)を量産するなど、世界的にも類例のない企業である。

WRCにおけるUBTECHの出展ブース(写真:匠新)

ここで、注⽬したい同社の特徴が3つある。

1つ⽬は、独⾃の技術⼒だ。同社は、⼈型ロボットの研究・開発を⻑く⼿掛け、⼈型ロボットに必要不可⽋なサーボドライバー、運動制御、コンピュータービジョン、位置測定ナビゲーション、⾳声⾔語理解、ロボットのソフトウエア・ハードウエア設計といった多くのコア技術を社内に蓄積している。

直近5年(2019〜2023年)における⼈形ロボット関連特許の平均申請数(出所:⼈⺠網研究院、匠新が整理)

UBTECHは2023年末時点で、累計2100件以上の特許を取得済み。うち400件以上が中国国外における特許だ。また、実⽤新案などを除いた発明特許の割合は、中国全体の50%以上となっている。現在、⼈型ロボットにおける中国の特許出願件数と有効特許数はいずれも世界トップであり、その中国企業の中で有効特許数を最も多く抱えるのが同社だ。

2つ⽬は、業界全体の⼈材を育んできたことだ。同社は⼈型ロボットの業界において、いわゆる「中国⼈型ロボット⼈材養成基地」と位置付けられている。2015年に2⾜歩⾏⼈型ロボット「Walker」のプロジェクトを⽴ち上げ、2018年に⽶ラスベガスで開催された展⽰会CESに初めて出展。2021年のWAIC(世界⼈⼯知能⼤会)では第3代⽬に当たる「Walker X」を発表するなど、約6年間で4代にわたる⼈型ロボットのアップデートを繰り返し、その過程に多くの⼈材が関わった。

Walkerの開発に携わった中核メンバーの多くに対して、⼈型ロボットに着⼿し始めた後続企業による引き抜きが相次いだ。それらの⼈材はその後も、中国国内外の複数の⼈型ロボット企業や関連機関を渡り歩いている。

UBTECHの⼈型ロボットのプロトタイプからWalker Xへの開発過程(写真:UBTECH)

そして3つ⽬は、明確なロードマップをもって戦略的に⼈型ロボットの商⽤化を進めていることだ。⼈型ロボットなどの先端技術に関するメディア「CyberRobo」によれば、中国国内か国外かを問わず、⼈型ロボットの商⽤化は⼯業製造・物流倉庫、ビジネス向けサービス、そして家庭内応⽤の3つの段階に分けて進んでいくという共通認識がある。その認識に則り、同社は過去1年近くにわたり、⼯業製造の領域において⾮常に速いスピード感で実装の試みを進めてきた。その戦略は、以下の通りに整理できる。

UBTECHの⼈型ロボットのプロトタイプからWalker Xへの開発過程(写真:UBTECH)

2023年設立の期待の新星「AGIBOT」 すでに7回の資金調達に成功

2社目のAGIBOTは、2017年以後に設⽴された「新興四⼩⿓」4社のうちの1社である。「⾝体性を持つAI(Embodied AI)」を利⽤したロボット製品と応⽤エコシステムを創造するスタートアップ。2023年2⽉の設⽴後、2024年9⽉までの約1年半の間に、エンジェルラウンドからAラウンド、そして戦略投資まで合計7回の資⾦調達を完了している。

AGIBOTの創始者である彭志輝(ペン・ジーフイ)⽒(写真:AGIBOT)

創始者の彭志輝(ペン・ジーフイ)⽒は中国でのYouTubeに相当する「Bilibili(ビリビリ)」にて、250万⼈以上のフォロワーを有する有名なテック系ブロガーだ。過去には、中国通信機器⼤⼿の華為技術(ファーウェイ)の⾼度⼈材募集プログラム「天才少年」で選出された1⼈であり、ファーウェイの「昇騰(Ascend)」チップセットによるAIエッジコンピューティングのエキスパートを務めた。

AGIBOTは2023年8⽉、認識や⾏動に関して物理的な⾝体の存在を前提とする「⾝体性を持つAI」を備える汎⽤型ロボットのプロトタイプ「遠征A1」を発表。その後の2024年8⽉には、2024年度新製品発表会で商⽤⼈型ロボット「遠征」と「霊犀」の2つのシリーズと合計5つの新製品「遠征A2」「遠征A2-W」「遠征A2-Max」「霊犀X1」「霊犀X1-W」を発表した。さらに、ロボットの動⼒ドメイン、感知ドメイン、通信ドメイン、そして制御ドメインにおける⾃主開発技術の成果も披露した。

AGIBOTが2024年度新製品発表会にて発表した5つの⼈型ロボット製品群(写真:AGIBOT)

同社に関して、直近で注⽬したい動向を1つ紹介したい。それが、「⾝体性を持つAI」の技術ロードマップを発表すると同時に、データシステム「AIDEA(AgiBot Integrated Data-system for Embodied AI)」をリリースしたことだ。AGIBOTは、⾃動運転のL1からL5までの技術評価体系を参考にしながら、「⾝体性をもつAI」関連技術の進化路線をG1からG5まで分類している。その5段階のうちG3の実現をAIDEAによって⽬指す。

「⾝体性を持つAI」のロードマップを展開

G1は従来からある特定業務の⾃動化に相当し、AIが汎⽤性を有さない段階に当たる。G2は業務において反復的に利⽤する中核技能を抽出し、⽐較的汎⽤性のある⽅法でタスクをスケジューリングするAIモデルを組み合わせることで、多くの類似シーンに対応可能な汎⽤性を持つ段階に相当。G3ではデータ駆動で認知から⾏動実⾏までを⼀括して処理するエンドツーエンドの形態に向かい始め、より⼀般的なAIトレーニングのためのフレームワークを形成。AIが新しい技能を学習する際には、その技能に関連するデータを収集するだけで済むようになり、より汎⽤的な運⽤が可能になる。

G4では、実⾏を担当する汎⽤的な⼤規模AIモデルと、認知・推論・計画を担当する⼤規模AIモデルを組み合わせ ることで、エンドツーエンドの汎⽤的な操作を実現。そしてG5では、感知から意思決定、そして最後の実⾏まで全てを担当する⼤規模AIモデルを形成。この⼤規模AIモデルを活⽤することで、特定のタスク向けにデータを使って実施する恣意的なトレーニングを必要とせずに、ロボットが⼈間と同様に新しい課題やタスクに対応できるようになる。

「⾝体性をもつAI」の技術ロードマップのイメージ。AGIBOTが2024年度新製品発表会にて発表した。オレンジ部分が感知域、⽔⾊部分が意思決 定域、緑⾊部分が実⾏域を指す。(出所:AGIBOT、匠新が翻訳・整理)

過去1年間にわたり、AGIBOTはG2レベルを段階的に達成してきた。例えば、汎⽤型の姿勢推定モデル 「UniPose」、汎⽤型把持モデル「UniGrasp」、汎⽤型動⼒制御さし抜きモデル「UniPlug」などを開発した。これらは、既に実際の応⽤シーン複数で商⽤実装が可能となっている。AGIBOTは現在、複数の企業とPoC(概念実証)を実施中であり、フレキシブルスマート製造やインタラクティブなサービスシーンが対象となっている。2024 年末までに検証が完了すれば、同社の⼈型ロボットは正式に顧客の現場にて商⽤実装へと進む。

G3の段階に向けては、データの⾯から多くのインフラ関連の準備を進めてきた。その1つが、⾝体性を持つAI データシステムのAIDEAだ。AIDEAは、⼈型ロボットのデータ収集における課題に特化してアプローチしたもので、データ収集の対象となるロボット本体にリモート操作設備、データプラットフォームを組み合わせたソリューションを提供している。

「⾝体性を持つAI」のデータシステム「AIDEA」の機能のイメージ。AGIBOTが2024年度新製品発表会にて発表した。(出所:AGIBOT、匠新が翻訳・整理)

次回(最終回)では、「中国の⼈型ロボット産業チェーンの結集と競争 日本のロボット産業が得られるヒント」をお届けします。