ロボットが与えられた業務を正確にこなす、なんて当たり前と思うかもしれません。ですが、ロボットを導入し効果を発揮している現場は、その能力を最大限に発揮するため、適切な制御方法の選択や運用を入念に行っています。
特に近年は、AI技術の発展により制御方法の選択肢も広がっており、自社の課題に最適な方法を見極める必要性が高まっています。今一度ロボットの制御方法の基本から、各種ロボットにおける制御技術の活用事例を知っておきましょう。
ロボット制御とは、ロボットに目的の動作を正確に実行させるための技術です。人間が仕事をする際に、目標を定め、手順を考え、実際に作業を行うように、ロボットも目的に応じた一連の動作を実行できるように制御する必要があります。
産業用ロボットの場合、主に「位置の制御」と「力の制御」が重要になります。位置の制御は、ロボットアームを目的の場所まで正確に動かすことを指し、部品の組立や搬送作業などで必要不可欠です。一方、力の制御は、対象物を壊さないように適切な力加減で作業を行うために必要です。特に、精密な組立作業や柔らかい物の取り扱いなどで重要になります。
例えば、スマートフォンの組立工程では、微細な部品を正確な位置に配置する必要があります。同時に、壊れやすい部品を傷つけないために、繊細な力加減も求められます。このように、位置と力の両方を適切に制御することで、高精度な作業が可能になるのです。
さらに近年はAI技術の発展により、状況に応じて柔軟に判断・制御できるロボットも登場してきています。人間のように状況を理解し、適切な動作を選択できる高度な制御が実現されつつあります。
産業現場では、主に「ロボットティーチング」と「ロボットビジョン」という2つの方法でロボットを制御します。さらに近年では、AIを活用した新しい制御方法も登場してきています。
ロボットティーチングは、ロボットに動作を教え込む方法です。最も一般的なのが、専用のリモコン型の操作端末(ティーチングペンダント)を使用してロボットを実際に動かしながら教える「オンラインティーチング」です。作業者がロボットの動きを直接確認しながら細かな調整ができる反面、ティーチング中は生産ラインを止める必要があります。
一方、「オフラインティーチング」は、コンピュータ上でプログラミングを行い、それをロボットに転送する方法です。生産ラインを止めることなく作業できる利点がありますが、実機での微調整が必要になることもあります。
(引用:株式会社ブレイン)オフラインティーチングのプラグラミング過程
より直感的な方法として、「ダイレクトティーチング」があります。人がロボットを直接手で動かし、その動きを記憶させる方法です。専門的な知識がなくても基本的な動作を教えることができます。特に、協働ロボットでよく採用されている方法です。
最新の手法として注目を集めているのが「AIティーチング」です。AIの自己学習機能を活用し、作業の最適な動作パターンを自動的に獲得していきます。人手によるティーチング作業を大幅に削減できる可能性を秘めていますが、現時点では比較的単純な作業への適用が中心となっています。
引用:オムロン ダイレクトティーチングの様子
ロボットビジョンは、カメラとコンピュータを組み合わせて、ロボットに視覚機能を持たせる技術です。従来の産業用ロボットは、あらかじめ決められた位置の物しか扱えませんでしたが、ロボットビジョンにより、不規則に置かれた物も認識して作業できるようになりました。
例えば、部品の組立工程では、供給される部品の位置や向きがばらついていても、カメラで認識して最適な位置を計算し、ロボットが正確に部品をつかんで組み立てることができます。また、2Dカメラだけでなく3Dセンサーを組み合わせることで、より複雑な形状の認識や、立体的な作業も可能になっています。
さらに、画像処理技術の発展により、傷や汚れの検出、色むらの判別など、品質検査の領域でも大きな役割を果たしています。最新のシステムでは、ディープラーニングを活用することで、人間の目に近い柔軟な判断も可能になってきており、応用範囲は着実に広がっています。
Kyoto Roboticsが開発した世界初の3次元ロボットビジョンセンサ「TVS」シリーズ。写真は「TVS 2.0」
ロボットの制御技術は、ティーチングとビジョンを2つの柱として発展してきました。ティーチングは専用端末による直接的な動作指示から、AIを活用した自動学習まで進化し、ビジョン技術は2D・3Dカメラやディープラーニングの活用により、より柔軟な作業を可能にしています。
特に注目すべきは、これら制御技術の発展が、産業用ロボットの活躍の場を大きく広げていることです。従来の製造ラインでの定型作業だけでなく、不定形な対象物のハンドリングや、人との協調作業など、より複雑な現場でもロボットの活用が進んでいます。
さらに、IoT技術との組み合わせにより、複数のロボットを連携させた効率的な生産システムの構築も可能になってきました。工場全体の自動化を見据えた際、ロボット制御技術の進化は、その実現に向けた重要な要素となっています。
製造業のスマート化が進む中、ロボット制御技術はさらなる進化を遂げることでしょう。より直感的な操作性、より柔軟な対応力、そしてより安全な協働作業の実現など、産業用ロボットの可能性は今後も広がり続けていきます。