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2024.12.19

地震時一次点検の強い味方に⁉ 葛野川ダムで自律飛行型ドローンを活用した遠隔点検実証を実施

地震発生時、ダムにおいては臨時点検が行われる。有事においてダムの健全性を迅速に把握することは重要だからだ。山梨県葛野川ダムにおける地震発生後の一次点検では、作業員が必ず現場へ出向く必要があるが、ダムへの移動経路は、道路の陥没や落石などにより安全状況が不明で、人命に関わるリスクが非常に高い。こうした課題を解決するため、今回、Starlinkを活用したauエリア構築ソリューション「Satellite Mobile Link」を用いた自律飛行型ドローンによる臨時点検が実証された。その全貌に迫る。(文=RoboStep編集部)

スターリンクを活用し、通信環境の課題を克服

2024年11月14日、東京電力リニューアブルパワー(東京RP)が運営する葛野川ダム (山梨県大月市) において、本実証は行われた。実証をしたのはKDDIとKDDIスマートドローンだ。堤高15m以上のダムの地震観測点において、震度4以上の地震が発生、もしくは東電RPがダムに設置した地震計で25gal以上の加速度を計測した場合、昼夜を問わずダムの安全性を確認するための臨時点検が必要だ。

元々、葛野川ダムにおける地震発生後の一次点検では、作業員が必ず現場へ出向く必要があった。管轄事務所からダムへの移動経路は、道路の陥没や落石などにより安全状況が不明で、人命に関わるリスクが非常に高いことに加え、ダムでも一定時間内に全ての点検箇所を目視確認して報告をしなければならないなど、有事においてダムの健全性を迅速に把握することが困難だった。迅速な状況把握のためにドローンなどの活用が期待されたが、ダム外部からの通信回線の新規引込みが困難など多くの課題があり、通信環境の改善がなかなか進んでいなかったという。

こうした背景を受け、今回KDDI、KDDIスマートドローンが実証を行ったのは、Starlinkを活用したauエリア構築ソリューション「Satellite Mobile Link」を用いた自律飛行型ドローンによる、地震発生後を想定した臨時点検実証だ。

「Satellite Mobile Link」は、衛星ブロードバンド「Starlink」をバックホール回線として利用したKDDIが提供するau通信エリア構築ソリューションだ。通信不感地の現場に設置することで、携帯電話による音声通話やデータ通信の利用が可能となり、現場の作業員への遠隔支援や緊急時の連絡など情報伝達の効率や即時性が向上すると期待される。通信環境整備により、スマートドローンやロボットを活用した遠隔でのインフラ点検やメンテナンスなども実現できるようになる。今回、「Satellite Mobile Link」で水力発電ダムの通信環境を構築した事例は、国内初 (KDDI調べ)となる。

本実証では、人に代わり、自律飛行型ドローンがダムから半径約2km圏内の点検飛行を行い、ダムに異常がないかを、遠隔地からでもリアルタイムに把握可能なことが確認された。地震時一次点検業務の効率化が促進されることで、危険な保守・点検業務から作業員の人命を守ることが可能になる。

ドローンは飛行から充電までを全て自動化

実証の詳しい内容を見ていこう。KDDIは葛野川ダムの水門上部に、Starlinkと4G LTEアンテナを一体にした架台型の「Satellite Mobile Link」を設置。最小限の設備でダムの堤体から調整池上流部約2キロメートルの範囲まで通信環境を構築し、緊急通報を含めた音声電話や、データ通信を可能にした。

水門上部に設置した「Satellite Mobile Link」

これにより、現場の状況を遠隔で確認することに加え、作業支援や緊急対応時の関係者との迅速な連絡などのICT活用を進めることが可能となった。

「Satellite Mobile Link」の4G LTE活用により、自律飛行型ドローンがダム堤体から半径約2キロメートル圏内の状況確認を遠隔かつ自動で行うことが可能となった。これにより、ダムにおける点検業務の省人化・効率化が進むことが期待される。現場へ向かう道路の陥没・落石などによる人身災害のリスクを低減するのは何より大きなメリットだ。

自動充電ポートから飛行するドローン (遠隔地から自律飛行の開始)

今回使用されたドローンは「G6.0 & NEST (自動充電ポート付ドローン) 」と「Skydio X10 (AI搭載自律飛行ドローン)」。「G6.0 & NEST」は飛行から充電までを全て自動で行なった。4G LTE通信回線によるインターネット接続を実現することにより、遠隔地から飛行実行や現地の映像をリアルタイムに確認できるほか、ドローンで撮影された映像・写真をクラウドに格納することで、ドローンを操作することなくデータが取得できる。

今回活用された2機のドローン

KDDIは2024年5月から、AI時代の新たなビジネスプラットフォーム「WAKONX (ワコンクロス)」を始動した。「WAKONX」を通じて、老朽化するインフラ施設の保守点検業務の効率化などを目指しているという。「WAKONX」は、日本のデジタル化をスピードアップするというコンセプトから生まれたブランドで、機能群を有するAI時代のビジネスプラットフォーム。「WAKONX」を通じて、最適化したネットワークの設計・構築から、大規模計算基盤による企業間データの蓄積・融合・分析を行う。AIが組み込まれたサービスやソリューションを各業界に最適化して提供することで、事業成長と社会課題の解決を支援するという。

地震などの災害に加え、インフラの劣化は日本の大きな課題だ。道路、上下水道、橋、ダム、トンネルなどの社会インフラの多くは、高度経済成長を機に整備されたもの。実に完成から50年以上が経過しており、経年や環境で劣化が確実に進んでいる。「WAKONX」のような取り組みにより、インフラ劣化の課題解決が進むことを期待したい。