ロボットが人間のように周囲の状況を理解し、適切に行動するために欠かせないのが「センサー技術」です。この技術は、温度や圧力、距離など、様々な情報を正確に検知し、ロボットの頭脳となるコンピュータに伝える重要な役割を果たしています。
産業用ロボットからサービスロボットまで、様々な場面で活用されているセンサー技術について、その基本から具体的なセンサーの種類まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
ロボットが正確に動作するためには、自身の状態や周囲の環境を把握する必要があります。これは、人間が五感を使って周囲の状況を認識しながら行動するのと同じです。
センサー技術は、人間における感覚器官のように、ロボットに「感覚」を与える重要な役割を担う技術だと言えます。
センサー技術は、様々な情報を検知し、電気信号に変換する技術です。例えば、光や音、温度、圧力などの物理的な変化を検知し、ロボットが処理できる情報に変換します。人間に例えると、目や耳、皮膚の感覚のように、外部からの刺激を脳が理解できる信号に変える器官のような働きをしています。
ロボットは、単にプログラムされた通りに動くだけでは、変化する環境に適切に対応することができません。例えば、製造ラインで部品を組み立てる際、部品の位置がわずかにずれているだけでも、正確な作業ができなくなってしまいます。センサーを使うことで、ロボットは状況の変化を検知し、それに応じて動作を調整することができます。
センサー技術には、大きく分けて「内界センサー」と「外界センサー」の2種類があります。これらは、それぞれロボットの「自己認識」と「環境認識」を担う重要な要素です。
内界センサーは、ロボット自身の状態を監視するセンサーです。代表的なものとして、モーターの回転を検知する「エンコーダー」、傾きや回転を検知する「ジャイロスコープ」、加速度を検知する「加速度センサー」などがあります。例えば、二足歩行ロボットが転ばないように姿勢を保つためには、これらのセンサーが不可欠です。
(右)STマイクロエレクトロニクス社製 エンコーダー (左)秋月電子製 加速度センサー
温度センサーも重要な内界センサーの一つです。モーターの過熱を防いだり、適切な動作温度を維持したりするために使用されます。また、位置や角度を正確に測定する「ポテンショメーター」は、ロボットアームの関節の動きを制御する際に重要な役割を果たします。
外界センサーは、ロボットの周囲の状況を把握するためのセンサーです。主なものには、物体を視覚的に認識する「カメラセンサー」、距離を測定する「距離センサー」、接触や圧力を検知する「圧力センサー」などがあります。これらのセンサーにより、ロボットは周囲の物体や人を認識し、安全に作業を行うことができます。
特に産業用ロボットでは、画像認識カメラと距離センサーの組み合わせが多く使用されています。例えば、部品の位置や向きを認識して正確にピッキングを行ったり、人が近づいてきた際に安全に停止したりするといった動作が可能になります。
(引用:Chematels掲載、ロボット工業会監修日刊工業新聞社編『トコトンやさしいロボットの本』)
センサー技術の進化は、ロボットの能力を大きく向上させています。しかし、その活用には適切な理解と対策が必要です。ここでは、センサー技術を導入するメリットと、活用する際の注意点について説明します。
高性能なセンサーの搭載により、ロボットはより正確で柔軟な作業が可能になります。例えば、高精度なカメラセンサーと距離センサーを組み合わせることで、形状や位置が不規則な部品でも正確にハンドリングできるようになります。また、力覚センサーを使用することで、繊細な組立作業や、人との安全な協働作業も実現できます。
センサー技術を効果的に活用するには、適切な環境整備が重要です。例えば、カメラセンサーは照明条件に影響を受けやすく、距離センサーは反射や干渉に注意が必要です。また、センサーの定期的な点検・調整やメンテナンスも欠かせません。これらの管理を怠ると、ロボットの性能が十分に発揮できない可能性があります。
採用するセンサーの選択は、用途や環境に応じて慎重に行う必要があります。高性能なセンサーは高価である一方、必要以上の性能は投資効率を下げることにもなります。また、複数のセンサーを組み合わせることで、より信頼性の高いシステムを構築できますが、コストと性能のバランスを考慮することも忘れてはいけません。
センサー技術はロボットの「感覚器官」として、その性能と可能性を大きく広げています。特に、近年はAI技術との組み合わせにより、より高度な判断や行動が可能になってきています。
(引用:慶應義塾大学ハプティクス研究センター)触れたものの質感や重さを感じ取る研究も進んでいる
今後はセンサーの小型化・高性能化がさらに進み、よりインテリジェントなロボットシステムの実現が期待されます。また、コストの低下により、中小企業でも高度なセンサー技術を活用したロボットの導入が進むと考えられます。
ロボットに「感覚」を与えるセンサー技術は、これからもより安全で効率的な産業現場の実現に貢献していくでしょう。