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2024.11.29

【インタビュー】スマート農業は「短期的視点」も重要

2019年に住み慣れた首都圏から山形に移住。「人とロボットが共生する社会の実現をYAMAGATAから」を掲げ、山形でスマート農業に取り組む佐々木剛氏が目指すのは、ロボットを活用した未来の農業だ。しかし、佐々木氏はスマート農業に必要なのは「短期的視点」だと語る。持続可能なスマート農業をいかに普及させようとしているのか、話を聞いた。(文=RoboStep編集部)

佐々木 剛 氏

ビジネスソリューションパートナーズ合同会社 代表社員/CEO。1968年東京生まれ。2019年に首都圏から山形県東根市に移住。自身の経営する会社も移転し、地方事業強化を推進。「人とロボットが共生する社会の実現をYAMAGATAから」を念頭に、2021年4月にスマート農業コミュニティサロン「納屋ラボ」を設立し、県内でのロボットビジネスを推進中。同時に製造業・物流業のコンサルタントとして、業務改革や定着化支援・DX戦略構想立案を手掛ける。NPO法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)では、RobiZy事務局 メンバーシップ・マネジャー、農林水産部会長を務める。

― 2019年に山形に移住されたそうですね。現在住んでいる東根市にご縁があったのですか

実は山形とは縁もゆかりもありませんでした。元々、妻とはいつか移住したいという話をしていて、日本の様々な候補地を妻と訪問しました。妻は雪国出身なので、雪が降るエリアがいいね、という話になり、東北エリアを検討し、最終的に現在の場所に決めました。山形県の南部に位置する東根市は、実はとても交通の便が良い。空港も新幹線の駅も近く、仕事をする上でも最適な場所でした。山形県はとてもいいところですよ。とにかくご飯が美味しい。海や山の幸、果物、お米…旬な食材をいつでも楽しめるのが最大の魅力です。お酒もとても美味しいですよ(笑)

― スマート農業は移住前から取り組んでいたのですか

驚くかもしれませんが、移住するまで農業には一切関わったことがありませんでした。業務改革やDXを支援するコンサルタントとして活動していた私が、スマート農業に取り組むようになったのは、日本最大級のロボットの業界団体、ロボットビジネス支援機構(RobiZy)のメンバーに加わったことがきっかけです。2017年に設立されたRobiZyで「農林水産で部会を作りたい」という話があがったのがちょうど私が山形に移住するタイミングで、「山形に移住するなら農林水産でしょう」ということで、農林水産部会長に拝命された(笑)今でこそ、不思議なご縁ときっかけに感謝していますが、当時は不安しかありませんでした。

― 山形の農業の課題はどういったものなのでしょう

高齢化と農業就業人口の減少は日本全国の課題ですが、山形も深刻な課題です。特に農業就業人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が半数を超え、今後さらに農業就業人口が減ることが懸念されています。こうした問題を解決するのがスマート農業です。スマート農業は、ロボット技術やICT技術を活用し、省人化・精密化や高品質生産を実現する等を推進する新たな農業のこと。先進技術を駆使することで、農作業における省力・軽労化を進めることができるとともに、新規就農者の確保や、栽培技術力の継承などが期待されています。

― スマート農業の推進は順調に進めることができたのでしょうか

とんでもない。地元の生産者の皆様にすぐに受け入れて頂くことはできませんでした。首都圏から移住してきた農業の素人が「ロボットを導入しましょう」といきなりお伝えしても受け入れてもらえるわけはありませんよね。生産者だけでなく、自治体や教育機関へも足を運び、地道に関係を構築していきました。2021年4月にはスマート農業コミュニティサロン「納屋ラボ」を設立し、若手生産者にも気軽に立ち寄ってもらえる場所づくりも行いました。

「納屋ラボ」はカフェのような心地よい雰囲気の場所。地元の若手生産者が気軽に訪れることができる場所になっている

「納屋ラボ」の活動は、コミュニティサロン設立前の2020年春にのうぐばこ社の温度センサー・定点カメラを、山形大学農学部片平光彦教授に相談し、高坂実験圃場に設置したことから始まりました。その後、北村山・最上・庄内地域をメインに活動エリアを拡大することができました。

― 納屋ラボでは、スマート農業の実証フィールドとして「納屋ラボ田んぼ」を持っているそうですね

そうなんです。山形県新庄市の米農家「米香房Gratia*s」協力のもと、スマート農業の実証フィールドとして運用しています。ここで作っているのは、一般市場で出回らない幻のお米「さわのはな」です。農林水産部会長を務めるRobiZyの会員企業とも協力しながら、様々な実証実験を行っています。

のうぐばこの定点カメラ・温度/湿度センサーを導入したことで、スマホから作物の状況や気温が確認できるようになりましたし、水管理ロボット「Paditch」を導入したことにより、水門の開閉をスマホで遠隔操作できるようにもなりました。生産者は、現場に行かずに対応が可能なことが増え、移動にかかっていた1日2時間ほどを付加価値の高い有機野菜の生産にあてることができるようになりました。

― スマート農業の成功の秘訣はズバリなんでしょうか?

近道はありません。まず生産者にとってロボットを導入することは、ドラマや小説の世界で、自分ごとされていないケースがほとんどです。自動運転のトラクターやドローンで、農業がスマートになる世界は、投資ができる一部の人のこと、と思われがちだからです。

私が目指すスマート農業はもっと地に足のついた「短期的視点」です。私は生産者の皆様には、お小遣いでセンサー1つ取り付けるところから始めよう、とご提案しています。持続可能な取り組みにしていくためには、まずはIoTを少額から導入し、今まで経験や勘に頼っていた情報をデータ化することから始めます。目配り・気配りにIoTは最適なツールです。そのうえで、知恵と判断にAIを導入。最終的に協業作業にロボットを導入する。そんなステップを描いています。

スマート農業は「大きく育てるために、小さく始める」ことが大事。おかげさまでこうした取組みが山形に少しずつ広がり、メディアの方から取材される機会も増えてきました。

将来的には、地域でのコミュニティ化を促進し、農業を中心としたバリューチェーン促進を進めたい。農業から魅力ある地域に活力を生み出し、持続可能な街づくりを支援していきたいですね。

RoboStep取材陣は、山形県東根市にある「納屋ラボ」に訪問しインタビューしました。佐々木氏はとてもパワフルで情熱溢れる方! インタビューを通じてRoboStep取材陣が元気をもらいましたし、何より山形がとても好きになりました。納屋ラボのスマート農業の取り組みは今後もRoboStepで追っていきます。

インタビュー後には、スマート農業がおこなわれている現場をご案内頂き、山形の生産者や自治体関係者の皆様からたくさんのお話を伺うことができました。インタビューの内容は2025年1月20日に発行予定の『RoboStep Magazine』(RobiZy特別号)で掲載予定です。改めてRoboStep内で告知をしますので、是非2025年1月20日をお楽しみに。

「納屋ラボ」田んぼの前で、生産者の高橋さん、JapanStepのプロデューサーも交え記念撮影!山形のスマート農業、熱いです!