2024年11月13日。エヌビディア主催の「NVIDIA AI Summit 2024」で創業者/CEOジェンスン・ファン氏も熱を込めて語り大きな話題となった「フィジカルAI」。産業用ロボット適用範囲をさらに拡大すると期待されるフィジカルAI。トヨタや安川電機でも導入される「フィジカルAI」とは?(文=RoboStep編集部)
産業用ロボットの世界シェアでおよそ4割を誇る日本は一大生産国だ。一方で、その市場の伸び率は鈍化しているとも言われる。エヌビディア主催の「NVIDIA AI Summit 2024」の基調講演に登壇した創業者/CEOのジェンスン・ファン氏は「市場をさらに大きく成長させるには、より柔軟で、多様な環境に適応可能なロボットが必要だ。その鍵になるのがフィジカルAIだ」と述べる。
「フィジカルAI」とは、センサーやアクチュエーターを活用し、リアル世界の情報を収集・処理し、まるで人間が判断しているかのように適切な行動をとることができるAIシステムだ。人と協業するヒューマノイドロボットや複雑な作業タスクをこなす操作アームなどを体現する。
エヌビディアが公開する「フィジカルAI」の解説動画(英語版)
トヨタは、エヌビディアが開発・提供している、リアルタイムの物理演算エンジン「NVIDIA PhysXとエヌビディアが開発した3D構築のためのプラットフォーム「Omniverse」の精度を活用し、ロボットの作業とロボットの動作の再現を検証している。「Omniverse」は、メタバースプラットフォームを構築でき、工場やその他の環境のデジタルツインを可能にする。トヨタは、質量特性、重量、摩擦などを「Omniverse」でモデリング。結果をテストの物理的表現と比較できる環境を構築。これにより、溶接、操作、ロボットの動作の処理に役立つという。
さらに、高度なスキルを必要とする問題やスループットを向上しつつ、鋳造ラインにおける熟練従業員のノウハウを再現している。これにより人間が高温で厳しい環境作業を回避することを目指す。
安川電機は、自律性を備えた次世代ロボット「MOTOMAN NEXT シリーズ」を2023年から発売している。ロボット自身が周りの環境に適応しながら判断するという画期的な製品で、工場以外にも、食品、物流、医療などあらゆる業界の自動化をもたらすと期待されている。ここでは、エヌビディアが提供するロボティクス開発を支援するプラットフォーム「NVIDIA Issac」と「Omniverse」を活用し、高度なロボティクスを実現している。
NVIDIAアクセラレ-ションライブラリとAIモデルのリファレンスワークフローである「NVIDIA Issac Manipulator」を活用し、産業用アームロボットにAIを統合し、幅広い自動化タスクを実現できるようにしている。
ジェンスン・ファン氏は、フィジカルAIの実現には3つのコンピュータが必要になると語る。「1つ目は、ロボットに組み込むAIモデルの学習を行うコンピュータ。2つ目は、AIモデルがリアルの場で正しく動くのかテストするためのシミュレーション。このシミュレーション環境が「Omniverse」です。3つ目は、Omniverseでの検証を完了したAIモデルをロボットの中で効率良く実行するためのエッジAIシステムです」
フィジカルAIは、生成AIと高い演算処理能力を持つBlackwellを組み合わせることで、ヒューマノイドロボットがいよいよ実現可能になったと語るジェンスン・ファン氏。エヌビディアでは、汎用人型ロボットの開発を可能にするプロジェクト「GR00T(読み方:グルート)」を進めており、講演でも人の動きを生成して効率的に学習を行うための「GR00T-Mimic」などを紹介。日本のロボット業界に力強いメッセージを送った。
「日本はフィジカルAIによるロボットのAI革命をリードする国にふさわしい。日本が持つメカトロニクス技術は、世界でも大きな強みです」(ジェンスン・ファン氏)
ジェンスン・ファン氏は「フィジカルAI」は生成AIの登場で進化を続けるAIアプリケーションの有用な事例だ、と語った